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傷跡
男ははっと目を覚ました。息が荒い。
(また、あの日の夢を見てしまったか…。)
気が付くと男は自身の胸元に右手を当てていた。高鳴る心臓の鼓動が手に響く。
(ここはイギリス、かつて自分のいたアフリカとは遠く離れた地だ…。何にも怯えることはない。唯一人の者を除いて…)
男は自分に言い聞かせた。彼が怯えていたのは他でもない。彼自身だった…。
男の腹部には昔の傷跡が醜く残っていた。それは、彼自身の復讐の象徴、そして穢らわしき人間の本性の現れだった。かつて行われていた人種別隔離政策、アパルトヘイト…。多くのアフリカ人が差別を受けた中、逆に差別をする人間もいた。たった一人の孤児に彼らは刃を向けた。自分より弱い立場の者を痛め付けることで、快楽を得る…。
幾多の拷問も彼には日常だった。終わりの無い苦痛から解き放たれて得られた自由。それは少年兵として生きることだった。その日から、血煙の中を這いつくばって生きる日々が始まった。