プロローグ
姓を高村、名を守。 普通の大学を卒業して、中小企業のサラリーマンとしてはや5年気が付けば、もう30歳を目前に迎えていた。
小さい頃より、両親には名前負けしないよう、皆を守れるような人になりなさいと、口酸っぱく言われ続けて育った。
現在、1人暮らしの守は、たまに実家に帰った時も未だに、それは言われ続ける。
そんな風に、育てられたものだから、困ってそうな人にはすぐ手を差し伸べてしまう。
通勤中や仕事においてもそう、例えば仕事量が多くて帰れなそうな同僚、後輩の仕事を手伝ったり、夜食を変わりに買いにいってあげたりと、結果自分の仕事は振られている量は、こなせる評価は並となり出世もままならなかった。
だが、今回ばかりはそのお節介が己を苦しめる事になった。
目の前には公園の外に転がったボールを追いかける子ども、その奥からは大型トラックが公園の横の道を通ろうと走ってくる。
守は心の中で、悪態をついた。
(なんだよ、これ! 完全に死亡フラグのテンプレじゃねーかよ)
――そのテンプレ通り、守は子どもを突き飛ばして助けるようにして死んだ。
「おぉ、死ぬとはなんとも情けない。 30歳手前にしてろくに彼女も出来ず、人にお節介を焼いてばかり。 挙句に自分の命をも天秤にかけようとは。 ねぇ馬鹿なの? 馬鹿なんじゃろ?」
「うるせぇ! 俺だって、そんな事言われなくたって自覚はあるんだよ」
守は悪口に反応した所で、自分の存在がまだ消えていないと言う事に気が付き、自身の手を見ると身体がうっすらと透けている事に気付くと、周りを少し見渡しここが地球上ではない事を改めて認識すると、目の前のツルツル頭の老人に尋ねる。
「……俺は、やっぱり死んだのか?」
「そうじゃな、今お主は意識だけがここにある状態じゃ。 まぁ魂と言った方が分かりやすいかの。 因みにわしは髪はないが神じゃ(笑) ほっほっほっ、何てユーモアセンス抜群なんじゃわしは」
守は物凄く寒いギャグに、脱力感を感じたが神と名乗る老人に、そう告げられ妙に納得したと言うか、落ち着きを取り戻したと同時に、神である以上失礼な態度は、取らないようにしようと思った。
「そうすると、今俺は天国に行くか地獄に行くかの審議中ってところでしょうか?」
「ほっほ、そんな所は存在せんよ。 そもそも、神に取っての良い、悪いの区別なんぞ、人間には理解できんじゃろ?」
守はそう言われて、ハッとする。 確かに善悪の基準は人間が決めたルールであり、動物にそれは適用しないと言う事に死んで今更ながら気付かされる。
そうすると、神の善悪基準が何かと考えた時、生物に等しいルールで考えるならば、寿命を全うできるかどうか、もしそれだとすると自分は当てはまらない。
守はいても立ってもいられず、思わず神に対して質問をする。
「そうすると、俺はこの後どうなるのでしょうか?」
守は内心ドキドキしながら、目の前の神の言葉が出るのを待つ。
神は意味深な顔、切なそうな顔、嬉しそうな顔へとコロコロ顔を変化させていく。
(一体、どっちなんだよ……)
内心、そう思いながら言葉が出るのを待つと、神は最上級の笑顔の顔になるとこう告げる。
「お主は、超ラッキーじゃのう。 神の贈り物を1つプレゼントされた状態で、転生する事になったぞ」
「おぉ、ありがとうございます」
良く分からないが、取りあえずラッキーだと言われたので、守は神に対してお礼を言う。
そして、再び眉間にしわを寄せながら目を瞑り、何やらブツブツと呟き始めた。
守は再び黙って、神が次にアクションを起こしてくれるのを見守る。
神が、目をカッと開くと目の前には何十枚ものタロットカードのような、手のひらサイズのカードが出現し重力を無視し宙を舞う。
守はここはもう地球ではないので、ここで何が起ころうとも驚く事はなかった。
「さて、ラッキーボーイよ。 この中から1枚カードを選ぶがよい。 もちろん、ハズレもあるぞ」
「超ラッキーなんて言っておいて、ハズレがあるんですか……」
神は目を数回白黒させ、守の言っている事がようやく理解出来たようで説明を加える。
「そうかそうか、ハズレと言ってもあれじゃよ? ハズレは世界一頭が良くなるスキルとか、そういうのじゃよ」
「……それ、当たりじゃないですか。 因みに当たりだとどうなるんです?」
「ほっほっほ、当たりはのぅ――世界で自分の思うままに何でも出来るスキルじゃ」
守はそれを聞いて、口から唾を思いっきり吹き出した。
「ブフーーー!! それもう当たりハズレの領域超えてるじゃないですか!」
守は明らかに範疇を超えたものが出てきたため、頭の中が一瞬真っ白になったが、気を取り直して浮いているカードを1枚手に取った。
(俺が手に取ったカードは何だ? 出来れば当たりカードの方が嬉しいけど……)
守は引いたカードの文字が書かれている方を見ると、こう書かれていた。
【スキル:無敵の肉体】
「えっ? 書かれているのこれだけ?」
守は何の説明も書かれていないカードに思わず声を漏らすと、その声に神が反応し受け答えする。
「そうじゃよ、良かったのう。 それも当たりじゃ、ではお主を転生するかの。 では、行ってこい」
神がそういうと、守の足元には光り輝く魔法陣が生成され、光に包まれると何かを言う前に姿を消した。