第04話 小さな異変
ミリとはパーティを組んでからは、よりマモルとも親しくなり今では良き友人のようになっていった。
マモルは最初アークとだけ特別仲良くしているものだと、思っていたので仲良くなった事もありふと気になる事があってミリに尋ねた。
「あのさぁ、ふと気になった事があるんだけどさ。 魔族って北の大陸で密集して暮らしてるじゃん? 何でなの? 人間と混じって生活できそうだけど」
「それはね、昔の話になるんだけど、魔族って人間や獣人よりも遥かに肉体は強いし魔力も高いの。 だからね、魔族以外の種族が魔族を恐れるようになって、世の中がギスギスとし始めたんだって。 それで私のお爺ちゃんに当たる前の前の代の魔王が、魔族をまとめ上げて北の大陸に移り住んだんだって」
マモルはミリの話を聞いて首を思わず傾げる。
魔族の方が強いのであれば、他の種族が追い出す事など出来るとは思えなかった。
「何かそれ、おかしくない? だって強い者が弱い者に従って動いたんだろ?」
「お爺ちゃんは平和主義だったからね。 血を誰も流さなくていいのなら移り住む位、容易いって」
強者の余裕と言うやつなのだろうか。 マモルは魔族に対する偏見を、更に見直す必要があると感じ始めていた。
そんな事を思っているとアークは真剣な表情で問いかけてくる。
「僕達はまだ子どもだけど、大きくなったら考えって変わっちゃうのかな?」
アークのそんな言葉にマモルとミリは思わず顔を見合わせて大笑いした。
「そんなの先になって見ないと分かんねーだろ」
「そうよ、この先に出会う人、起こった出来事によって思考って変わっていくものよ」
マモルはからかわれたのだと思い、ムッとしながらも2人の事がとても大人に感じた。
「そんなもんなのか、2人がとても大人に感じるよ」
マモルはアークは鋭い所を突くと苦笑しつつ、心の中で呟く。
(まぁ俺は前世はおっさんだったからな)
そんな他愛もない話を切り株の上でしていると、近くで物凄い地鳴りが発生し、その音で森の魔物達が一斉に騒ぎ始めた。
マモルが2人を見ると、アークとミリも同様にお互い顔を見合わせた。
いつもとは明らかに違う様子に何が起きたのか、様子を見に行く事にした。
距離にしておよそ500メートル程走ったところに、地鳴りを発生させた犯人を発見すると3人は慌てて木の木陰へと身を隠した。
そして、声を揃えて3人はこう言葉を発した。
「「「あれはまずい、黒竜じゃないですか」」」
マモルはアークとミリの顔を見ると真っ青な顔をしていたので、自分も同じような顔をしているのだろうと思い、あれを狩るべきか否か、やらないか、やり過ごすか最早答えが出そうな4択で考えていた。
そんな中、再びアークとミリの愛の劇場が始まった。
「ねぇ、アーク私が魔物に襲われそうになったら助けてくれる?」
「もちろんさ、僕は勇者だからね。 当然さ」
ミリは嬉しいと言いアークに抱きつくと、アークは嬉しそうにミリを受け止める。
(おいおい、お前達8歳はもう少し自重しろ……俺は後、何回この空気に耐えねばならんのだ)
マモルはこのイチャラブが始まるたびに、足を止めなくてはならない。
その為、何だか一緒にいるのも面倒になってきたので、戦わない3択が何故か消えた。
「俺、ちょっと黒竜と戦って来てみる」
「アークが襲われそうになったら、私が盾になるから」
「そんな! 僕は大丈夫だから。 ミリはむしろ安全な所に隠れて」
マモルは2人に話しかけるも、完全に空気な状態であった為、この場に荷物を置き、近くの木に堀を入れメッセージを残す。
――旅に出ます。 アーク、ミリはここで待つべし! ついでにリア充爆発しろ! 以上
◇◇◇◇◇
マモルは何とも清々しい気分で黒竜の方へと走っていった。
マモルは黒竜を追い抜き、目の前に立ちはだかり黒竜へと叫んだ。
「俺はお前と戦いに来た。 是非、手合わせ願おう」
「待て、少年よ」
マモルは黒竜が人間と会話出来る事に驚いていると、国竜は言葉を続ける。
「私だ、お前のお母さんだよ」
マモルは両親がいない設定でこの世界に来ている為、身に覚えのない事を言われ思わず目の前の黒竜に対してツッコミを入れる。
「嘘つけぇ! 俺は母親いない設定なんだよ! って言うか、声男だしそもそも人種違うじゃん! 何者だよお前は?」
「ふっふっふっ、中々いい考察力を持つじゃないか少年。 だが、お終いだ。 そろそろ私の瘴気で立っていられなくなるであろう。 並の人間なら5分と持つまい。 どうだ? そろそろ立っているのも辛くなってきたんじゃないか?」
黒竜程の竜ともなれば、立ち向かえるのは勇者か魔王位の者であったが、マモルはそれ以上に最強のスキルによって守られている為、黒竜の瘴気など微塵にも感じていなかった。
だが最初マモルは隠れたが、それは何故か。
マモルはあの大きな魔物に万が一にも飲み込まれてしまってはう○ことして排出されなければ出てくる事が出来ないと思ったのだ。
しかし、こうも人間じみた竜ともなるとマモルは戦う気がなくなってしまっていた。
「何か毒気抜かれたし、帰るわ」
「ま、待ってくれ! 行かないで、ねぇお願い、行かないでくれぇ! 1人にしないでぇぇぇ」
マモルは黒竜にピタリとくっつかれ、心底うざい気持ちになったがワンチャンス与える事にした。
「はぁ、じゃあ後どれ位いればいいの?」
「後5分でいいです」
――5分経過
「じゃ、帰るわ」
「も、もう2、3分でいいですから」
――30分経過
「長居し過ぎた、 マジで戻るわ」
「そ、そんな! も、もう1分でいいですから」
「それ、もう10回以上聞いた。 タイムアップだ、じゃーな」
マモルは流石に何時までも帰って来ないのでは心配するだろうと思い、黒竜に背を向けて帰ろうとした矢先、黒竜はマモルの背中に向かって渾身の体当たりをかました。
黒竜と比べ明らかに軽いマモルの身体は数メートル吹っ飛びそのまま地面に大の字に倒れた。
そこでマモルの頭の何かがプツリと言う音を出して切れた。
「だーーはっは、最初からこうすればよかったわい。 所詮相手は子ども、この黒竜フェイル様の相手ではなかったわ」
「――この野郎、人の恩を仇で返しやがって」
マモルは何事もなかったかのように、立ち上がり服に着いた砂を叩き落とすと、フェイルを睨んだ。
フェイルはマモルの殺気にあてられ、こんな子どもがここまで凄まじい殺気を放てるのかと身構えると、マモルもボクシングのファイティングポーズを取る。
数秒の静寂の中、マモルは濃ゆい顔へと変貌すると、大声で叫びファイティングポーズのままフェイルへと突進する。
背中に悪寒が走ったフェイルは咄嗟に後方へと退こうとしたが、マモルは間合いを一気につめた。
「身体解放200%! マモル流奥義、地獄のマッハマモル百列突き! ほぉあたたたたったたたったたたたったたたった!」
フェイルは攻撃を防ぐため、身体全身の筋肉に力を入れる。
「ぐっ効くか!」
「あたたたたたったたたたた!」
フェイルは最初こそ筋肉でガードしていたが、当然力を入れっぱなしに出来る訳もなく、やがて力が入らなくなりダメージをもろに喰らい始めた。
「っちょっ! 痛っ! ま、待って……」
「あたたたたたったたたたた!」
フェイルは降参しようと、必死に声を出そうとするも、痛みでもはや言葉にならなかった。
「ぐああぁああぁあ…………」
「ほあちゃああああぁあ!」
マモルはやり切った顔をして濃ゆい顔のまま、カンフーのきめポーズを取った。
フェイルは既に気絶しており、最後の方は全く声を発していなかったが、対決はマモルの完全勝利に終わったのであった。