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太陽の魔女  作者: 重山ローマ
プロローグ 太陽の魔女
35/80

再会 ①

41


 ひとり夜空を見上げているあさひは、まだ出てこない少年のことを忘れて、考え事をしているようである――。



 死にたいという月光の魔女のことを考えなければ。


 死にたいという願望は受け入れられないけれど、それが本当の望みだと考えてみれば、自分のこれからすることとの関係性を不思議に思うのである。


 確かに私の邪魔をするということは、太陽の魔女を殺すということは、世界が滅びることに繋がるだろう。

 それは間違いないとして、私が納得できていないのは、そうまでしなければ死ねないという――まるで魔法に操られているかのような、制御しきれていないような、彼女の言い分である。


 もし、仮にそれが太陽の魔女のような使命のせいで死ねないのだとすれば、あくまでそれは使命でしかなく、例えば今の私ならば使命はあるけれどいつだって自害ができるのだ。

 使命を投げ捨てることは、誰にだってできるはずなのに、彼女はそれをしない。

 いや、そもそも、自害すればいいということにも気づいていないのかもしれない。

 死にたいというわりに、腕を怪我しても、わざわざ治していたのだから。

 自動で治るのではなく、わざわざ、治していたのだから。


 そもそもの死にたいという願望すら、本当だと私は思ったけれど、それは外部から与えられた――つまりは洗脳されたものなのかもしれないではないか、月光の魔女なんていう存在は存在しないのではないか。


 そう考えてみれば、彼女の言っていた話に納得の出来ない事柄があった。

 魔法使いへの命令である。


 魔法使いの存在は魔法そのものである。

 従って、彼らの意思は全て魔法自身にある自己維持の本能のようなものだ。

 それを捻じ曲げることはできない。

 それはつまり、魔法使いという存在そのものの死に繋がってしまうから。


 だから、魔法使いには、だれがどうしたって、命令なんてできるはずがないのである。

 月光の魔女固有の特殊な何かだとしたら、と私は納得しかけていたけれど、考えれば考えるほど、その不可能さは揺るがないものだと再確認することになった。


「……」


 思い出せば、今日の出来事はあまりに都合が良すぎる。


 私は今晩外に出て、使命を果たすつもりだったが、なぜその日丁度に、白兎が現れたのだろうか。

 確かに彼は索敵に優れた魔法士だったのかもしれないけれど、よりにもよってその日だというのは、おかしなことではないのか。


 どうして今晩に限って、彼は引き返してきたのだろうか。

 忘れ物なんてあるはずがない。

 だって彼は、学生鞄を持って秘密基地にくるけれど、その鞄から何かを出すことはないのだ。

 道具はもう全て、あの秘密基地の中にあるのだから。


 忘れ物があったから取りに来たと思うことは簡単だったけれど、きっとそうではない。

 もしかしたら彼は、意図的にあの場所に行かされたのではないのか。


 そもそもの話になるけれど、私が今晩を選んだことには意味がある。


「二年」


 二年が限界だと、姉の遺書にあったからである。

 私はそれを信じ、準備を続けてきた。

 姉が出て行ってから丁度二年が今だったのだ。

 太陽を見ると確かに、あと二年が限界だとわかったから、疑うことはなかった。


 例えばの話になるけれど、もし今から私が動き出し、太陽の魔女の使命を果たしたすれば、その期間はどれだけになるのかわからない。

 三百年は楽にできるとして、その倍、いや数十倍といけるだろうという推測は立つけれど、確実にその日に終わるということはわからない。


 どうして姉は、あと二年だとわかったのだろうかと、私は気になっている。


 私が今晩を選ぶことを知っているとすれば姉だけだ。

 姉はすでに使命を果たす最中であるはずだというのに、疑わずにはいられない。


 月光の魔女はいないのかもしれないが、太陽の魔女は――二人いるのではないだろうか。



 あさひはハッとして銭湯に振り返り、そこに空木木葉の気配がないことに気がついた。

 彼女はお風呂中だということを気にして、気配を感じ取ろうとしなかった。

 盗み観ることをしなかった。


 いつのまにか遠くに行ってしまった彼の反応を追い、どこに向かうべきかすぐに判断し走り出す。


「……っ!」




 その目は誰を観ているのだろう。 


 名前も知らない彼女わたしのことを観ているのかもしれない。


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