第十夜
九夜もの間。
やけに不思議な夢を見ていたような感じがする。しかし悲しき事に何も覚えてはいない。
ヴィジョンの一片すら脳味噌から消え去ってしまったのだ。人の夢と書いて『儚い《はかな》』と読むそうだ。
そのとおりで人の夢とはかくも儚いものなのだ。
では果たして今は夢なのだろうか。
先程より壁を這っている子供達。
地面より顔を出している珍妙な蛸の様な者共。
転がり輝く鉄鉱石。
未来も見えずただ水底に蹲る処女達。
これらは夢だろうか。
果たして。
果たして。
先程より扉の隙間から見える巨大な蛆は。
湿地のような場所に転がる古びた新聞は。
空中散歩をしては地に戻っていく老人は。
水中死体を金魚鉢に入れて愛でる少年は。
一人で訳もわからぬ演説をしている男は。
いつの日にか琥珀になるのを待つ死体は。
果たして。
果たして。
果たして。
『きのう見た夢も今日見た夢も、また明日見るであろう夢も一続きだ』とある芸術家は言ったそうだ。これもそうなのだろうか。
脳味噌の忘れた今までの夢なのだろうか。
果たして。
果たして。
果たして。
いつかわかるのだろうか。
考えるのはよそう……
また、眠りにつけばわかることだろうから。
おやすみ、世界。
ただいま、たのしいゆめ。




