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太陽の魔女  作者: 重山ローマ
プロローグ 太陽の魔女
16/80

覚悟 ①

20


「もう分かっているわよ! あの時点で私は姉の言いつけを守れてなかった! だから、あのとき――彼がいることに気がついた瞬間、守らなきゃいけないって動いちゃったんだから! もう情がうつっちゃってたんだから! だからやめるなら今よ。見捨てるなら今しかない。彼のただ一つの思いを知っている私ができるのは、世界を救うことなんだから! 彼を見捨てて、世界を救うことなんだから!」


 夜の街に響くあさひの叫びは、次第に雪に溶けていく。

 もし、姉が同じ立場にいたのならどうしたのだろうかと考えた。

 そんなこと考えても仕方がない。

 もう彼女の使命は終わっているのだから。

 魔力の少なさのせいで、その頑張りの期間はたった二年にしかならなかったけれど、彼女はもう置いていった後なのだから。


 あさひは、かごバッグを逆さにして中身を落とした。

 ガチャガチャと音を立てて雪に沈む。

 何がどれだけあるのか、あさひは確認しているようだ。


 残りの魔具を睨むように確認するが、睨んでいても増えることはなく、これから数を増やすこともできない。

 彼女が魔力を消費するということは、それだけ星の寿命が縮まるということになる。

 だからこそ彼女はこれまで、魔法を使うわけにはいかなかったのだ。


 姉を失ってから一年魔具を作り続け、残りの一年は魔力を体内に溜め込むことだけをしてきた。

 おそらくその膨大な魔力量のせいで、白兎という魔法士に居場所がばれてしまったのだとあさひは考えた。

 しかし、今の彼女の魔力量に達したのは数ヶ月前になる。数ヶ月の間溜め込んだものが流れてしまわないように維持していただけだ。

 考えてみれば数ヶ月の間見つからなかったということになる。


 妙な気配を感じ取り、広げた魔具をバッグに投げ込んだあさひは、すぐに白いローブを確認した。

 すでにその正体に気がついているあさひである。


 魔法士は魔女と違い、一つの魔法だけが扱える。

 こういうと魔女であるあさひは怒ってしまうかもしれないが、一つの魔法に特化した魔女のようなものだと考えるのが楽だろう。

 魔女のように万能ではないが、たった一つでも極めれば魔女に届くこともあるだろう。


 あさひは白兎の分身、同じ姿をした白いローブが彼に操られているものだと分かっている。

 魔力反応が微量なことから、分身である白いローブたちには魔法が使えないと気がついていた。

 どうやって分身を作り出しているのかだけがわからなかったが、その光景はすでに見た。

 共に逃げていた《空木木葉》が、白兎のローブの中に飲み込まれていく様子をはっきりと見てしまったのだ。


 しかしだからといって、それはただ服の中に入れられただけで、その程度で洗脳できるほど人間は弱くないし、そこまで魔法は便利ではない。

 いまでこそはっきりと説明しなかったことに後悔するあさひだったが、詳しく説明することで余計にそうなってしまうのではと考えてしまったのである。


 洗脳するにはより深く心に侵入する必要がある。

 洗脳の魔法を知識だけでは知っているあさひは、その一番手っ取り早い方法を学んでいた。

 これから自分の体に何が起きるのかを理解させる――納得させる。

 納得するということは、その時点で、深く侵入できてしまっているのだ。


 納得するなと曖昧に彼に言ったけれど、やはり曖昧すぎてうまくいかなかったのだ。

 白兎が人をなんらかの方法で洗脳し操っていると、はっきりと教えるべきだったのかもしれない。

 しかし結局そんなこと教えても、彼は逆らえなかっただろう。


 白兎の魔法は、分身の数が多いほど、人を探すことに関してはこれ以上とないものなのかもしれない。

 魔力の反応をなんとなく感じた場所へ分身を向かわせ、後はしらみつぶしに足で捜索する。

 だからこそ数ヶ月の間、あさひは見つからなかったのだろう。


 しかし今になってみれば、この街にあさひがいるとばれてしまっている。

 捜索範囲は著しく狭い。

 見つかっては逃げを繰り返しても、いずれは追い込まれてしまう。


 ならば彼女のするべきことはひとつだ。


「彼を助ける。一緒に逃げるんだから」


 彼女のするべきことは、白兎の分身を減らし逃げやすくすることである。


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