再会 ⑤
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「足りないよ」
と、木葉くんは言った。
私は少なくとも納得していたし、今日の積み重なった偶然に納得いったのだ。
だから、私は、彼の言葉に疑問を抱いた。
「あさひを殺す理由がないじゃないか」
「……それは、人間を恨んでいるから――」
人間のために死にたくないから、と私は思っていたのに、彼は首を振った。
そうではないと、彼は知っているように、唇を噛んで――。
「人を殺す理由に、何もないわけがない。姉妹だというならなおさらだ」
言うべきか、言わないべきか、彼は迷っているようだった。
私は彼の言葉の先を待っている。
木葉はちらりと私の顔を見た。
いったい私がどんな顔をしていたのか、彼の表情が強張ってしまう。
山から下りてくる雪風が、乾ききっていない木葉の癖っ髪を揺らしている。
一際強い風が、何にも縛られていない自由な私の髪を引っ張っているようだった。
「ふふ」
姉の笑い声は、またやってきた強い風にかき消されていく。
「わたしだっているのよ」
突然に止まった風。
まるで時が止まっているようだった。
「わたしだって!」
防寒着を脱ぎ捨てた姉を、私は動けないまま見ていた。
身体中の月光を反射する金属の光は、一目で数えることはできない。
おびただしいとも言える魔具の輝きに圧されて、私は後ずさりした。
「わたしだって、生きていたのに!」
ヒステリックな叫びと同時に展開された数十の術式は、収束し、収束し、収束し――複雑に絡み合う糸のように――純粋な魔力の塊となって射出される。
まばゆいほどの光を発する光弾は、風を切り一直線に、私の胸に向けて放たれたのだ。
姉が私のことを恨むのは、当然のことなのだと思う。
気になったことはあったのだ。
母の遺書に姉の名前がなかった時、姉はどんな思いでそれを読んだのだろうかと。
母に見限られ、妹に見下され、そうして生きてきた彼女が、私を殺したいというのであれば――。
『死にたくない』
どうして私は今、彼の言葉を思い出すのだろう。
それは彼の心の中の言葉だ。
姉に洗脳されて私のいた家にやってきた彼を追い出さなかったのは、それだけは洗脳でも何でもない。
きっと共感したのだ。
自分にこれから起きることを、死を受け入れるということを、私はずっと怖かったのだ。
太陽になって、世界を照らして、命を燃やして、そうなった私に意識はあるのだろうか。
自らの体を燃やすことに、痛みはないのだろうか。
ずっと世界を見降ろし続けることが、つまりそれしかできないということが死と同義なだけなのだろうか。
いや、きっと燃え始め飛び上がる頃には、私という存在も燃え、消えていくだろう。
考えることを忘れ、生きていたことを忘れ、なぜそうなっているのかもわからないまま――やはりそれは、正しく《死》なのだろう。
ここで姉に殺されることと何が違う?
ここで姉に殺されるのであれば、姉は救われる。
姉に抵抗すれば、見知らぬ人々を救える。
姉がこうも歪んでしまったのは私自身のせいだ。
生まれた時点で、姉の邪魔者でしかなかったのだと思う。
でも私は、彼女がどんなに私のことを恨んでいたとしても――。
育ててくれたことを、感謝していたのだから。