SS 勇者様の内政チート?(3)
毎度、大変遅くなりました。
自分なりの世界観、魔法論を作ろうとしたのですが、枠をはめると登場人物の身動きができなくなる悪癖は直りません。
我ながら長編向きの性格ではないようです。
今回も途中ですが、間隔が開きすぎて途中打ち切りになったと思われるかも知れませんし、区切りがいいところで投稿させてもらいます。
僕たちのいる場所が最初から判ってるかのように彼は迷わずこちらに近づいてくる。
「あっ。鈴木君来てくれたんだ。」
窓際に座っていた沢渡さんが窓の外に向かって手を振った。
彼もそれに気づいたのか軽く手を上げて応えた。
たしか厚労省の新人でタクがスーちゃんと呼んだ元勇者だ。
「沢渡さんが呼んだのか?」
「ええ、以前橘検事に頼まれて魔法具を作ったことがあったんです。それと同じ物を持ってきてもらったの。」
「橘検事が。どんな魔法具?」
「魅了魔法の逆。誰の興味も引かない魔法です。」
「なんか変わった魔法だな。なんのために。」
「もしかして、ファランシア姫の為の魔法具か?」
井上君やタクも会話に入ってきた。
「きっとそうだと思うわ。ただ、だとしたらお姫様は何故今日は身につけていないのかな。」
「あの。橘様に今日は魔道師が大勢いるんだから必要無いだろうと・・・」
ファランシア姫はかしこまったように首をすくめ、僕たちを上目づかいに見ている。
姫様が悪いわけじゃないんだから気にする必要は無いんだが。
どうも、橘検事は意図的にファランシア姫を目立たせて、僕たちの対処能力を測ろうとしたみたいだ。
「最悪の場合でも、タク様の神言で何とか出来るからとおっしゃってました。」
ファランシア姫の言葉にタクは頭を掻き毟りながら顔をしかめた。
「伯母さんには何度も説明したのに、まだ解ってないな。」
「神言ってタクのスキルだろ?」
今回のデータ消去もおそらくそれを使うんだろうが、僕自身よく解っていないのも確かだ。
「普通は『かむごと』とか『かみごと』と読んで神の御告げのことなんだけどな。」
「言葉一つで何でもできるんですよね。」
沢渡さんが羨ましそうにタクを見ている。
僕の聞いた話では、幾つかの制約はあるものの、神様と同じ力が使えるというものだった。
チートもここに極まったという感じのスキルだ。
「あのな、何でも出来ると言うのは、別の見方をすると何も出来ないとも言えるんだぞ。」
「なんだ、矛盾する言い方だな。」
「この話は後で。スーちゃんを信用してない訳じゃないけど。簡単に説明できるもんでもないし。」
タクが話を打ち切って店の入り口を向くと、ちょうど鈴木君が入ってきた。
沢渡さんが席を立って彼を出迎える。
「鈴木君ありがとう。手間をかけさせて御免なさい。」
「いや、いいんですよ。僕もちょうど用事がありましたから。」
鈴木君は軽く手を振りながら、持って来た紙袋を沢渡さんに差し出した。
「これでいいんでしょう。」
沢渡さんは渡された紙袋の中をのぞいて、小さなネックレスのような物を取り出した。
「うん、これよ。同じ物を幾つか作っておいて良かった。」
「よくそんな魔法思いついたな。どうやるんだ。」
「タクさんの認識阻害と同じような魔法が欲しい言われて考えたんです。
試行錯誤した末に、魅了魔法の効果を逆向きにしたらどうかなと思ったんです。」
「魅了魔法の逆だと嫌われるんじゃないのか?」
井上君の疑問は沢渡さんには予想通りだったのだろう、にっこりと笑ってしたり顔で答えた。
「やっぱり好きの反対は嫌いだと思いますよね。
でも嫌ったり憎んだりするのも関心がある証拠なんです。
答えは興味が無くなる、無関心になるというのが本当なんです。
もっとも、無関心の反対が好きという訳じゃありませんけど。」
「そう言えば『嫌よ嫌よも好きの内』という言葉もあったな。」
「それはちょっと意味が違うんじゃないですか。それは好意を持っていても口では嫌いと言ってる、ツンデレのことですよ。」
沢渡さんとタクの話がわき道に逸れていく。このままほっといたら何処まで行くか解らない。
「ちょっと、話が脇に逸れているよ。その魔法具をファランシア姫に持たせればいいんだね。」
僕は沢渡さんが持つネックレスを受け取って、ファランシア姫に付けさせた。
「あ。ご免なさい。鈴木君座って。何か注文しましょうか。」
沢渡さんは鈴木君に向かって空いてる席を指しながら言った。
「いいです。これからちょっと用事がありますから。」
遠慮する鈴木君がそのまま立ち去ろうとしたところに、タクが訊ねた。
「ここが良く解ったな。カオリンの誘いでさっき入ったばかりだったんだが。 それにサクラちゃんはいつの間に連絡したんだ。」
僕も疑問に思っていた事だ。
特に、ここに来ることは僕たちでさえ事前に知らなかったのに、なぜ解ったんだろう。
「私はチャットスキルを使いました。タクさんの遠話と似てるけど仲間に登録した同士で話せるんです。」
「じゃ、サクラちゃんがチャットで誘導したのか。」
「いいえ。僕のスキルの一つで人の魔力を感知出来るんですよ。
一人ずつ魔力には特徴がありますから。皆さんの魔力を追跡することは簡単に出来ます。」
鈴木君はちょっと得意げに説明した。
「俺たちの魔力を感知してここまで来たのか?」
「特に、秋山さんの魔力は跳び抜けてますから結構遠くからでも解りますよ。」
鈴木君は朗らかに笑っているが、タクはさも嫌そうに眉をひそめた。
「マジかよ。魔力の漏れを何とかしないといけないな。」
「知られたら不味いのか?」
「当たり前だろ。彼と同じようなスキルを持った敵がいたらどうする。」
確かに言われてみるとその通りだ。僕も自分の魔力を外部に出さない工夫が必要かも知れない。
「僕にも相手の魔力の大きな人はそれなりに解るけど、そんなに遠くから解るのか?」
「普通は近くにいる人の魔力の大きさを漠然と感じるだけのようですが、僕は一度会った人の魔力を追跡したり、使われた魔法の種類を特定したり出来るんです。」
「鈴木君のスキルは魔力感知で、魔力のセンサーがすごく敏感で優秀なの。」
沢渡さんが鈴木君に続けて説明してくれた。
「だから、魔法陣の研究にはとても役立つのよ。魔法陣に魔力を流して反応を見るのが容易だから。」
「魔法陣に使われている文字は全部解読したんじゃないのか。」
「アルファベットが解るからといって、難解な英語の意味まで全て解る訳じゃないんですよ。」
沢渡さんの説明では、今解読出来てるのは日常会話程度の内容で、もっと高度な魔法陣の使用には更なる解析が必要らしい。
どうも、沢渡さんが他の人を異世界に連れて行けないことで、それほど異世界での活動が活発でなかった厚労省も、魔法陣研究を後押しして活動の幅を広げる計画のようだ。
鈴木君を新たに入れたのはそのためらしい。
魔法陣は比較的小さな魔力で強力な魔法を使えるというので、厚労省だけでなく僕のいる外務省や防衛省、更に橘検事も関心を寄せているという。
「表でUFO騒ぎがありましたけど、あれは秋山さんの仕業ですか?」
「タク。俺のことはタクと呼んでくれ。」
「ああ、真名を呼ばないんでしたね。」
タクの言葉に鈴木君が頷いた。
「でも、僕の場合は真名を呼ばれても平気ですから。スーちゃんはやめてもらえませんか。誰も僕に呪いをかけたりしないでしょう?」
「まあ、名前の件は考えておくよ。ところであのUFOも俺のだというのが解るのか。」
「ええ、雲がUFOの形になるときにタクさんの魔力を感じましたから。見事なものでしたね。雲の中に隠れてそのまま消えてしまいましたけど、最後の瞬間までスター・○ォーズ顔負けの迫力でしたよ。」
「あれは雲だったんですか。細かいディテールまではっきり見えてたのに。」
沢渡さんががっかりした表情で呟いた。
まさか本物だと思ったわけじゃないだろうな。
僕たちはタクに言われるまで、目の前でタクが使った魔法に気づかなかったことを考えると、確かに魔力感知能力が半端ではないようだ。
「僕もスマホで撮ろうとしたんですが、さっき確認したらノイズが入って撮れていませんでした。
もしかして、これもタクさんの魔法ですか?」
鈴木君が手に持ったスマホの画面を見せながら訊ねた。
その画面は白い砂嵐のようなノイズで何が映っているのか解らない。
それを見てタクがうなずいた。
「他にも、撮ったはずの美人の画像がぼやけてるとか、上手く写ってないとか、すれ違う人達が話してるのを何度も聞きましたけど。」
鈴木君はファランシア姫の方をちらちら見ながら言った。
どうやらタクの魔法で姫様の画像の消去は上手くいったらしい。
「タクさんの魔法だというのは解ったんですが、どういう種類の魔法かまではよく解りませんでした。ユニークスキルの類ですか。」
「ああそうだ。だから悪いけど余り詳しく説明できない。」
タクは言いにくそうに言葉を濁している。
鈴木君は爽やかな笑顔で、手を振りながら応えた。
「ユニークスキルなら当然です。自分のスキルを全部他人に教えるなんてあり得ませんから。それぐらい僕にも解りますよ。
じゃぁ、僕これからデートなんで用事が済んだら失礼します。」
その場の空気を読んだ鈴木君がそれ以上突っ込むことなく帰ろうとしたので、沢渡さんが慌てて謝った。
「デートだったの。御免なさいね時間をとらせちゃって。」
「いえ、あのUFOきっとニュースにもなりますよ。いいもの見せてもらいました。」
鈴木君はそう言ってカウベルを鳴らして店を出て行った。
僕たちはしばらく喫茶店で時間をつぶしてから買い物に出かけることにした。
沢渡さんの魔法具のおかげでさほど周囲の関心を引くこともなく、買い物を済ませることができた。
ファランシア姫は、自分でお金を払って買い物をするという行為が始めてだったそうで、十分にショッピングを楽しんだようだ。
残金を気にしながら商品を選ぶといのも、姫様にとっては新鮮な感覚だったらしく、どちらにするか迷うのさえ嬉しそうだった。
「じゃ、ここで解散してバカ殿様は姫さんとデートということで良いかな。」
買い物を済ませた後、公園に集まった皆の前でタクが言った。
「それ、まずいと思う。」
沢渡さんが西の空を見ながら言う。
まだ空は明るいが、遠くに見えるスカイツリーの影がすぐ足元まで伸びてきている。
歩行者天国での騒動もあって、思わぬ時間を使ってしまったみたいだ。
これから食事をする時間など取れそうに無い。後1時間もしないうちに日は沈んでしまうだろう。
「じゃ、姫さんとの話は日を改めてということになるのかな。」
タクも時計を気にしながら僕たちに訊ねた。
「私、今月いっぱいで帰国することになっております。
次に日本に来れるのは何時になるか解りません。」
ファランシア姫が突然言葉を挟んだ。
姫様の何か思いつめているような表情は気のせいだろうか。
既に月末も間近である。二人の都合のつく日が旨く見つかるとは思えない。
ローザンヌ王国でなら会う機会もあるだろう。
「なら、向こうで・・・」
僕は言いかけて言葉を詰まらせた。
姫様は無言のまま僕を見つめている。
その表情に何か想いが込められているのに気づかないほど、僕も鈍感ではないつもりだ。
考えてみれば、日本で姫様が一人で行動しても問題にならないが、ローザンヌ王国では周囲に常に人がいて、王族という立場を気にせず、二人だけで話す機会はまずないだろう。
だが、二人だけで日没過ぎまでいると問題だと橘検事に注意されている。
他の皆に付いてきてもらおうか。
二人きりではないものの、ローザンヌ王国で大勢の侍女や護衛に囲まれて話すよりよっぽど気楽に話せるだろう。
僕は皆の方に振り返った。
書いていくうちに、「ご都合主義」という禁呪を使いそうになってしまうのに困りました。
勿論魔法や異世界を書くのですから、科学理論に合致するわけもありません。また、社会学や心理学に詳しいわけでもありません。
しかし、自分なりに辻褄のあう展開にしたいと思っています。
奴隷ハーレムの奴隷たちに惚れられるなどという、本来あり得ないような話にはしたくないですし、魅了魔法でモテても虚しくなるだけだと思っているのです。
優柔不断な主人公が回りの女の子にモテまくりながら、中途半端に鈍感で気づかないというのもアニメやコミックなら笑えますが、現実にいたら殴りたくなります。