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3 ポロロニル先生の世界講義

「え、ちょ、あの…ごめん。すっごくごめん。ごめんなさい」


 私はついさっき少女と見紛(みまが)えた目の前の少年に謝り倒した。だが、シシェルの遠くを見つめるような目は変わらない。口では謝罪の言葉が次々に出てくるが、私は混乱した。


 えっ、待って、男?

 リアル男の娘!?

 初めて見た、ってそんなこと思ってる場合じゃないよ!

 何がフレンドリーだよ

 フレンドリーどころか初っぱなからコンプレックスに直撃しちゃったよ!


 私がどうしよう、どうしよう、とわたわたしていると、突然シシェルが「あーっ!」と叫んだ。その視線はある方向に釘付けになっている。


「時の歯車が!」

「…が?」


 私は意味がわからないまま首をかしげ、そのまま疑問形で返した。私もいまだに凶悪な音を奏でる扇風機を一瞥したが、シシェルが何を気にしているかわからない。


 ああ、扇風機(時の歯車)

 まだ回ってるね

 それがどうかしたのかな


 私が事の重大さを理解していないことにくわっと目を開くシシェル。


「何って、なんで時の歯車がまだ暴走状態になっているんですか!?」

「あ、そっか、なるほど!」


 そういえばポロロニルさんが止めなさい的な事を言っていた。詳しく言うと、後で調整が効くように時間軸の確定を遅めにしておかなきゃダメって言ってた。


 時の歯車は時を進めるのもそうだけど、本来の仕事は時間軸の確定らしい。時間を飛ばしたり、過去に巻き戻したりするためには、目的地に当たる時間軸が必要だ。そのためにも『時の歯車』回し続けなくてはならない。でも、終わりの時まで時間軸を作ってしまうと、私が世界に大きな干渉をすることが出来なくなってしまう。世界を出来るだけ長生きさせて成長させるのが私の仕事なのに、それが出来なくなってしまうからだ。だから、『時の歯車』はゆっくりのろのろ回し続けるのが推奨されるんだけど…


 そうは言ってもねぇ…


 これに手を突っ込むのは流石に手間取る

 というか、したくない

 やりたくない

 考えたくない

 だって私、痛いのヤダもん


 そこで、私はチラッとシシェルを見た。


 たしか、眷属神は私の仕事を手伝ってくれるんだっけ……


 そんな考えがふと浮かび、私はじっとシシェルを真顔で見つめた。シシェルの視線が私と扇風機(時の歯車)を往復し、次第に怯えの色が混ざり始めた。


「シシェル、貴方に最初の仕事を与えます。

…その暴走扇風機(時の歯車)、まかせた!」

「嫌な予感はしてました…」


 眷属神って便利だね

 これで扇風機問題は解決した


 悲壮感漂う様子で恐る恐る『時の歯車』に近づくシシェルを尻目に、私は最初にいた白亜の世界を思い出した。一通り終わったら一回戻るように言われているのだ。私の世界の設定を練るとか言っていたけど、もう「ファンタジー世界にする」という構想は練ってるんだけどね。まあ、報告もしなきゃダメだし、どっちにしろ戻らなきゃ。


「じゃあシシェルちゃん、ちょっと出掛けてくるねー」

「ちょっ、待ってくだ」


 シシェルの制止が途切れた瞬間、私はポロロニルの目の前に転移していた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「おかえりなさい、クレフェール」


 私がワープして白い広場に戻ってくると、ポロロニルは寛ぎながらパフェを食べていた。いつの間にかアキリアも戻ってきている。


「あっ、パフェ食べてる。いいな」


 私が羨ましそうにポロロニルのパフェを覗きこんだ。見たところ、ポロロニルはフルーツパフェ、アキリアはチョコパフェを食べていた。


「ふん、発芽は無事に終わったようね。余裕がありそうならアンタもパフェを作ってみなさい。実体化の訓練よ!」


 アキリアがクリーミーになった口で、突然私に試験を言い渡す。だが、小さい子特有の可愛らしさが全面に出ているせいで、教育係の顔に見えない。


「アキリア、クレフェールはもう実体化できるわよ」

 

 私がアキリアの顔を見て和んでいると、ポロロニルが私がもう実体化できることを伝えた。


 途端にアキリアの顔が赤くなる。


 背伸びしたい年頃なのかなと思っていると、下からうめき声が聞こえた。


「ううっ、ココア……ミルフィーユ……ズビッ」

「ポロロニルさん、足元に不審者が」


 踞ってグスンと泣いているダムソールを見て反射的にそう言った。


「ダムソールの世界でちょっと自然災害が起こったの。それに連鎖して色々なものが壊れて国が何個か潰れたのよ」


 復活したアキリアの説明をポロロニルが捕捉する。


「ダムソールが気に入っていた女の子がたくさん死んじゃったのよ。それでアキリアと、さっきまで女の子達の死に泣きながら世界を安定させる仕事で走り回っていたのよ」


 つまり、さっきダムソール先輩がさっき言ってたココアとかミルフィーユとかは亡くなられた女の子達の名前…?


「お気に入りとはいっても、生き物なんてそのうち死ぬもんなんだから。いつまでも泣いてたってしかないのにさ」


 アキリア、冷たい…


 ポロロニルもなんとも思ってないような顔をしている。神様にとって命はなんでもないのだろうか。


「クレフェールも座ったら?これからアンタの世界の基本構想も練らなきゃダメだし」


 アキリアの言葉に従い私も隣に座った。


「じゃあ、まずはどんな生物を主軸にしたいかを決めるわよ」

「人間がいいなぁ」


 アキリアの切り出した本題を悩む間もなくスパッと答える。これでも前世は人間だったんだし、悩むこともない。人間一択である。


「クレフェール、その様子だともう構想は大方決まっているのかしら」


 あまりにも迷いなく答えたので、ポロロニルが私分のパフェを渡しながらそう聞いてきた。


「わあ、フルーツパフェ!ありがとうございます。そうですね、もう決まってますよ」


 私はポロロニルとアキリアに自分の思い描く世界を話した。基本(ベース)は前世の地球。そこからちょっといじって、色々な環境がある世界にしたい。環境によって様々な生き物が独自に文化を築く、自然溢れるファンタジーな世界にしたい。


 そのことを上機嫌に話すと、アキリアが関心したように私を見た。


「ふぅん、随分と細かく考えたのね。アタシはてっきり、アンタはふわふわしたイメージしか決まっていないのかと思ってたわ」

「失敬な」

「でも、実際そこまで決める必要性はあまりないのよね。私達が世界の中心にする星で行う仕事は、確率の操作くらいだもの」

「ちょ、ちょっと待って、え、なんて?」


 アキリアがいきなりずらずらと小難しい説明を始めた。聞き逃した単語もあって一度ストップをかけた。


「アキリア、説明は最初からしないと。神様は世界の成長と共に自分の力を増やすことができるわよね?でもそれだと、力の精製はとても微量。『時の歯車』の回るスピードからみてもそれは明らか。初期はたくさんの力を使う機会が多いのに、それじゃあとても足りないわよね」


 確かに。『時の歯車』を暴走状態にしちゃえばエネルギー事情は解決するけど、世界の延命が目的の私にとってそれはあまりにも悪手。世界創造に眷属神、これからの細かい調整にしろ、初期は目眩がするほど大量の神様パワーが必要だ。

 ちなみに私は特に、眷属神で調子に乗ってパワーを使いすぎた。

 まだ神様パワーの使い勝手になれていないせいもあるかもしれないけれど、まだあるこれからの仕事に必要な神様パワーとしては心許ない。


「そこで目を付けるのが、確率で世界に生まれる生き物達」


 世界に生まれる生き物達の生きる力……生命エネルギーを神様パワーに組み込むのだと言った。


「生命エネルギーの良いところは、放っておいても勝手にエネルギーを増やしてくれるところね。エネルギーを消費するだけで時間と共に倍にしてくれるもの。運が良いときは一つの生き物から膨大な量の力を回収できるわ」


 ようは、銀行みたいなものらしい。生物の住む星にエネルギーを預け、引き出す時に増えたエネルギーが利子としてついてくる。エネルギーを借りることは出来ないけれど、生産スピードが上がれば、確かにエネルギー事情も回復する。


 世界の発展を頑張らなくちゃいけない理由はそこらへんかな


 むぐむぐとクリームをすくって口に運ぶ。


 ちなみに、


「……生命エネルギーはいつ回収するんです?」

「生命エネルギーが一番溜まる死の直前よ」


 よかった

 生きてる最中に抜くとかそういうわけじゃないのね……安心した


「それに、もしもの時のためにエネルギーの貯金もしなくちゃいけないわ。例えば……もし自分の世界で災害が起こって、生命エネルギーが回収できなくなったら?それどころか、元の状態に戻すために沢山の力が必要になったら……」


 それ、貯金が無い時点でアウトですよね


 貯金額によっては、一気に死に加速するイメージに身震いする。


「ダムソールが良い例ね。ちょうど教育係に任命された数日後に災害が起こったんだけど、エネルギーの貯金が足りなくてお気に入りを生き返らせることが出来なかったんだもの。世界の安定に使う分は足りたから崩壊組は逃れたけど。エネルギーの量によっては、大事なものを切り捨てなきゃならないのよ」


 アキリアが口元を布巾で拭いながら会話に入った。なんか物騒な単語が聞こえた気がしなくもないけど今はスルーしよう。


「ダムソールを見てエネルギー事情は最も重要だって心に刻むといいわ」


 いまだに「キャラメル……ミルク……」と呟きながら踞っているダムソールを眼下に収めながら神妙に頷いた。


「さて、さっきの話を踏まえてアキリアが最初に言っていた確率操作の話をしましょうか」


 ポロロニルはぽん、と両手を合わせてニコリと笑った。


「生き物が世界に生まれる確率はとても低いの。でも、その確率を上手く操作すれば生き物を生み出すのも容易になるわ」


 ふんふん


「でも、環境の違う様々な場所で各々に生き物を生み出すのは、いくら私達でも時間が掛かりすぎる」


 なるほど


「だから、確率操作で初期に誕生した生物のいる星を、生命エネルギー回収の拠点にするの」

「そこを中心に発展させて、効率よく生命エネルギーの回収をするためですか」

「そういうこと」


 仮にあちらこちらで生まれた生物の生命エネルギーを回収してまわることになったら、それぞれ個別に発展させなきゃならないし、てっとり早くエネルギーが欲しい時は向いてない。


「経験も無しに慣れないことをすれば失敗するしね」


 アキリアがまとめるようにそう言った。

 あちこち手を伸ばさずにコツコツと堅実に進めなさいってことだ。


「それからアキリアが最初に言っていたことの捕捉になるけれど、自分好みの世界に変えていくのはなにも自分だけの力だけでやらなくてもいいのよ?細かい所は自然の摂理に任せれば勝手に作ってくれるから。どうせ自分の力だけではとても力が足りないし。流れに干渉して少しずつ自分好みに変えていけば簡単よ」


 ポロロニルは一息ついたところでカフェオレを取り出した。


「後は、そうね。神様には世界の状態によって呼び名が付いているの。クレフェールのような新しい神様は『新生組』、少し年長で安定した世界を持つ『安定組』、世界の崩壊が確定している『崩壊組』

の三つ。『崩壊組』の人は日頃日中カリカリしてるから刺激したらダメよ」


 いや、自分の命がかかってたらそりゃあカリカリもするよ……

 というか、刺激したらダメって……


 アキリアと変わらずあっさりした対応のポロロニルにため息を吐いた。


「助けるという選択肢はないんですか?」

「一つの世界が安定するまで回復するには、膨大な力が必要なのよ?それこそ、一つの世界が崩れるくらいに。仮に手助けできたとしても、予備の力が底をつくのに、どうやって助けるの?」

「物理的に無理なんですね……」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「さて、説明はこのくらいかしら」

「そうね、これくらいで良いんじゃない?後は聞かれたらってことで」


 ポロロニル先生の長い解説時間が終わって、席を立った。


「落ち着いたら他の神様に紹介するわ。話を聞くのも良い経験になるでしょうし」

「この『神々の広間』に来るときは必ず白い服で来なさいよ」


ポロロニルとアキリアに見送られ、私は自分の台座の間にワープする。


「そうだ。アンタ、眷属神の宝玉(オーブ)はちゃんと身に付けられるよう変えてあげた?」


 ワープの直前になってアキリアに思い出したように質問されると、私の頭にシシェルの顔が思い浮かんだ。


「あ、」


 忘れてた……


 私は、自分の呟きを最後にワープした。




 うどんは温玉を乗せて食うべし。


 癖になりつつある説明回。飛ばしていいですよって言いたくなります。

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