表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽の魔女  作者: 重山ローマ
プロローグ 太陽の魔女
38/80

再会 ④

 44


「母の使命の残り日数を数えた。

 そろそろ限界だろうとは思っていたけれど、それが今日だと気付いたときには、いよいよだと思ったわ。

 でもわたしは嫌だった。


 わたしは透視の魔法に優れていた。

 わたしの透視魔法を透視というには少し無理がある程度には。

 なにしろわたしは、世界の隅々まで見渡すことができたのだから。

 遠くまで、観ることができたのだから。

 汚れきった肥溜めを、隅から隅まで――。


 見れば見るほど、わたしは人間のことが嫌になるだけだった。

 そのうち、人間なんかのためにわざわざわたしが動く必要なんてないと思いはじめてね。


 それに、わたしなんかより優秀な妹がいる。

 だからわたしは嘘をつくことにしたのよ。


 でも気づいてしまったわ。

 わたしが例え使命を無視したとしても、優秀な妹がいる限り、平和にのんびり生きている人間共は死に絶えないとね。


 残念ながらわたしが妹に勝っているのは、戦闘とは何の関係もない二つの魔法だけ。

 人間を殺し尽くすためには、世界を救う妹を始末するしかない。


 でも、妹には勝てないとわたしは知っている。

 どんなに不意を突こうとも、無意識で炎を操るあなたには勝てるはずがない。

 魔法が使えない状況でもなければ、あなたを殺すことはできないと思ったのよ。


 あら、ちょうど母が限界を迎えるわ。


 そのときに合わせて妹に準備をさせ、魔法がつかえない状態にすれば、わたしにだって勝機がある。


 魔具のことを教えるかどうかだけは最後まで悩んだわ。

 教えてしまえば、それはわたしに襲いかかる凶器となる。

 魔具に封じ込めることのできる程度の弱々しい魔法であっても、わたしの全力で敵わないでしょうから。


 でも、もし魔法が使えない日に使う、魔法の代わりのものを教えなければ、天才である妹がなにを編み出すのか恐ろしかった。

 外から見てなにを作っているか知ったとしても、それが魔具を超えるものだったとしたら?

 だから魔具を教えるしかなかった。


 とすれば、わたしがすることは決まってきた。


 魔法を使えない日に、山ほど作らせた魔具を全て消費させ、逃げ出さないように使命を全うする義務感を確かなものにさせる。

 義務感で魔法を最後まで使わせず、殺すしかないってね。


 外に出た時、まずは、外を覗いていた時に見つけていた少年に接触したわ。

 壊れきった生存本能の塊。

 そんな人間がいるのかと驚いたもの。

 一度観ただけだったのに、ずっと忘れていなかった。

 忘れられなかったから――。


 だからわたしは彼を、家に送り込んだ。

 そこならば、安心できる場所があると、彼のためだけに掘った洞窟を、安心できる場所だとインプットしておいた。


 でも、結界効果で入れない可能性があったから、妹にも、家は安全な場所だと強く刻んでおいた。

 結界の維持を忘れた頃合いを見て、彼を侵入させたのよ。


 思惑通り、あなたは彼の本質にたどり着いた。

 どういう人間なのかを理解した。


 そうして、まずはひとつ、使命の義務感をはっきりさせることに成功したの。

 助けてあげなければ、という義務感を、魔女の使命に重ねることに成功したってことよ。

 一番難しいと思っていたことに成功したのだから、もう後は楽だったわ。


 魔法士でありながら、何も気づいていない女学生に接触し、魔女であると思い込ませた。

 彼女はひとつの魔法しか使えないけれど、鍛えれば妹に届く可能性があったからね。

 魔法の性質上、ほぼ常時発動し続けていたからか、魔力量と魔力行使は目を見張るものがあったわ。


 死にたくても死ねない。

 それは、太陽の魔女を殺すことで救われる、と。

 わたしは彼女に植え付けた。

 あとは、彼女は一人でに育ってくれる。

 妹を殺す駒に成長していった。


 想定外だったのは、わたしの思っていた以上に、魔法士として成長したことね。

 彼女一人だけでも、もしかしたら妹に届くのではないかと思えたから。


 途端に恐ろしくなった。

 その矛先が、何かの拍子にわたしに向いてきたらと思ったらね……だから、わたしの気がついたら、わたしを疑ってしまったら死ぬようにしておいた。


 そのせいで、彼女だけを当てにするわけにもいかなかったから、ちょっとおもしろそうな魔法士を一人捕まえて、彼女に接触させた。

 お互い何も話す必要はなかったわ。

 会ったという事実があれば、会話内容なんていくらでも植え付けられる。


 こうしてわたしは、二人の魔法士を妹が出てくる日にぶつけることができた。

 もちろん、ただぶつけるだけでは、妹が嫌になって逃げ出しかねないから、さっきも言った通り、ずっと温めてきた少年を、その場に向かわせる、と。


 さて、まだ話すことはあるかしら?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ