巻き込まれ転移した人間A、雑用係やってます
目の前で繰り広げられている光景を、他人事のように見つめていた。
私は当事者だけれど殆ど部外者のようなものだ。
だって、私は主役ではないのだ。
主役は、聖女の役割を与えられたクラスメイト。
アイドル顔負けの容姿を持つ、とても可愛らしい少女。
艶やかな腰まで伸びた黒髪と、色素が薄いため金色に見えるぱっちりとした瞳を持つ少女。
私はただのオマケ。
従者、荷物持ち、脇役だ。
脇役は脇役らしく、非戦闘員のサポート仲間と荷物を監視しながら魔物を倒し盛りあがっている勇者一行を見ている。
私と彼女、二人が異世界に召喚されたのは数カ月前のことだ。
世界を救う勇者の助けとなる為に、女神の加護を受けた彼女とどういうわけか私も召喚された。
召喚されて早々、その美貌に召喚した神官たちが群がり、まるで姫のように彼女の事を扱った。
私はと言えば、国によるものなのか知らないが、彼女の世話役のような扱いとなった。
すぐに見目麗しい、もっと簡単に言ってしまえば美形の勇者が現れて、彼女の手の甲にキスをした。
ドラマみたいだなぁ、とその光景をぼんやりと見つめている私に勇者も気付き、第一声が、
「なんだ、この不細工は」
と、言い放った。
失礼だろ、と言うのをグッと堪える。
何しろ勇者は大きな剣を持っていたのだ。斬り殺されてはたまったものではない。
刀と違って、西洋の剣というのは斬るというよりも叩き斬ると言う方が正しいらしい。
どちらにしても痛そうだ。
こう言う時と、特殊な事態に置いて人間の本性が垣間見れる。
彼女がニヤニヤと私を見下して笑っていた。
たしかに、彼女に比べればニキビだらけの顔だ。お世辞にも顔のパーツが整っているとも言えない。
家の手伝いで畑と田んぼ仕事をさせられているから筋肉がついているので、まるで人形の様な細さを持つ彼女と比べると美女と熊である。
国語の先生がいってたっけ、今と昔じゃ顔の美醜の好みが違う、と。
国によっても美しさというのは違うので、一概に言えないが、どうやら私達が召喚されたこの国の基準は元の世界の日本と同じなのだろうと思う。
自分が不細工なのは重々承知している。
しかし、一つ言いたいことがある。
勇者、お前がチラチラ見ている彼女の胸は詰め物だぞ。
可愛いと思っている彼女の顔は、化粧で作られたモノだ。
瞼だって百均で買った化粧道具を使って一重を二重にしてるんだぞ。
頬の赤みだって化粧によるものだ。
顔のパーツのバランスは生まれつきのものなので何も言わない。
自分を美しくみせようとするのを否定はしないが、天然の美しい形の野菜なんぞ殆どないんだぞ。
良いか、天然物のほとんどは不細工な形をしてるんだ。
お前の母親は化粧をしなかったのか?
言ったら多分叩き斬られそうなので、言わないでおく。
脇役なんぞ、こういった世界ではだいたい不遇な扱いを受けるのが相場だ。
ラノベ読んだ事あるから知っている。
成り上がり系ならまだしも、私はそこまで自分の運があるとも思えなかった。
私は、自分は主役になれる人間でない事を知っていた。
しかし、主役だけで世界は回らない。
その事も私は知っていた。
「ただの人間Aです」
私は勇者にそう答えた。
ジロジロと勇者は私の二の腕やら、やたら筋肉がついている場所を見る。
「なるほど、荷物持ちか」
「たしかに、彼女と一緒に召喚された以上何かしら仕事をしなければいけないでしょうね。
だから貴方が私を荷物持ちというなら、それで良いですよ。でも確認なのですが給料は出ますか?」
「こんな時にお金の話なんて」
私の言葉に彼女が信じられない、と声をあげる。
いや、さ貴女はちゃんと役職与えられてるんだから別に良いよ。でも私は脇役だからきちんと働かないとこの世界で生きていけるかどうかわからない。
雇用制度がどうなっているのかも現時点ではわからない。
それでも、せめて衣食住の保障くらいは取り付けたい、人間食べなければ死ぬのだ。
そして働かざる者食うべからずである。
「ふん、心根の卑しさが出ているな」
「給料は出るんですか?
出ないんですか?
それとも、荷物持ちの給料をケチる、と勇者様は仰るわけですか?」
一際大きく召喚された神殿に響くように言う。
とくに、私の給料をケチるくらいお前はみみっちい上に女々しい奴なのか、と言外に含ませる。
プライドの高い男ならここで怒鳴るくらいするだろう。
しかし、ここには他の人間――神官がいるのだ。
まさか、勇者と言う神様に選ばれ愛された存在が、これから世界を救う英雄が、こんな力のない見た目は置いておくとして、一応女であり弱い存在である私を怒鳴って殴るなんてことをしたら外聞が悪いはずだ。
だからぶん殴られることはないと確信していた。
予想通り、殴られることはなかった。
平手打ちだった。
その後は空気が悪くなってしまったものの、全ては私の所為となり場はおさまった。
私は勇者と聖女から引き離され、お仕置き部屋に入れられた。
そこそこ叩かれた頬が痛いので冷やしたいのだが、しかし放っておかれてしまう。
さて、どうしたものか。
失敗したなぁ、と我ながら思う。
しかし、彼女はきちんと保護されるだろうが私は違う。
神官達や勇者の態度から考えるに、保護はされないだろうと直感した。
私の直感は当たるのだ。
どうせ遅かれ早かれこうなっていたと思う。
しかし、どうしたものか。
こんな事なら、ちゃんとこの世界の事を聞いてから行動すれば良かったと心の底から思う。
「あ、あの~」
お仕置き部屋は牢獄よろしく鉄格子が嵌められている。
その鉄格子の向こうから、少年が声を掛けてきた。
「どちらさん?」
「あ、その、先ほど貴女の世話係を神官長様から言い渡されました。
見習いのオリバーです」
「世話係?」
「さっき馬鹿勇者、じゃなかった。えっと貴女と勇者様のやり取りを聞いた神官長様が、貴女の事を気に入ったらしく。丁重に扱えと指示を出されまして」
あそこに居たのは普通の神官だったということなのだろう。
「そもそも、今回の召喚は昇進を焦った副神官長がごり押ししたものです。
本来だったら、神官長自ら取り行う神聖な儀式なのに」
「そうなんだ」
「はい。そんなわけで、ちょっとトラブルはありましたが我々戦女神の神官は貴女を歓迎します。
部屋を用意しました。そちらに案内させていただきます」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、むしろこちらがご迷惑を掛けているので、本当にすみません」
用意された部屋にはすでに先客がいた。
質素で簡易な、寝るためだけの部屋だ。
少し小さめのテーブルとイスが二つ用意されていて、先客はイスの一つに腰掛けていた。
「神官長様、お連れしました」
オリバーの言葉に神官長である妙齢の女性は微笑んだ。
歳の頃、二十代半ばくらい。てっきりおっさんかと思っていたので驚きだ。
茶色の髪に黒い瞳、落ちついた大人の女性という印象である。
「ありがとうございます、オリバー。ではお茶の用意をお願いします」
「はい」
神官長の言葉に、オリバーは恭しく礼をすると去ってしまう。
「どうぞ、お掛けになってください」
「は、はぁ」
「先ほどは神官達が失礼をしました」
「い、いえ。こちらも焦っていたのです。すみません失礼を言って」
「良いんですよ。あの馬鹿、失礼勇者には良い薬になります、それより、ちょっと失礼しますね」
言って、神官長は私の叩かれて少し腫れてきていた頬に触れると、
「癒しの息吹」
言葉を呟いた。
どうやら、言葉の通り癒しの呪文だったようだ。
すぐに頬の痛みは消えた。
「まったく女性の顔を叩くなんて」
あの馬鹿にも困ったものだわ、と神官長がさらにもらした。
さっきから勇者の扱いが想像と違うのだが、なにか理由でもあるのだろうか?
「いえ、実家では日常茶飯事なんで別に気にしてませんよ。兄弟が多くて殴りあいの喧嘩なんてしょっちゅうです」
「あら、そうなの?
でも、嫁入り前の女の子が顔に傷を作るのは関心しないわ。それも、わざとだったでしょう?」
あの場にいなかったはずなのに、まるで見ていたかのように言う神官長に私は目を丸くする。
私の驚きに、神官長はクスクスと優雅に笑った。
本当の美人は何をしても絵になるし、聖女の彼女と違って全然厭らしくない。
これが違いというものなのだろう。
ただチヤホヤされている子供と、大人の違い。
まぁ、大人でも何かを勘違いしている人種はいるが。
「あははは、バレちゃってますか」
「そりゃあ、ね。ここは私の領域だから、基本何でもお見通しなの。それを神官達が知らないはずはないのに、こんな勝手な事をして」
ごめんなさい、と深々と頭を下げてくる神官長。
すみません、なんかこっちが悪い気がしてきます。
「私の留守中だったのを良い事に好き勝手するから、こういうことになるのよね」
神官長の話を聞くと、こう言う事だった。
今日は元々、神官長は出張だったらしい。よその教会の視察に行く予定だった。
彼女が任されているこの神殿で副神官長が聖女の召喚を行った事を感じ取った神官長は、道を引き返したらしい。
そもそも、日も改めて、もっときちんと準備をして行わなければいけないのに、程良く手を抜く形になり、私が巻き込まれてしまったということだった。
さて、ここで更に残念なお知らせが私を襲う。
「本当に謝ることしかできないのだけど、あの馬鹿と一応聖女として召喚されたあの女の子が魔王を倒すまで、貴女を帰すことが出来ないの」
「マジですか」
「冗談、って言えたら良かったのだけど。ごめんなさいね。一応神との契約上そういうルールなの」
「いえ、なんか、こっちも巻き込まれちゃってすみません」
「謝る必要はないわ」
そこでオリバーがお茶とお菓子を持ってきてくれた。
テーブルの上に用意して、私と神官長のカップにお茶を入れると部屋を出て行った。
「とりあえず、ゆっくりこれからの事を話しましょう」
神官長に促され、私はカップを手に取ると口を付けた。
とても美味しい紅茶だ。
「美味しいでしょう?
この国の王室御用達の茶葉なの。このお菓子も信者、とは少し違うのだけど、時々この神殿に来る人の中に腕の良い料理人の方がいて、時々持って来てくれるの。とても美味しいわよ」
お皿に盛りつけられているのは、紅葉模様と渦巻き模様のクッキーとチョコだ。
言葉に甘えてチョコをつまむ。
チョコは、トリュフである。
「本人はただの喫茶店の店長だ、なんて言うけど、一体どこで修業したのか貴女みたいな異世界からきた冒険者受けする料理ばかり作るのよ」
おそらく私の緊張をほぐす目的もあるのだろう。ずっと神官長は穏やかな笑みを浮かべている。
「おいしいです!!」
トリュフはとても美味しかった。
「良かった。それじゃ今後の事なんだけど。あの様子じゃあの馬鹿は貴女に仕事を与える事はあっても対価を払うなんてことはないわね。黙っていればご飯が出てくると思っているから」
「あのー、一つ聞いて良いですか?
なんで勇者を馬鹿扱いしてるんですか?」
「前任の神官長が甘やかした結果、あの馬鹿は馬鹿として成長したの。
まぁ、剣の腕はたしかだけど、人間性がねぇ。貴女も身を持って体験したと思うけど」
要約すると神様にこの子は勇者になるべく選ばれた子だと言われ、程良く甘やかした結果あんな人間になったらしい。
元々孤児で、勇者補正なのか武器は最初から殆どを教えなくても扱えたらしい。
チートなのだろう、と私は勝手に結論付けた。
「だから、という言い方もアレだけれど。結構泣かされた神官達も多くてね。そう言う子達はあの馬鹿に対してあまり良い感情を持っていないの。
あの場に居たのは、殆どがあの馬鹿を神聖視する神官達ばかりだったから貴女に対する扱いが酷かったけれど、貴女とあの馬鹿のやり取りを見ていた、泣かされた子達は貴女の事を英雄扱いよ」
どこにでもこういうことってあるんだなぁ、と思うしかなかった。
「実際、貴女がお仕置き部屋に連れて行かれたのをみて何人かが私の部屋に駆けこんでくるくらいには、貴女は支持されたの」
「そうなんですか」
「そうなの。茶葉もお菓子も私の指示ではあるけれど、質の良い物が用意されたのはそういうわけ。
本来は貴族とか偉い方にしか出さないものなの」
「歓迎、されていると取って良いんですよね?」
「もちろん」
神官長の頷きに、とりあえず私はもう一口紅茶を口にした。
その日は、とりあえずこの世界の事と、この世界には別口で召喚された冒険者といわれる人達が存在していることを教えてもらった。
そして、神官長が直々に私を雇ってくれることを約束してくれた。
仕事は見習い神官と同じ雑用である。神殿の清掃と庭の手入れ、時々街に出ての買い出し等々。
お給料は微々たるものだが、衣食住を保証されているのでつまり家賃は無し、服は神殿へ寄付されたいわば古着だが十分である。なので服のお金もかからない、食べ物だって無料。
たしかに給料は少ないが、それらが天引きされていると考えれば妥当な金額である。
もちろん、働いてばかりでは無い。休みももらえる。
そうして私が過ごしている間、聖女と勇者はといえば着々と旅立ちの準備を進めていた。
主に聖女の修行である。これが終われば旅立つらしい。
精々頑張って欲しいものだ。
何処か他人事のように呟けば、神官見習いであり私の世話係であるオリバーが一緒に草むしりをしながら言ってくる。
「いや、ソーカさんも一緒に行くんだよ?」
「そうなの?」
「だって、あの頭がお花畑の二人はソーカさんを濃き使う気満々だよ」
「あ、やっぱりか」
因みに、ソーカと言うのは私の名前だ。
本名は稲島奏華。17歳の高校二年生である。
「めんどくさいなぁ」
何が、と訊ねられればオリバー君の言葉を借りるならば、脳味噌お花畑の二人についてである。
私は淑やかな人間ではない。ムカついたら今度こそ手を出すかもしれない。
勇者は刃物を所持しているし、なにやらよい雰囲気の二人の仲をどうこうするつもりは毛頭無いが、それは私に被害が無い場合だ。
初日のように、叩かれることがあれば、過剰防衛にならない程度にはやりかえすつもりである。
そのための事前準備もばっちりだ。
もちろん、我慢はする。しかし、人間は我慢ばかりではいつか爆発してしまうものだ。
「大丈夫!僕も含めて何人かソーカさんのサポートで着いていくことになってるからさ。
あ、そういえばこの前、シスターをあの女から守ってくれたでしょ?
ありがとうっていってたよ!」
オリバー君の言うあの女とは、一応聖女である彼女のことだ。
さて、ここまで読んでいる読者の皆様、お気づきだろうか?
そう、私は聖女であり元はクラスメイトである彼女の名前呼んでいない。
何故かと言うと知らないからだ。
確かにクラスメイトではあるが、接点はそれだけ。
仲が良かったとかは無い。
友人曰く、私のことを陰で貶していたらしいが、直接物を言ってこないなら言ってないと同じだ。
さて、オリバー君の言うシスターを守った件についてだが、別にたいしたことはしていない。
たまたま、私が神殿の二階にある窓の窓ふきをしていた所、その真下で新人シスターをいびっていた彼女に、偶然にも私が手にしていた雑巾を落としてしまったのだ。
慌てた私はさらに、飾ってあった花瓶の中の水も彼女にぶちまけてしまった。
いやぁ、偶然って重なる時は重なるから驚いたのなんの。
ちなみにこの時点で彼女は私の事をいないモノとして扱っていた。
私はマナーとして、同じように彼女をいないモノとして扱い返していた。
空気わるくなるよね、うん。世の男子諸君、全員が全員ではないが女の戦いは陰険なんだぞ。覚えておくように。
そして、素顔が可愛い、とくに化粧しなくても整っている子なんて滅多にいない。基本二次元だけから。肝に銘じておけよ。
あと、外見に騙されるな。年取ったら人間爺も婆も判別つかなくなるからな。死んだ親戚のおばさんが言ってたぞ。
さて、こうなってくると、もう私と彼女の間の空気は険悪も険悪。
基本、私が偶然にも彼女に関わるのは、彼女が誰かをいびっている時だけだ。
何故か、私が掃除している先でいびっている。
で、偶然にも私がイビられている子を助けることになってしまう。
すると、今度は白馬の王子様よろしく馬鹿勇者がやってくる。
そして、私を糾弾するというのが、日常となっていた。
というか、ちゃんと修行しろよ。
そうこうしているうちに時間は進み、旅立ちも間近に迫ったある日。
神殿が召喚した聖女にとある仕事の依頼が舞い込んだ。
なんでも、今は誰も住んでいない屋敷でとある儀式をしていた者達が、その儀式に失敗し、屋敷ごと呪われ、屋敷の外に出られなくなってしまったらしい。
なんとか通信魔法で外部と連絡を取れたため、事態が発覚したとのことだ。
経験豊富な神官が現場に行き、解呪しようとしたがこの世界の呪いではないことがわかり、どうにもできなかったということだった。
屋敷そのものを浄化するしかないが、そのレベルの神官ともなるといないわけではないのだが、連絡がつきにくいのだ。
そこで旅立ち前の腕鳴らしもかねて彼女に白羽の矢がたったというわけである。
ご苦労なことだ。
頑張ってほしい。
と、他人事だったのだが、どうやら私もついて行くことになるらしい。
問題の屋敷は隣町にあった。
道中、まるでRPGのように魔物に襲われたが、勇者とその仲間である戦士と魔法使いによって倒され難なく目的地に到着できた。
サポート班は私とオリバー君の二人である。
勇者の仲間である戦士と魔法使いは急きょ冒険者ギルドから派遣してもらった人達だ。
なので、
「いや、ウザい。めっちゃウザい。所構わずちゅっちゅちゅっちゅ、乳繰り合ってて、夜やれって話し」
「神殿に居た時もそんなでしたよ」
「マジか」
私の言葉に、職業魔法使いのお姉さんが目を丸くする。
「でも、あの胸はうらやましい」
横で戦士のお兄さんがそんなことを呟く。
現実を教えるべきか迷って、言わないでおいた。
「あれって作りモノですよ」
私は言わなかったが、オリバー君が言った。真実を言った。
なんで知ってるんだろ、この子。
さて、私たちの目の前には禍々しい空気を纏う、建物。
デザインは、推理物で出てくる洋館である。
勇者と聖女の、「怖い」「大丈夫何があっても俺がお前を守る」という茶番を横目に、私は今回の依頼内容の確認をした。
「この中に、儀式をした人達が閉じ込められてるんだよね?」
「そうですよ。たしか鬼人族の賢者さんと、その友人の方だとか。
情報によると、異世界の呪術を行ったらしいです」
「異世界の呪術?」
魔法使いさんが呟く。
喉が渇いたので水筒から水を飲みつつ、耳を傾ける。
「はい。えっと、【ひとりかくれんぼ】っていう呪術らしいです」
オリバー君の言葉に私は咽た。
マジか。
あの都市伝説、本当に出来ちゃうんだ。
「異世界の呪術というだけあって、こちらの解呪の方法が役に立たないらしいです。
建て物まるまる浄化予定だったんですが、それは諦めるしかなさそうです。
れいしょう、というんですか?
街の教会に通報するまえ、被害者の二人はネットの掲示板に助けを求めて書き込みをしていました。
それをみていた方々の中にも体調を崩す方が多かったとのことです」
あ、これガチでやばい奴だ。
そうそう、それとこの世界、だいぶ近代化が進んでおり現代日本と大差ない世界である。
草むしりには除草剤を使ってなかったのかって?
経費削減と一緒に植えてある花のため撒いていないだけである。
あとは、昔ながらの体を使っての掃除の方が心身を鍛えられるという教えでもあるとか。
「異世界の方法でなら解呪、というよりこの儀式を終わらせられるはずなんですけど、その掲示板削除されてしまったようです。被害が広がらないように、と。一応やり方を知ってる人がいて、その方法を書き込んでくれたらしいんですけど、ってどうしたんですかソーカさん?」
「あー、それなら大丈夫。私知ってるよ」
「本当ですか?!」
「たぶん、その異世界、私が元居た世界だと思うから。
どっちにしても、被害者さん達が終わらせないといけない奴だよ」
「そうなんですか?」
「じゃあ、早速入りますか」
魔法使いさんが不思議そうに訊ねる。
「入れるの?」
「えぇ、一応。出て来れないだけみたいです。最初に中に入った調査員の方の話しによると、だいぶ危険みたいですが」
私達の会話を聞いていたのだろう。
勇者が横暴な物言いで、あ、いつものことか、とにかく横暴な物言いで私に儀式の終わらせ方を訊いてきた。
手早く、それをメモ用紙に書くと二人はそれをひったくるようにして受け取り
さっさと中に入って行ってしまった。
苦笑しつつ、戦士さんと魔法使いさんが後に続く。
それを見送ってからオリバー君が私を見ながら言ってくる。
「よく覚えてましたね」
「怖い話とかが好きでね、なんとなく覚えてたんだ」
さて、ここで付け加えておこう。
私が覚えていたのは何となく、である。
正確かどうかは知らない。
「さて、とりあえず暇になっちゃったけどどうしようか?」
「待つしかないですね」
そうやって雑談しながらまっていると、屋敷の中からお化け屋敷で聴く悲鳴が聞こえてくる。
「お仕事って大変だよね~」
「デスね~」
荷物持ちであり雑用係なので、私には勇者を助けることも聖女を助けることも出来ない。
まぁ、頑張って、と祈りながら、
「あ、神官長がお菓子持たせてくれたんですよ、ソーカさんお茶でもしましょうか!」
「いいねぇ、それって喫茶店の?」
「はい!神官長がソーカさんのこと教えたら、また作ってきてくれたみたいで」
「今度お礼言わないとだ」
オリバー君の水筒から持参した紙コップにお茶を入れ、のんびりと主役たちの仕事が終わるのを待つのだった。