初の夜 -2-
とある街のとある高校、街を同じくしてとある中学・とある会社、突如として彼らの生活が突如傾く!
なんてとりあえず書くけどまだまだワイワイやってるだけです。
時間というものは過ぎ去るのが本当に早い。最近になってつくづくそう思う。たった二年程度の話だがその時間の間で様々な事を経験した。でも、今周りに居る皆はそんな事知らないし知る由もない。話したところできっと記憶にも残らない。だって、平行世界の話なんて誰が信じるのだろうか。ふとした拍子に突然飛ばされ、帰ってきた頃は二年後。泥と血にまみれ、頬は窶れ、立っている事が奇跡とまで言われた。実際、自分でもそのときはどこの筋肉をどうやって動かしていたのかむしろ鮮明に覚えていた。幾つもの筋が、限界の警鐘を鳴らしていたからだ。それでも立っていた。それでも歩いた。目に届く光が変わった瞬間から記憶は途切れた。次の景色は…何処だっただろうか。心の穴が空いたまま、そんな出来事から約二年。行きたい高校があったわけではないが、決して成績が悪いわけでもなく、高校への進学は二年のブランクも大した問題にはならず無事に終わった。そして今日、無難な高校生活初日、というところだ。一応、何となく進学希望としているがはっきり言って何も考えていない。どうでもいい、何て言うつもりは無いが何かやりたいわけでもない。ただ静かに、今はこの日常を噛み締めていたい、そう思う事が多い。
入学前に学力テストを行っていた。今はそのテストを返されているところ。中学の前半分の勉学の部分は詰め込みで何とか覚えたため、引っ張り出すのはやはり苦に思えるがそれでもテストの点は上位に食い込む部分らしい。別段嬉しい訳ではないが。
と、突然
「ねね、どうだった?」
入学式後のHRの時、隣の人はすぐに俺に話しかけ、名前を聞き出された。向こうも名前を言ってきた気はしたが、特に興味も沸かなかったので覚えてない。
「…97点」
特に隠す必要も無いので正直に白状する。
「かぁーっ!負けたぁー」
そう言ってパッと俺の机に用紙を置いた。67点。勝ってる。別段嬉しい訳ではないが。
「もう見た感じ頭良さそう!って感じなんだよねー、」
何を言っているんだ。
「あたしさぁー、大学受けるんだけど、学力が危ないって言われちゃって。」
聞いても無いのに色々喋る。興味は無いが責めて咀嚼してやろう。3秒くらい。
「頭いい人って普段なに食べてるんだろうねぇー」
無視してもいいし、知らない、と言うのも簡単だ。
「二郎じゃない?」
会話となると自然と変化球を投げたくなってしまうのは悪い癖だと自負してる。
「なにそれ、いやいやそんなことより、」
「ハイ黙れ、いいか?今回のテストは…」
教師の言葉一つでピシャリと会話は閉ざされた。
…数時間後、図書館にて机を挟んで向かい合った状態で二人きりだなんて誰が思い付く。
私、永月綾葉は高校に入りすぐに恋をした。
随分突飛な話だということは自分が一番分かっている。でも、決して初対面というわけでもない。かなり昔のまだ小さい頃の話だが、雨上がりのマンホールで滑って転んだ私を助けてくれたのだ。あの出来事はその時の笑顔と共に今でも鮮明に思い出せる。泣きそうな私を励ましてくれた。転んだままの私の手を引っ張ってくれた。嬉しかった。逆光で顔はあまり見えなかったけど。その時に名前を聞いた、下の名前だけだけど。
それから十年経とうかという頃、行方不明だった子が遂に見つかった、なんてニュースを聞いた。普段はニュースを自分から、なんて事はまるで無いけど、その時は訳が違った。下の名前が同じだったのだ、あの時の子と。その時の顔は、目を伏せていて表情らしいものもまるで無くて、しかも窶れていて、別人だと信じて疑わなかった。場所も近いわけではなかったためその結論に自信を持つことに違和感を感じることも無かった。しかし、その窶れた顔とあの時の笑顔が妙に重なった。何かが引っかかった。でも、それを確かめる方法を私は知らない。多分会っても、向こうは覚えていないだろう。故に、この思い出は心の奥に閉じ込めていた。今更気にする必要も無い。そう思って思い出すことさえしなかった。
中学三年の頃の担任が今一気に食わず、とにかく勉強をし、見返してやろう、なんて考えては委員会も積極的に行い、元々得意だった運動もより磨きをかけていった。それでも、元が大したこと無いのであまり上に行くことも無かったが、いくつかの教科担当の先生からは、凄いことだ、大躍進だ、などと言ってくれて、頑張った甲斐はあったかな、なんて思えた。
高校進学は無事に第二希望となった。第一希望と比べ、家からの距離が遠くなってしまったとはいえ、偏差値的には大して差は無いので、まあ、文句は無かった。
しかし、そこから私の運命は大きく回り始める。まず、周りに見知った顔がほとんど居ない。この時点でかなりピンチに感じ始める。そう思いつつ最初の席に座ってみたら、隣の人がまさか、あの時の子だとは。ピンチから一転、奇跡が起きた気がした。
入学式の前に簡易的なテストを行っていた。式典が終わったらその答案を点数と共に返却された。私は期待と緊張であまり寝付けなくて、調子が良くなかったため、あんまりな点数となってしまった。しかし、その時の私はそんな事はどうでも良かった。隣の彼と話をしたい。何か接点を持ちたい。そんな事を考えていた。
なので、自然とこのセリフが出たのは内心、自分でも驚いていた。
「ねね、どうだった?」
学力テスト、なんて名前だが、ハッキリ言ってこの程度の問題で学力を計れるのだろうか。今回のテストに対する私の感想はこうだ。正直、最初は目を疑った。半分人に言われたからとは言え、ここまで不本意なレベルの低い問題を解かせられるこちらの身というのもあるだろうに。
私は中学校では、トップ争いをする程の成績を持っていた。近くで最も偏差値の高い学校に進学する予定だったが、私、初川魅子はそれを大幅に下げての進路選択をした。理由は簡単だ。友人に頼まれたから。まさかそんな事、と親にも言われたが、特にやりたいことも無く、父親もかなり寛容、と言うか適当か放任主義かで最終的にはこうして入った。入ったわけだが…
「初川さん、凄いね。百点取っちゃうなんて。」
近くのクラスメイトが話しかけてきてくれた。中学校が同じだった人が入学式やその手続きの際にほとんど見かけなかったことから察してはいたが、知っている顔は驚くほどに少ない。無論、クラスメイト全員とも話したこともなかった。
「今回は中学の復習みたいな部分も多かったし、何より得意な部分が多く出てきてくれたからね、ラッキーだよ。」
嘘。正真正銘の実力だし、実際は少し前まで苦手としていた部分が圧倒的だった。今はもう苦手分野など言葉だけのものだが。
「ちょっと答え見せてもらっていい?……うわぁ、やっぱり百点取っちゃうような人は解説の回答も書くこと違うわぁ…。」
「教科書の文章を少し弄って覚えたのを書いただけだよ、大したことはしてないよ。」
思っても無い言葉で会話を繋げる。決して成績が良かった事をひけらかすつもりはない。意識的な壁を作ってしまえばそれは後々に面倒な事になるのは今までの経験上、既に分かっている。なので、このクラスの中では「勉強のできるお姉さん」的存在になることを目標とする。
それにしても、と。
「結局別れちゃったなぁ、クラス。」
約束をした友人に思いを馳せる。クラス割りを一緒に見てから会っていない。話したいことがたくさんある。テストの点はどうだった、友達はもうできたか、先生はどんな人だった、他にもたくさんある。
「何してるんだろう、綾葉。」
放課後、隣のヤツに勉強を教えてくれと頼まれたので図書館に行き勉強をみてやってるのだが。
「あれっ、ここってどの公式を使えばいいんだっけ。」
「…教科書のページがまず違うぞ。」
コイツの事について一つ思った事がある。
「と言うかお前、」
「んー?」
「よくそんなので入れたな。」
「あ、あー、うん、あは、えへへ。」
目は泳いで、頬は笑顔を無理に作ろうとしてひきつっている。思わずため息が出そうになる。
「…この調子じゃ先が思いやられるな。」
「えっちょっと、それってどういう意味よ!」
「そのまんまの意味で受け取ってくれ」
コイツ一学期から追試もありえるな。当の本人は口を尖らせブーブーと言っている。
「ほら、さっさと次やるぞ。」
「えー、ちょっと速いよー…」
「お前、追試になりたいのか。」
「それはイヤ」
「じゃあ頑張りたまえ。」
若干反抗的な態度だが、問題にとりかかり始めた。そんな彼女を見ているとなんだか自分と重なるようなものがあった。丁度帰ってきて、一段落ついた後の話だ。こうして追い付くための勉強をやったのは今でも覚えている。正直忘れたいほどに苦行だったが。
「…俺だって、何の努力も無しにここにいるわけじゃ無いんだからな。」
誰の助けも無しに今、ここにいるわけじゃ無い。自分の言葉を自分で噛み締める。昔の、向こう側の時の記憶が溢れ出てきては胸をギュッと締め付ける。少し息が苦しくなった気がした。
「…私だって、頑張ってないわけじゃないもん。」
先程から口を尖らせたままの彼女がそう言って自分の意識も戻ってきた。ふと顔をあげると彼女と目が合い、自然な笑みを浮かべた。
「どうしたの?浮かない顔してるね。何か悪いものでも食べた?」
「馬鹿言え、そんな簡単に落ちてるもの食うように見えるか、お前じゃあるまいし。」
「あっ!何それひっどーい!」
そう返す彼女の顔はしかし怒っている訳ではなく、笑っていた。
「…お前ずっと笑ってるな。」
「だってその方が楽しいじゃん?」
自慢げに話す彼女、そんな時も笑顔を絶やさない。帰ってきた頃からいまいち表情に乏しかったらしい俺だが、久々に笑った。それを見た彼女がまたフフフ、と微笑む。
傍らに積まれた教科書の塔の頂上の名前を一瞥、その発音を、口は開かずとも咀嚼する。
永月、綾葉。
明日は明日の風が吹くらしいが、
「こりゃ強くなりそうだな。」
「ん?何か言った?」
「いや、独り言。それより、ほら、続き。」
「ごめんね!今日は一緒に帰るのは無理かも!(;>_<;)」
簡単な文面のメールを綾葉から貰い、駅から電車に乗るところ。
人の待っていた時間をなんだと思って、などと考えていた。
「これはクラスの中で友達とか作らなきゃいけないのかな…」
誰にも聞こえない声で独り言を呟く。心の中は寂しさと不安でいっぱい、のはずだが妙に高揚しているのも僅かだが感じた。私が新しい事に対して楽しみを覚えることはそう多くない。人との関わり合いは比較的少ない方だと自負している、故に苦手意識もある。そういう点、綾葉は交遊関係は妙に広い。他クラス・他学年は勿論、他校の生徒や給食室や保健室の先生、校長先生とも会話していたり、更にはスーパーで偶然会った時には店員さんや試食で来ている人までとも楽しそうに話していた。ここまで来ると一種の才能か何かか。
「謎の領域だなぁ…」
そんな事を考えているうちに電車が停まった。時間はそこまで遅いわけではないが、早い会社はもう終わる頃らしく、スーツ姿の人たちがちらほらと見える。次の電車からはきっと会社帰りの人が増えて遅い方の学生と一緒になってとてもじゃないが乗れないだろう。かといってこの時間の電車は少ないかと聞かれるとそうでもなく、座れたらラッキーなレベルだが。
案の定、私は座れずに立ったまま電車に揺られる事となる。ところで、人は立ったまま電車の急制動に耐えられるだろうか。
転職したら天職を授かった。俺、杉乃悠悟は、事情があって最初の仕事を辞職して、
…いや、辞職させられた。事故に遭い、暫く休む旨を伝えたら、「あ、そう?じゃもう来なくていいよ。」なんて言われた。薄々気づいてはいたが俗に言うブラック企業だったということだ。証拠もそれなりに揃えていたし保険料でそれなりの金額も来ていたので、これを機に同僚と手を組んで裁判に持ち込んだ。最初から圧倒的優勢で結果的に慰謝料諸々を貰って示談となって丸く収まった。しかし、このまま再就職しないわけにもいかない。という話を親戚の爺さん婆さんにしていたら突然、「よっしゃ!そういうことなら今日は勝訴祝いや!ついでにお前ぇさんの次の所も儂がどうにかしちゃる!」と。どうせ酒を呑みたいがための口実かと思っていたら、後日本当に用意してきてくれた。老人も馬鹿に出来ない世の中だ。給料は決して高い訳ではないが早めに上がれるし、何より事故後のコレがあっても雇ってくれた会社を無下にする気も起きないと言うものだ。俺はこれで満足している。寧ろ親戚の爺さんや雇ってくれた会社に恩返しをしなければと思える程だ。その点、若者は優先席にドカリと座り込んで動きゃしない。老人もマナーが悪い、なんて事も耳にはする。実際そんなものはよく見かける。でも今は目の前の事が気になるわけで、
「あ、すみません、座りますか?」
突然焦り気味に立ち上がった学生。よく見たら泥だらけで荷物も多かった。
「あ!いや、大丈夫、座ってて。」
全然良い子だった。一応俺は優先席を譲られる権利はあるが、まあ、大して気は乗らないし、必要とも思わないため基本的には使わない。
でもこの日だけは何故座らなかったのか、なんてこの日の自分を呪うことが来るなんて。
日々に嫌気が差してきたら刺激が欲しくなるのは人の性なんだろうか。いずれにせよ息抜きやストレス解消を目的として何らかの普段とは違う物を、人は求めざるを得ないと思う。だとしたらこの仕事はかなり美味しい。
「よく分かんねぇけど、面白そうだしな…」
ある日、丁度仕事上がりの時だ。俺は今もこうして列車の運転をしているように、その日もその仕事を終え終電を車庫に入れて、久々の連休で家へ帰ろうとしていた所だった。突然スーツ姿の二人組が俺の所に訪ねてきた。一人は頬骨がくっきりと浮き出て、陰が出来るほどにまで痩せた、しかし背の高い猫背の男。もう一人は眼鏡を掛けた中肉中背といった感じの男、というのが最初の印象だったがよくよく見ていくとその男の体つきの良さがはっきりと見て伺えた。自己主張の激しい形ではないが、自分も一時鍛えていたために分かる、その体つきが魅せるためではなく使うための物だと。更に左目には縦方向に一つ傷が走っていた。
眼鏡の方は一歩退いて、長身の男の方が喋ってきた。第一印象は「怖い」だった。しかし、話の内容は魅力的で、しかし非現実的でもあった。
「あなたのご職業、誠に失礼ながら調べさせて頂きました。その事を踏まえて、今回あなたにお願いしたいことがございまして、このように参った次第で御座います。」
内容は至ってシンプルだった。線路上に異物が生えてきても列車を止めずに走らせ続けること。しかし、それでは私の身が危ない。どの様な形で、どのくらいのサイズかも分からないままに受けてしまえば、一番前に居る私が一番の被害を被るのは目に見えているし、万が一生き残っても、何の処置もしなかったとして私が厳罰に処されるのも想像に難くない。
その事を言ってみると、
「ええ、勿論そんなことは分かっています。それに対して何の対処もしないわけではありません。まず、異物の方はこちらで回収、と言うか、勝手に消えてくれます。次に列車の速度履歴の方ですが、こちらは回収される前にデータを破損させておきます。ちなみに開けずに潰す形となります。これで今回の事故がとても大きな物にぶつかった、しかしそれは何処にも見当たらない、という非常に奇妙な事故となり、普段の生活から脱却出来ない者共ではまるで想像も出来ません。この事故の真相は闇に消えていくことでしょう。」
「最後に、あなた自身ですが、」
突然その長身が元々猫背にも関わらず更に屈んで凄む形になってこう言った。
「あなたには一度消えて貰います。」
「うええぇ…今降ってくるかよぉ…」
部活帰りに雨に降られてしまった私、阿野冴姫はそのまま学習塾に直行することは諦め、一度家に帰ろうと考えた。自分が濡れるのは構わないが制服が濡れるのはたまったもんじゃない、そう思うと自然と家路を行く足は急ぐ。何だか水溜まりも多くなってきた。
私は今は中学三年で受験に対してはこの地域で最も過敏になっていると言ってもいい、それほどに今は行きたい高校がある。先輩、と心の中で呟く。あの時、図書室で特に主だった理由もなく、ただ選択肢を広げておけば良いか、程度にしか勉強を頑張っていなかったその時の私は、案の定幾つかの問題で躓いていた。そんな時助けてくれたのがひとつ上の先輩だった。教え方も上手で、何より美しかった。細い赤渕のレンズ越しでも分かる透き通った瞳、小さく輝く唇、流麗な髪を耳に掛ける仕草は女でも見惚れる。しかし、その教え方から察せれる。この人には届かない。悔しかった。だから追い付こうと思った。その日から私のなかで何かが変わった。
その後名前と共に知った進学先には少し驚いた。教えてくれた先輩、初川魅子先輩は地域ではさほど上ではない高校に行った。
理由は永月綾葉、らしい。
ちょうど図書館を出たところで、
「…え?雨…?」
「予報で言ってただろ。」
やっぱりコイツはつくづく馬鹿だ。
…気が張っている。何も気にしなくて良いはずなのに、緊張しているのか。アクセルのレバーを握る手が、手袋越しではあるがじっとりと湿ってきた。
「いつだ…いつ来る…?」
焦燥感と緊張感、普段なら感じない感覚に少し心が踊る様な気がしないと言えば嘘になるだろう。しかし、今、俺の心の大半を支配しているのは恐怖だ。
結局奴等が何者かなんて分からなかった。何が出てくるかも分からない。
「一体何を信じてやれってんだよ…」
無駄な呟きが多くなる。焦っているのか、それとも怖いのか。
「…ん?」
ふと、前方の石の配置に違和感を覚えた。まるで囲うような、囲った中は他の箇所より少し低い。そして、段々近付くにつれ、その中が見えてきた。いや、見えないのが分かってきた。
まるで黒一色。深淵と呼ぶに相応しい物だった。
そこから「何か」が生えてきた。朧気なシルエットでそれがなんなのかも分からない。
反射的にアクセルを緩めブレーキをかけそうになる。
しかし、その手が動くことは無かった。
ありえない力だった。窓ガラスは割れ、電車は前方からひしゃげるように潰れた。俺は割れた窓ガラスから放り出されそのまま深淵に投げ出された。これも計算の内だったのだろうか。
思わず目を瞑る。
目を開けると、景色は見覚えのない物だったが、目の前の人間は見覚えがあった。少なくとも昨日の時点で。
「おやおや、またお会いしましたねぇ。最も、そうなるよう考えていたのですがね?」
下卑た笑みを浮かべながら長身の男が喋った。
「?!、?、??!」
狼狽するばかりの俺に
「そう焦らないでください、あなたは助かったのですから。とにかくこちらの部屋へお入り下さい。」
そう言って隣の部屋へ案内された。
そういえば、コイツが腰の辺りから提げているこの長い棒はなんだ。少し先細りなのも気になる。
「なあ、アンタ。ここはどこだ?それに、アンタが提げてるそいつは…」
ここまで言った途端、突然嗜虐的な笑みを浮かべた顔を振り向けて仰け反った。思わず目を見張る。男の手には何か鈍く、静かに輝く長い物が握られていた。まるで見慣れない、しかしどこかで見たことのあるそれを、剣だと判断する頃には肩に刀身があてがわれていた。
「ここまで知られてしまった以上、貴方には消えてもらわなければなりません。」
クックックッ、と静かな笑いが流れる。
「今部外者に知られてしまえば計画は台無しなんでね。悪く思わないで下さいッ!!」
「う、うわああああぁぁぁぁっぐぅ!」
視界が赤に染まり始める。平衡感覚も重力も感じないままに、俺は目を開けられなくなった。心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。しかしそれも徐々に遠ざかっていった。
「ありゃりゃ、あんなにしちゃっていいのかなぁ?」
「はわわ、列車ってあんなになるんだねぇ?」
「中身は生きてるかなぁ?」
「きっと死んじゃってるかなぁ?」
「滅多な事を言うもんじゃねぇよ。」
「あ、お兄ちゃん来れたんだ。」
「あ、お兄ちゃん面白いねぇ。」
とあるビルの屋上、顔も見えない程に布で覆ったそれに表情は見えない。
夜風が、今日は強い。
「今、始めるのか。」
そろそろ、とは思っていたが、些か早計な気もする。見ればやり方もかなり強引だ。
「それでも、今はこれしか無いのかい?」
彼の眼鏡には景色が映る。彼が覗くものは一冊の本。
「彼を連れ戻したいのか、彼を隠して使うのか。」
本に文字は無い。あるのは深淵だけだ。
「完成するのかい?メツリア、箱庭は。」
彼の瞳に現は映らない。見えるのは、夢幻の彼方。
正直、ここで書きたい事はほぼほぼあらすじに載せてしまってる状態で…何をやっているのだ…と、
ここまで読んでくださった方、誠に有難う御座います。よろしければ簡単にでも感想をコメントか何かで入れてくださると有り難いです。単純なお褒めの言葉でも、「もっとここをこうした方が」や、「このタグ(ジャンル)は違うだろ」みたいな物でも結構です。
でもやっぱり褒められたいな。
結局は昔に厨二を拗らせていた頃に何となく書いたものが起源なんです。それが突如友人や同期が色々書いてるなんて言うから杉谷拳士な感覚で「やってやろうじゃねーか!」となった次第。
一応次の文も5割程出来上がってたりもしますが
短い・拙い と、まだまだ見せられた物でもないので、暫くは検閲しつつ追加・修正が続く形、で御座います…
まあ、自己満なのは分かってるんすよ