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たのしいゆめ  作者: 蒼翳
8/10

第八夜

喪服の男が立つてゐる。

晴天の空と土砂降りの雨の中。

何も謂はずに立つてゐるのだ。


学が無い者は此の男をマンホウルの空腹を満たさうと運ぶだらう。

下水管の底から見るこの世界の醜さよ。

男は屹度思ふだらう。

『下水管の方が余程綺麗な事だ』と。

下水管には数多の烏が新しい餌が来ないか来ないか来ないかと待つてゐる。

しかし男は下賤な烏の忘れかけた宇宙。

餌になど到底なる筈も無いのだ……

愚かな烏共よ……


若しくは志の無い者は此の男を電線に磔刑にしやうと思ふだらう。

電線より見るこの世界の小さき事よ。

男は屹度思うだらう。

『宇宙はさぞかし美しかろう、大きかろう』と。

空を飛び交ふは蜊蛄ざりがにの群れ。

しかし男は蜊蛄が知る事の無い色。

飛ぶ事しか出来無いのだ……

何と哀れな蜊蛄共よ……


男は


男は


何を思うか。


学が無い者しか、志の無い者しか、居なくなつた此の世界。


男は雨に埋もれてゆく。


雨に埋もれてゆく。


埋もれてゆく。

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