姉 ②
13
一人になってから初めての朝は、自然と涙が出た。
ようやく決心がついたあさひは、受け取った本を卓袱台に置いた。
自分の部屋ではなく、卓袱台だけの部屋でそうしようと思ったのは、寂しさを誤魔化すためだったのかもしれない。
指を鳴らして小さな火を起こしたあさひは、一度胸に手を置いて深呼吸をした後、ゆっくりと本を開いた。
それは遺書のようなものだった。
聞いたことのない名前の後、ずらずらと手紙のようなものが書かれている。
震える字の中にある名前は、次のページ、また次のページへと続いている。
「……」
もう残り数ページといったところで、あさひは知っている名前に気がついた。
「お母さん……」
おそらくそのページは、あさひの祖母のページである。
母を置いていくという言葉が滲んで読みにくくなっている。
どの人のものも最後になる程文字は乱れ、中には誤魔化すように墨で塗りつぶすようにしてあるものもあった。
あさひは覚悟して、一枚捲った。
『あさひへ』
母の遺書は、その言葉から始まった。
そこであさひの目は止まる。
おかしいと、目を擦ってみても、そこにあるのは彼女の名前だけだ。
姉の名前はない。
もしやとめくってみたが、そこには姉の文字が並んでいるだけだった。
『あさひへ』
同じ言葉だ。
一度前のページに戻り、母の言葉を飲み込もうとするけれど何も頭に入ってこなかった。
その言葉たちはあさひだけに向けられたもので、ずっとこれを持っていた姉を思い、胸を押さえた。
きっと姉も目を通したのだろう。
あさひと同じように、いなくなった次の朝、一人で読んだのだろう。
あさひは姉のページを開いた。
それが最後のページで、それより後はない。
あさひが書き残すスペースはない。
おそらく姉の仕業なのだろう、彼女より後にあった白紙のページが全て破られてしまっていたのだ。
使命を背負うのはあさひで最後なのだから、後に伝えるものなんて何もないのだから。
まだはっきりと使命を理解できていなかったあさひは、じっくりと姉の言葉を追いかける。
『あさひへ
わたしはきっと、あなたに全てを話すことはできないでしょう。
ですから、ここに全てを残しておきます。
太陽の魔女の一族である私たちの使命のことを。
きっとわたしは2年しかもちません。
それまで1年魔具を作り、残りの1年魔力を溜め込むことに使うのです。
あなたならできると信じています』
あさひは、姉のよく話してくれた物語を思い出す。
それは童話のようなもので作り話なのだとあさひは思っていたけれど、姉は自分ではうまく話せないから、童話にでもして教えようとしていたのかもしれない。




