いつかの君に訊く
あたし「あの時、笑ってた?」
※GLです。イチャイチャラブラブといったシーンはありません。
『ね、友だちになってよ──』
その笑顔に、わたしは……。
*
高校一年の春、あたしは彼女と仲良くなった。
物静かで少し寂しげな彼女を、何だか放っておけなかったから。
彼女は、綺麗な人。
肩に付きそうで付かない、さらさらの黒髪で、風になびくと良い匂いがする。
目はぱっちりとしていて綺麗な二重。
大声で笑ったりしないし、笑うとしても、少し口角を上げるくらい。
いつも静かに微笑んで、話を聞いてくれる──。
そんな彼女に恋をしたのは……というか、あたしの中でこんな想いが芽生えてしまったのは、突然の雨に見舞われた夏の帰り道だった。
その日は太陽がずっと顔を出していて、雨なんか降らないだろうと思っていた。
そんな時、ポツリと頬に雫が当たった。
それからポツポツと降り始めた雨は、段々と酷くなっていった。
あたしたちは近くのバス停まで走った。
近くのバス停と言っても、あいにくあたしたちが居たそこからは、結構な距離があり、バス停に着いた頃には二人してびしょ濡れだった。
「もう最悪ー、超濡れたし……──」
あたしがふと彼女の方を見ると、彼女は鞄からタオルを出して、髪を挟むようにして優しく拭いていた。
「ね、びしょ濡れ……」
そう苦笑ぎみに答えた彼女は、前を向いていた。
その時、彼女が前を向いていてよかったと思う。
その時の私は、たぶん彼女に見とれていたから──。
同性の友だちに見とれるっていうのもおかしいかもしれないけど、そうならざるを得ない状況だったと思う。
だって、雨に濡れて頬にぺたりとくっついている髪とか、濡れて体に張り付いているブラウスとか、そのせいではっきりと分かる体のラインとか、そのブラウスから若干透けて見える下着の色や形とか、自分も同じ様なはずなのに、なぜかドキドキした。
それから彼女を見る目が、たまに友だちから、少し外れたものになった。
普段は普通に話したりするけど、体育の着替えの時とか、たまにあらぬ方向に思考がいったりするのを、軽く頭を振って打ち消したり、リップクリームを塗った後に、上唇と下唇を合わせて口を小さくぱくぱくさせているのを見て、その唇に触れてみたいと思ったり……。
まぁ、彼女はそんなことを知るよしもないだろうけど──。
そして今、その彼女は無防備にもあたしの前で寝ている。
あたしが先生に呼ばれると、彼女は「教室で待ってる」と微笑んで送り出してくれた。
案外時間が掛かってしまって、教室に戻ると彼女は自分の席に座って、机に伏せていた。
腕を枕代わりに、横を向いて寝ている。
あたしはそっと彼女に近づいて、髪に触れる。
優しく、そっと撫でた。
さらさらで、気持ちいい……。
そのままあたしは彼女の頬に触れる。
白くて柔らかい、すべすべの肌。
「……好き──」
小さく呟いて、あたしははっとして自分の口を押さえた。
誰もいないし、彼女は寝ているとはいえ、万が一がある。
思わず口から出たけど、こういうことを口にしてはいけない。
自分の気持ちが抑えきれなくなるから……。
彼女に気づかれてはいけない。
この想いは秘めておかないといけないのだ。
そうしないと、彼女とは一緒に居られない。
それに、彼女の綺麗な顔を歪めるような事は言いたくないし、見たくない……。
あたしは彼女の前の席に逆に座り、小さく溜め息を吐いて彼女を見つめる。
この想いが伝わればいいのに……、なんて思ってみたりして。
苦笑して、あたしは椅子の背もたれに腕を組んで乗せ、そこに顎を乗せる。
彼女が起きるまで、あたしも少し休もうと思った。
そっと目を閉じ、腕に頭を乗せる。
彼女のことだから、きっと起きたら「何で起こさなかったの?」と言われるかもしれない。
まぁ、その時はその時で、寝顔が可愛かったからと、冗談ぽく言ってみようかな……──
*
わたしが目を覚ますと、彼女は椅子に座って寝ていた。
器用な寝方をするものだ、とわたしは思う。
自分ならきっと、すぐ起きるだろう。
「起こしてくれれば良かったのに……」
ふと時計に目を向けると、もう六時近かった。
彼女が先生に呼ばれて行ってから、下手すると一時間半くらい経ったんじゃないかと思う。
「もう……起こしてよ──」
軽く彼女を小突いてから、そっと頭を撫でた。
わたしとは違って、ショートカットの彼女。栗色の髪がよく似合ってて、運動が得意なよく笑う子。
入学式に体調を崩し、約一週間休んだわたしは、中々クラスの輪に馴染めなかった。
そんなわたしに気軽に声を掛けてきてくれた彼女が、引っ込み思案なわたしにとって特別な存在になるのは遅くなかった。
「好き……──」
もうずっと、こんな想いを抱えている。
笑顔でわたしに「友だちになってよ」と言ってくれたあの時から──。
いっそ言ってしまおうか、なんて……。
彼女の明るい笑顔を壊す様なことは、したくない。
だから今は、このままで。
話をしたり、隣で並んで歩いたり出来れば、わたしは十分だ。
……欲を言えば、好きになってもらいたいけど──……。
*
「……ぇ、ねえったら──」
彼女の声に、あたしは起きた。
「もう六時だよ、何で起こさなかったの?」
少し不機嫌な彼女に、あたしはなだめるように「まあまあ」と言ってから、さっき言おうと思っていた言葉を口にする。
「寝顔が可愛かったから」
そう言うと、彼女は少しぽかんとしてから、少し頬を赤く染めた。
「何言ってんの……。帰るよ──」
彼女がふいっと顔を背けた時、少し口元が笑っていた気がした。
それが見間違いかどうか、あたしにはまだ確かめる勇気はない。
だから、いつかこの想いを伝える時、あたしは彼女に訊こうと思うんだ。
「あの時、笑ってた?」って──
わたし「うん──」
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