特捜班創設秘話?
自分で書いててなんですが、なんか取りとめもない話の集合になってしまった感があります。
数時間後、会議は終了した。
途中、各省庁の異世界関係のトップが駆けつけたは良いものの、何人かが遅刻した生徒が教室に入ろうとするような真似をしていたのは滑稽だった。
うちの班長も廊下からお姉さんを携帯で呼び出そうとして、マナーモードだったために焦っていた。
どうどうと入ってくればいいものを。
結論として、用語統一は実務者委員会なるものを別に作って、そこで行われることになった。
俺たちも参加することになるが、作業はもっと早くなるだろう。
他にも、いくつかの懸案事項が話し合われ、大筋の合意が得られた。
決定事項はまだ少ないが、話は大きく進んだといえる。
さすが伯母さんだ。
もっとも、異世界犯罪特別捜査班の今後の活動についていくつかの注文がついた。
独断専行を控えて、各省庁との連携を強めるようにとの要請が最も多かったのはしょうがない。
現在、帰還作業のほとんどを特捜班、すなわち俺が行っている。
他の省庁はまだ組織さえはっきり出来ていないところがあるのが現実なのだ。
独断専行をやめて欲しいなら、さっさと統一した基準や法律を作ってほしいもんだ。
こっちだって、好きで独断専行してるわけじゃないんだ。
特捜班は、外見上は「失踪者関係資料保管室」に班長も事務のお姉さんも属しており、給料もそこから出ている。
俺はそこで働くアルバイトということになっている。
伯母は、召喚被害者の帰還を急がせるために、独断専行で外見上は別組織をでっち上げ、本来の職制と異なる仕事をさせているということだ。
異世界での活動については、法の網をくぐるというか、「法律で禁止されてないから合法」という理論で、多少ごり押しみたいなやり方をしているのが現状だ。
異世界の事柄を定めた法律がないのだから、何も禁止されていないのは当然だろう。
この理屈でいうと、俺が異世界でどんなことをしても違法性はないということになりかねない。
こういうやり方が、スダレたちに合法性に疑問があるなどと指摘される原因になっているんだろう。
伯母いわく、法治国家では「法律で禁止されてないことは合法」というのは基本だという。
国際法であれ何であれ、「類似する別の法律を恣意的に適用する」という考えの方が間違っているそうだ。
そもそも、みんながもたもた話し合ってる最中に、100人以上もの召喚被害者を連れ戻したという事実の前では、さしたる問題ではないと鼻で笑っていた。
本来の特捜班が秘密である以上しょうがないと思うのだが、それを気にする省ほど組織の立ち上げも遅れているように思える。
たとえ秘密会議の席でもいいから政府内の合意事項として決定する前に、独自に動いては後々自分たちの責任問題に発展する、という保身が働いているように思えるのは邪推だろうか。
外務省だけはバカ様のおかげで異世界での活動が容易になり、まがりなりにも始動しているらしい。
しかし、召喚被害者の帰還については、危険状態の海外に滞在する日本人の救助という建前をとっている。
異世界の国に異世界基準で合法的に束縛されている場合の救出までは、法的根拠ができるまでは手を出せないとしているのだ。
いずれにしても、各省は俺たちにもっと協力しろといいたいらしい。
まず、異世界に行けなければ何を言おうが意味が無いのも事実だ。
夜空の星を見ながら、「あの星は俺のだ。」と主張するようなものだから。
実は、同じ魔道師とはいえ一度に転移できる人数は、俺が50人程度、バカ様が5人、サクラちゃんは1人。カオリンが3人という感じで、俺がダントツに多い。
異世界と行き来して活動しようと思ったら、魔道師特に俺の協力は欠かせないのだ。
もう一人の日本人魔導師については、詳しい能力はわかっていないが、誰かを帰還させたという話は聞いていない。
伯母といっしょに話に行った時、彼女が吐き捨てるように言った言葉が記憶に残っている。
「日本でも向こうでも、私のことは誰も助けてくれなかった。」
現在、警察庁と防衛省が彼女に監視をつけているが、さすがにばれているだろう。
しかし、力ずくで排除しないところを見ると、必要性は理解してくれてるみたいだ。
もっとも、俺が班長から言われて付けた監視には気づいてない。
式神とか使い魔とか、魔法がらみなら当然気をつけるべきなんだが。
ただスキルを身につけただけでは、魔道師といえどもこんなものだ。
俺が連れ帰った元勇者たちについては、協力を申し出てくれた人達以外は、スキルの封印と、異世界に関する口外禁止を誓約させている。
最初に向こうでチート人生を送ろうと帰還拒否をした人達が帰るときは、原則的に記憶も消去させてもらっている。
記憶消去までするのはやり過ぎで、人権問題だと騒ぐ人もいるのだが、この人々に対する信頼度は低くならざるを得ない。
しかも、帰還する際に記憶消去する旨の同意を得ており、その証拠DVDもとっているので問題ないだろう。
現在のところ、異世界の召喚責任者たちを逆に召喚した例は、一つだけだ。
ただ、あの時は召喚責任者たちの逮捕裁判という本来の理想とはだいぶ違ったものになってしまった。
現実とファンタジー、合法と違法の狭間を利用したペテンともいえる、かなり強引なやり方だった。
これが、今も後をひいているのだが。
伯母に言わせると「必要だったんだからしょうがない。」そうだ。
さて、所属部署は違うものの、協力して働くことが多い政府所属の魔道師のみんなを簡単に紹介しておこう。
サクラちゃんは、実際には他の誰かを異世界から転移させることは出来ない。
正確には自分一人が転移するのに必要な魔力を持っていないのだ。
しかし、魔法陣や魔法具の作成や改良ができる生産系のスキルを持っている。
これで不足している魔力を補って、日本に自力で帰還してきたそうだ。
今は、伯母が紹介した研究施設で魔法の研究を続けている。
現在、帰還するのに使ったものを更に改良した魔法陣を、研究所に作成しているという。
完成すれば魔力不足の彼女でも異世界に転移できるようになるらしい。
本当は竜脈があるか神域と呼ばれる場所がいいそうだが、近場にはない。
また、帰還用の魔法具と魔法陣を画いた特別なシートをいつも持ち歩いているそうだ。
サクラちゃんが魔法について詳しい知識を持っているのは、あちらでエルフの魔法使いの弟子になっていたからだ。
有名なエルフに会えたとはうらやましいかぎりだ。
ちなみに、彼女がなぜ厚労省に所属しているかというと、帰還した時に病気に罹っていたことが原因である。
未知の新しい病気であり、ちょっとした騒ぎになったらしい。
パンデミックの危険があったと、厚労省の役人たちにさんざん脅かされて働くことになったそうだ。
もっとも、家が病院だったから対応が早く助かったことや、異世界転移における検疫の必要性を痛感したことも理由の一つだ。
彼女の罹っていた病気が、命に関わる病気でなかったことも幸いしたようだ。
国交省のカオリンはある有名企業の創業者一族に、端っこながら属していると自嘲気味に話してくれた。
帰還したとき、宝石や貴金属を持ち帰って、現金化しようとして家族にバレたらしい。
大企業の経営者である大叔父から、資源確保ができたら優先権を得るという条件で、国交省に協力するよう言われたのだ。
その代わり、彼の父親は関連企業の社長になれたし、持ってきた貴金属の現金化もできた。
なんとも夢の無い生々しい話だ。
バカ様は外務省に勤める父親の勧めで入ったそうだ。
彼自身は、もともと成績優秀かつスポーツマンという少女コミックに出てきそうな男だ。
それにチートスキルまで加わって、今は元勇者の魔道師である。
優等生でありながら気さくな性格で、なかなかのナイスガイともいえる。
彼をバカ様と呼ぶのは、恵まれた彼に対する俺の感情の発露である。
一言で言えば「リア充爆発しろ! 」
しかも、勇者としてドラゴンを討伐した褒美に、異世界のある国に活動拠点を確保している。
つまり、領主様である。貴族様でもある。
これはもう、バカ殿様と呼び方を変えたほうがいいかも知れない。
外務省は、ゼンコウ君の他にも元勇者数名を確保して、その拠点でいろいろ活動を始めているらしい。
外務省の建前は、外国で領地持ちの貴族になった邦人の協力を得て、行方不明者となっている日本人の捜索と救出を行っているというものだ。
いずれにしても、異世界との国交樹立とか、将来あるかも知れない。
実は、バカ殿様には王女様との結婚話もあったらしい。
うらやましいだろう。
しかし、以前話したように完全な政略結婚で、8歳年上の王女様だった。
15歳から大人で、貴族なら12歳前後で結婚することも多い社会で、25歳以上というのは、クリスマスどころか大晦日を過ぎている。
王様も嫁き遅れを処分すると同時に、勇者を王族に取り込めれば儲けものというつもりだったらしい。
日本では、30歳過ぎてても魅力的な女性は大勢いるし、10歳年上でも世話女房として高い評価を受ける場合もある。
しかし、王女様は侍女がいないと着替えもできない人であったそうだ。
バカ殿様いわく、オバサンにしか見えなかったとのこと。
(世のオバサンごめんなさい。)
さすがに、丁重に辞退した。
可愛くて健気な、美少女の王女様というのはやはり稀少なのだろう。
俺はというと、日本に逃げ帰るのがやっとで、伯母を含めた家族一同のいるまん中に異世界から転移してしまった。
結果的に、異世界召喚という信じがたい話を、みんなが信じてくれた。
うちの場合は、俺が行方不明になったとき、伯母が両親よりも心配してくれた。
伯母は検事で、検事総長まであと一歩というところまで来ているそうだ。
なまじ役職が上がるのが速かったので、男どもから敬遠され、結局独身のままだ。
甥の欲目でなく、俺の母より歳上なのが信じられないくらい、若々しい美人なんだが。
世の男どもは見る目がない。
伯母は、小さい頃から俺のことをとても可愛がってくれた。
通常、反抗期の少年の行方不明事件など、家出同様に扱われるものだ。
しかし、俺の性格を知る伯母は、なんらかの事件に巻き込まれたと判断して、検事としての職権を使って探そうと真剣に悩んだらしい。
みんなが集まっていたのも、失職覚悟で俺を捜索しようとする彼女を、みんなで思いとどまるよう、説得しているところだったのだ。
傷だらけで帰ってきた俺の話を聞いて、最も怒りをあらわにしたのは彼女だ。
実は、特捜班のアイデアを思いついたのも彼女である。
特捜班には、伯母自身の私怨や怒りが多少混ざっているような気もする。
もちろん、召喚という名の誘拐事件に対する義憤や、召喚された人達や残された家族への同情が行動の原点だと信じたい。
しかし、召喚した異世界の権力者に対する怒りと、正義の鉄槌を下したいという願望は大きかったようだ。
特に、彼らに対してなんの処罰もないと知って、彼女の検事魂というか逆鱗に触れるところがあったらしい。
伯母は、独自に異世界召喚という名前の犯罪行為への対処方法を探っていった。
その行き着いた先が「異世界犯罪特別捜査班」なのだ。
実は、彼女がすごいのは、検事局での地位ではなく、その人脈が幅広くかつ強力だという点だ。
各省庁の事務次官クラス、つまりスダレ程度では正直太刀打ちできない人脈を持っている。
この人の持論が、
「正義のない力は醜悪だが、力のない正義も醜悪だ。」
というものだ。
伯母が言う「力のある正義」とは、暴力的なものではなく、自分の正義を貫く勇気のことだという。
手ひどい反撃をしそうな相手には何も言わず、反撃しない安全そうな相手にだけ正論めいた意見を言う人を、伯母はなによりも嫌う。
そういう人だから敵も多いが、認めてくれる実力者も多いらしい。
「こいつは手厳しいが、間違ったことは言わないからな。」
以前、伯母へ荷物を届けに役所に行ったとき、某大臣経験者が苦笑いしながら話してくれた。
しかし、伯母にいくら強力な人脈があるとは言っても、異世界召喚という話を信じてくれる人はさすがに少ないのが現実だ。
結局、彼女が信頼する政治家や判事、学者や企業経営者達の前で、俺は魔法を使ってみせるはめになった。
用意された富士演習場で実際に大規模魔法を使ってみせたのだ。
伯母はにっこり笑って耳元でささやいた。
「思いっきりやって。みんなを驚かせてあげなさい。」
俺はうなづいた後、見学にきた政治家たちに向かって話しかけた。
「先に、皆さんに誓約をして欲しいんですけど。ここで見聞きしたことは口外しないって。」
「みんな信頼できる人達よ。
だいいち、誓約ってどうすればいいの。」
伯母の問いかけに、右手を軽く上げて、法廷で宣誓するときのしぐさをして見せた。
「手を上げてフルネームを名乗ってから「私はここで見聞きしたことを口外しないと誓います。」って言ってくれればいいです。」
そう言った後、口の中で小さく呪文を唱えて契約魔法を発動させた。
「もちろん最初から口外する気はないが、君が望むなら宣誓しよう。」
法務大臣が宣誓したのに続いて、戸惑いながらもみんな真面目に宣誓をしていった。
普通なら、茶番劇に付き合わされたと馬鹿にするものだが、さすが伯母が一目おく人々である。
「粉塵が飛んでくるといけないので、前もって障壁を作っておきます。」
俺は軽く手をふって、みんながまとめて入るような透明な障壁を作る。
面白いパフォーマンスを見るかのような雰囲気で俺を見ているのはしょうがないか。
ここは出来るだけ派手な魔法がいいだろう。
俺は右手を軽く上げて、皆の注目を集めた後、指をならした。
瞬間。
ドーム状の障壁の向こうが一瞬で真っ白になった。
続いてきた凄まじい轟音と地響き。
誰もが立っていられなくなって、その場で尻もちをついたり、思わずかがみこんでいる人もいる。
俺は、さりげなく伯母の腕をつかんでささえてやった。
立っているのは俺たちだけだ。
轟音そのものは数秒で終わったのだが、耳鳴りが続いている人は多いだろう。
一応、身体に障害がおきないように防音防振対策はしておいたんだが。
次に、大量の岩や砂利が白煙の中から飛んできて障壁に激しくぶつかった。
岩はまるで爆発するように粉々にはじけ飛んでいる。
「障壁は核兵器でも大丈夫ですよ。」
思わず伏せる人達に、安心するように言ったのだが、逆効果だったらしい。
涼しい顔で立っている俺を、みんなが愕然として見つめていた。
大きな岩が落ちてくるのがやんだころを見計らって風魔法を使う。
立ち込める土煙りや砂利を吹き飛ばした後に残っていたのは大きな穴。
直径約800m、深さ最大100mの穴を見て、さすがに魔法を疑う人はいなくなった。
地べたに尻もちをついたまま、呆然として穴を見続ける大臣たち。
伯母もしばらくの間、無言で穴を見ていた。
「やり過ぎよ。全力を出す必要はなかったの。」
伯母は、あっさりと前言をひるがえして俺を叱りつけた。
「一応手加減はしたんだけど。」
俺の答えに、あとの言葉が続かなかいようだ。
口外しないと宣誓をしたときは、冗談かと笑いながら応じた人たちも、後で実際に口にすることが出来ないことを知ったときは騒然となった。
口に出来ないだけでなく、文章にすることも出来ないと教えると、スマホや手帳を取り出して試す人もいた。
実際には、スマホやビデオを含めて、撮影や録音をしても機械が作動しないようにしていたが、これは黙っておこう。
実験の後で、音と振動が周囲に漏れていなかったことを知り、結界魔法の効果も証明できたようだ。
こわばった彼らの表情に恐怖が浮かんでいたのはやむをえないだろう。
しかし、さすが伯母が見込んだ人たちだ。
彼女の話を聞いて、異世界召喚への対処の必要性を理解し、最後には出来るだけの協力を約束してくれたのだ。
伯母が様々なつてを駆使して、特捜班を作っている最中。
特捜班設置に関わっている人から、他にも異世界から帰還した人がいるらしいという情報が入ってきた。
そうして釣り針にかかったのがバカ殿様とカオリンだ。
ともに、異世界召喚やチートスキルを外部に知られないように、家出や一時的な記憶喪失として、家族が処理していたそうだ。
異世界召喚という小説まがいの出来事を、どこにも相談することが出来なかったということも大きいだろう。
何故か伯母は、彼らを自分のところに集めようとはしなかった。
もし魔導師を特捜班で独占したら、各省庁の反発をかって特捜班が孤立すると考えたらしい。
結局、他の省庁に二人を所属させることで、省庁の利益につなげると同時に、所属省庁が二人の保護をするように誘導したのだ。
得られた情報からバカ殿様が外務省に、カオリンは国交省にいくことになるだろうと容易に予測できたことも要因だった。
サクラちゃんは異世界帰還者に対してアンテナを張っていた部署が気づいて、結局厚労省が確保したというわけだ。
ついでに海外の魔導師についても話しておこう。
実は、6人という数が正確かどうかも確認できていない。
正直言って、まともな調査ができていないのが現状だ。
海外の政府機関に、異世界召喚などという荒唐無稽な話を、真面目に確認できないことが最大の原因になっている。
もちろん、魔法を見せれば信じてもらえるかも知れない。
俺が富士演習場で使ったような大規模魔法なら信じてくれるだろう。
しかし、小国の軍隊程度なら一瞬で殲滅できて、ペンタゴンの中に核兵器を直接送り込めるような存在を、世界が放置するとは考えられなかった。
現在、海外の情報はアニメやオタク関係のサブカルチャーの情報網を使って集めている状況だ。
異世界関連のアニメやマンガ、小説が最も多い日本には、異世界帰還者と思われる人や、魔法としか思えない現象の情報が集まってくる。
その情報をできるだけ外国政府機関に察知されないよう確認をとっている段階なのだ。
未確認情報ながら6人のうち4人はアメリカ、中国、ロシア、インドで各政府に保護されているらしい。
他2人については可能性が高いが、まだ魔道師とは確認できていない。
インドネシアとブラジルにそれぞれ一人ずつ、疑わしい人がいる。
時々テレビやインターネット動画で魔法を使ってみせているが、魔道師と呼べる魔力を持っているか疑問視もされている。
ただ、異世界に行って帰ってきたと話していること。
魔法を使えるらしいことだけが、魔道師と考えられる理由だ。
現在のところ、トンデモ本に載る類の話だと見られているらしい。
大きな国に多いのは、やはり人口比の関係だと思われる。
人口が多くてもサブカルチャーの情報網にかからない国もあるだろう。
ロシアや中国は、魔導師を一種の超能力者と考えており、異世界召喚などという、小説やアニメの中の出来事が実際に起こっているとは考えていないらしい。
ただアメリカだけがそれとなく日本に調査の手を伸ばしているようだ。
いずれにしろ日本の異常性が目立っている。
特捜班は活動を始めてさほど時間が経っているわけではない。
伯母の望みである召喚責任者の逮捕処罰もまだ出来ている訳ではない。
一度だけ、俺を奴隷にしてた連中を逆に召喚したが、伯母の言うショック療法のためだった。
現在、急いで法整備を行っている最中だ。
一応の大枠は出来ているのだが、日本に召喚して実際に裁判にかけるためには、もう少し細部を決める必要があるという。
特に、異世界の秘密性と裁判の透明性や公平性の両立が問題になっているらしい。
魔法使いを拘置できる収容所の設計も進めているそうだ。
その技術協力をサクラちゃんがやっているという。
以前、特捜班の設立に忙しい伯母に、異世界からの果物を差し入れに行ったことがある。
そのとき、俺を召喚した連中をどうするかという話になった。
果物はもちろんサクラちゃんたちの検疫チームが検疫済みのものだ。
伯母いわく、
「あんたが向こうに行って、悪い奴をコテンパンにしてきてもいいのよ。」
「でも法律的に問題なんじゃ。」
という俺に
「日本の法律は基本的に日本の領土内でしか適用されません。」
伯母は平然と答えた。
「国際法とかは?」
「国際法も地球上の国家間の取り決めで、あんたが思っているより脆弱なの。
フセインや北朝鮮の金なんか、逮捕して裁判にかけたことないでしょ。
だいいち、どの法律にも異世界にも適用するなんて条文ないはずよ。」
そりゃ、誰もそんな場合を想定していなかったはずだ。
伯母は、にんまり笑いながら続けた。
「だから、あんたが自分を奴隷にした連中を皆殺しにしても、日本で裁判にかけられる心配はないの。
いいえ、地球上の誰もあんたを裁けないわ。」
本当かどうかは知らないが、伯母の気持ちは良く解かった。
まだ、あの連中のことをよっぽど怒っているらしい。
俺は、一緒に奴隷にされてた人々を救出した後、どうするか未だに決めかねていた。
救出前に、いや俺が召喚される以前から大勢の戦闘奴隷が死んでいるはずだ。
放置しておけば、更に奴隷となる人々を召喚して、同じことを繰り返すだろう。
「ただね。正義のない力は醜悪だっていつも言っているでしょ。」
伯母はいつもの持論を持ち出した。
「今のあんたは力があるわ。
もしかしたら世界を相手に戦えるかも知れない。
力でどんな無理を押し通すこともできるでしょう。」
そばまでやって来て、俺の目を覗き込むように続ける。
「でも、自分に恥じるようなことはしないで。
誰が見ていなくても自分は見ているわ。
誰も非難しなくても、自分の心の声に耳を塞ぐことはできないの。
力があるほど自分を律しなければ、醜悪で救いがたい人間になるわ。」
「解かった。」
俺は短く答えた。
それで伯母は理解してくれたようだ。
にっこり笑って机に戻り、さっそく差し入れの果物にかぶりついた。
俺の安全と自由を真っ先に考えながら行動してくれた伯母には感謝している。
そうでなければ、今頃はどこかの研究機関でモルモットにされるか、無双をやって逃げ回るはめになったかも知れない。
特捜班は主に召喚された人たちの捜索や帰還、異世界の権力者達の犯罪捜査と処罰をするための組織になるはずだ。
しかし、チートなスキルを持った俺がこちらの社会に溶け込むための場所作り、という側面もあるように最近は思えるのだ。。
彼女の言葉をもう一度心の中で繰り返した。
とりあえず、連中が二度と召喚などできないようにしておこう。
その後の処理は特捜班ができて、法律が整備されてから決めてもいいだろう。
未熟なために、何処に行くのか解からなくなってきました。
プロットを作って書こうとすると全く筆が動かないのです。(この場合はキーボードが打てないんです。)具体的なイメージがわかないんです。
かといって、登場人物にかってにやらせると、あっちにフラフラ、こっちにダラダラ寄り道ばかり、全く予定通りに進まなくなるみたいです。
しかも、登場人物のイメージが貧弱なために、個性が出てきません。
一度各自を主人公にしたSSで各自のイメージに肉付けをしようと思います。
箇条書きで性格や経歴なんかを書いてもぜんぜん人物像が湧いてこないんです。
また、推敲するたびに文章が画一的につまらなくなっているように思います。
特に、簡潔で短めの文章にしようと意識すると、途中で切断したような味気ない文章になってしまっているようです。
私見ながら、最初の勢いのある文章をできるだけ残したほうが良いように感じています。
寄り道になってしまいますが、次回は主要登場人物を主人公にしたSSになると思います。
出来れば、これにこりずお付き合いください。
7月19日 サクラちゃんがかかった病気を「ハシカみたい」と言いましたが、「麻疹」は結構危険な病気らしいので削除しました。