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太陽の魔女  作者: 重山ローマ
プロローグ 太陽の魔女
34/80

月光の魔女 ④

40


 月光の魔女を疑うのは、逆らえるからということだけではない。


 初めて目の前に現れた時から、彼女は魔女だと言う割に魔法をほとんど使わなかった。

 民家の屋根から屋根、高層ビルを楽々と飛び交うことは、決して常人の力ではないだろう。

 間違いなく魔力を用いた魔法である。

 そして、もうひとつ彼女がしたのは鎌を振り回したこと。

 その体ではできるはずもない重たそうで扱いにくいものを振り回したのだ。


 そして、彼女はいま、刃を体に突き刺している。

 ぼくが手首を折ったあと自分で治していたけれど、その時と同じように、彼女は「いたーい」と全く痛くもなさそうに笑って、傷口を押さえている。

 あとは、人間離れした体つきだろうか。


 どれも別々の魔法のようだが、しかし大きく見れば、それはひとつの魔法だと考えることだってできるだろう。

 白兎のことを思い出すべきだ。


 彼の魔法は、光ちゃんの言葉を思い出すに、《群れを作る魔法》なのだという。

 洗脳し、自分の群れとして扱う。

 群れの長である白兎の命令はどれだけ不可能なものであっても絶対で、どれだけ離れても長の命令を聞く忠実な群れは、逆に長への連絡手段を持たないが、長は長として、群れ全体の事態を把握していた。

 気持ちの悪さは自前のもので、体の動きは鍛錬によるものだったのだろう。


 つまりぼくは、光ちゃんは魔法士ではないだろうか、と疑っている。


 魔女は初めから一人で、あさひを騙して――。


「いや」


 騙すことに意味などないだろう。

 彼女は本当に、死にたいのだということは間違いない。

 それがあさひのやることとどう関わるのかはわからないけれど。


 彼女の魔法は《身体強化の魔法》であると、僕は思った。

 魔法はいったいどんな種類があって、どんなことができるのかはわからないけれど、少なくとも光ちゃんがこれまでしてきたことは全て《身体強化の魔法》のみでできることであると思ったのだ。


「魔女って、いろいろな魔法が使えるのに」


 光ちゃんは傷口の細胞を強化し、回復を終えてぼくの言葉に耳を傾けた。


「君はそれしかできないんじゃないか?」


 逃げ出す準備とまではいかなくても、攻撃される可能性だけは考えていた。

 彼女が魔女ではないと確信しているからこそ、ここでもしぼくが死ぬことで選択が強制されたとしても問題はない。

 本物の魔女、太陽の魔女であるあさひのところに戻るだけだ。


「え?」


 と、惚けたような返事に、ぼくは何もかもの思考を止めることになる。


「そうなん?」


 まるで、魔女はいくつもの魔法が使えると知らなかったように。


「……じゃあ、うち魔女ちゃうん?」


 待て。


「そっか」


 待て。


「じゃあ、うち嘘つかれてたってことやんね?」


 それではまるで――。


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