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太陽の魔女  作者: 重山ローマ
プロローグ 太陽の魔女
36/80

再会 ②

42


 空木木葉は気づいたようだ。

 いや、気づいてしまったのだろう。

 そして、なんらかの危険を察し、吹雪始めた山頂で頻りにあたりを見渡している。

 その姿を不思議そうに眺めている満山光みつやまひかりは、彼の言うことが気になっているようである。


「なんで、うちは魔女ちゃうの?」


 空木木葉は、どれだけ見渡しても妙な気配を感じ取ることもないので、彼女に改めて向き合った。


「魔女はたくさんの魔法が使えるけれど、君はひとつだけじゃないか?」


 彼の言っていることは間違いではない。

 何も食べていないような体で、平気に生きているのも、身体強化のおかげだ。


「……」


 満山光は、そう言われても納得できない様子である。

 そもそも彼女が魔女だと言い張っていたのは、そう誰かに言われてからのことで、それまではただの女子高生として暮らしてきたのだ。


 ただ運動神経のいい女の子として。


 何も気がつかないまま、空木木葉のように、自分は魔法が使えるのだということを知らないまま。


「光ちゃん、君は今、嘘つかれていたって言ったよね? いったい誰に?」


 一度気づいてしまえば、人間は答えがわかるまで動いてしまうものだ。

 彼はもうおおよそ人間と言えるような存在ではないけれど、根元にあるものは人間だったころと何一つ変わっていない。

 まったく、面倒なことをあさひはしたものだ。


「名前は知らんし、顔も覚えてへんけど……」


 二年も前のことになるので、彼女の記憶は曖昧になっていた。

 たった一度の出会いをはっきりとは覚えていられない。


「太陽の魔女や」


 と、満山光は答えたけれど、彼は首をかしげた。


「あさひが?」

「いいえ、違う人」


 あさひの他に太陽の魔女がいたという話を、彼は知らない。


「二年後、この街の古家から太陽の魔女がでてくるんやって。だから、うち――」


 不自然に止まった言葉を、彼は訝しげに見た。

 パクパクと何かを言おうとしている口先は、音も発せずに動いているだけで、微かに震える瞳だけが、彼に必死にメッセージを届けようとしている。


「ひ、光……ちゃん?」


 異変が起きていると察した彼は、弱々しい肩を揺すった。

 肩を握ってほんの少し揺すっただけだったのに、崩れてしまいそうで恐ろしくなってしまったのかすぐに手を離してしまう。


 ああ、それは比喩的なものでもなく、本当に崩れていったのだけれど。


 それからの彼の判断は恐ろしく的確だった。

 間違いなく正しい選択だったし、褒められるべきものであったとここで言っておく。


「お前……!」


 彼は選択したのだ。

 あのまま山頂にいれば、何かが起きるのは自分なのかもしれないと考えたから、もう何の制約もない彼は迷いなく、山頂にいた《月光の魔女に連れて行かれる》ことを選んだ未来を閉ざしたのだった。


「どうしたの? 空木木葉くん」


 つまり彼は収束する。

 今、彼女わたしと共に行動する彼に収束する。


「似ているっていう感覚はあった。そして、似ていないという感覚も、それぞれ観測していたから、僕は気づかなかったのか」


 彼を銭湯から連れ出したのが、あさひではないのだと、やっと彼は認識したようだった。


 銭湯の前で髪を濡らして待っていた彼女わたしを、あさひと似ているが違う気がすると観測する彼と、月光の魔女として動かしていた満山光を、あさひと似ているが違う気がすると観測する彼と。


 分岐した状態で、同じような感覚が同時に起きればどうなるのだろう。


 そんな個人的な興味で試してみたところ、彼がしたことは保留だった。

 まあいいだろう、とそのまま流して、あるがままに、されるがままに流されていくのだ。


「あさひじゃない!」

「別に、だからって、そんなに怒らなくてもいいって、思いますよ」


 妹じゃないからといって、彼には関係のない話なのだから。


「だって、死ななければいい、だけなのでしょうあなたって。その程度の話なのでしょう。なら、別にあさひじゃあなくたって、いいと、思いますが」


 空木木葉は、臆病な人間であると、彼女わたしは知っているのだから。

 そもそも彼に接触したのは、彼女わたしのほうが先だったのだから。


 彼女わたしが伸ばした腕を拒否したりはしない。

 どれほど彼女わたしに恐怖を抱いたとしても、受け入れてしまうだろう。


 ずっと彼女わたしの声を、受け入れてきたのだから。


 癖のついた前髪も、ぱっちりとした二重も、茶色の混じった瞳も、口元の二つ並んだ黒子も――全部、彼女わたしのものだ。


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