定例連絡会議 (2)
思いつくままに書いてると、時系列や内容がおかしくなりますね。
一話ずつなら筋がとおっているんですけど。
少し修正しました。
「遅いぞ。」
会議室のドアを開くといきなりカオリンの声にむかえられた。
「まだ会議の時間になってないだろう ?」
「準備とかいろいろあるだろ。
定刻ちょうどに会議が開けるように 30分前には来ていて当然だ。」
「だ、そうですけど ?」
俺は後ろを振り向きながら言った。
スダレが憮然とした表情で会議室に入ってきた。
続いてバカ様がドアを押さえてサクラちゃんを通してあげた。
「ごめんなさい。間に合うように来たつもりだったんだけど。」
謝るサクラちゃん。
目が笑ってますよ。
思わず心の中でツッコミを入れてしまう。
「いや、まだ時間はあるから・・・」
気まずそうなカオリンの声は、しだいにか細くなっている。
彼が、国交省の魔道師井上馨。
明治時代の政治家にたしか同じ名前があったと思うんだが。
教科書や幕末明治を舞台にしたテレビドラマなんかに時々出てくるはずだ。
彼はこの名前に軽いコンプレックスを持ってるみたいだ。
「かおる」という女に間違われたり、ある教師には「名前負けせず、せめて半分でもいいから立派になれよ」などと言われ続けたそうだ。
俺がカオリンとあだ名をつけたせいでは決してない。
もっとも、最近よく聞く凝った名前よりはずっとましだと思う。
時々、歳とってもあの名前を使うのかな、と思うような名前に出会うことがあるんだ。
親が子供に様々な夢や希望を託しているのは解かるんだが。
名前をつけるときは、子供の将来をよく考えて欲しいとつくづく思う。
ちなみに俺も凝った名前には苦労したくちだ。
最終的には感謝してるんだが。小さいころは名づけ親を恨んだものだ。
この連絡会議にはスタッフも含めて井上姓が四人いるため、みんなが彼を名前で呼んでいる。
「会議にはまだ時間があるけど、召喚された人たちの救出という点では時間がないわ。」
会議室の奥の方に座っている女性が声をあげた。
みな一様に驚き、彼女の視線に気まずそうな表情をうかべた。
「あなたたちはいったい何時まで、用語の統一とやらで時間をつぶすつもりなの?」
スダレが何か言いたそうにしていたが、結局なにも言わず自分の席についた。
みんなもそそくさと席に着いて、会議の準備を始めている。
俺も自分の席について、机の上の書類を読むふりをしながら女性の方をのぞき見た。
みんな、今日彼女が出席するとは知らなかったみたいだ。
当然俺も聞いていなかった。
確認しようと横を見ると、お姉さんがいない。
廊下で、お姉さんも含めた数人のささやき声が聞こえる。
きっと班長を携帯で呼び出しているのだろう。
他の省庁でも、もっと上の偉い人を呼び出そうとしているみたいだ。
落ち着いているのは、事務次官クラスのスダレがいる外務省だけだ。
もっとも、スダレの表情も少し強ばっているように見える。
静かだがあわただしい十数分が経過して、みんなが席についた。
重苦しい空気の中で、誰も一言も発しない。
進行役の外務省スタッフはやたら時計を見ている。
数分後、会議の時刻になったところで、進行役が口を開いた。
「えー、今月の定例連絡会議を開きたいと思います。」
それと前後してスダレが立って話し出した。
「今日橘さんが出席するとは聞いていなかったが?」
「私も忙しいから、わざわざ出たくなかったわ。」
座ったままの女性から、すぐさま答えが返ってきた。
「国としての意思の統一だの、省庁間の協力だの。お題目は立派だけど、ぜんぜん実効につながらないじゃない。」
強い口調で言う彼女にスダレが反論した。
「しかし、意見の調整には時間かかかるものだ。あなたのように独断専行でことを進めては逆に問題が起こる。」
「特別捜査班のこと?」
「そうだ。組織上も法律的にも問題がありすぎる。」
うわぁ~。こちらに火花が飛んできた。
俺とお姉さんは、火花を避けようと首をすくめた。
「でも、実績は出してるわ。
日本に帰ってきた召喚経験者の多くは、うちで連れ戻した人達よ。」
「うちの志村君たちもちゃんとやっている。」
「たしか、8人だったかしら。」
女性の言葉にスダレは強い口調で反論した。
「人数は問題ではない。君のやり方は国内法上も国際法においても問題だ。」
「じゃ、北に拉致された人達と同様に、のんびり話し合いで解決しようというの?」
「のんびりやっているわけではない。」
スダレは、だんだん押され気味になって、最後は言葉をつまらせた。
スダレが席に座り込むのにあわせて、女性は立ち上がってみんなを見回した。
「時間が経つほど連れ戻すことは困難になるのよ。」
「北の拉致被害者もそうだけど、異世界への召喚はもっと深刻なの。
時間経過の差異は知っているでしょう。」
進行係に代わって正面に立った女性は、改めてみんなを見回した。
「差異の大きな世界に召喚された人達は、帰っても誰も家族や知人が残っていない浦島太郎みたいになってしまう。
さもなければ、逆に親より年寄りになっている可能性が高いの。」
実は、異世界ごとに時間の流れが少しずつ違うのだ。
ときには、日本で1年でも向こうでは数十年経っていたということもあるのだ。
勿論、逆もある。
300年以上前に召喚された勇者の子孫という人にあったことがある。
話を聞くと、その勇者はどう考えても平成生まれとしか思えなかった。
異世界の過去にさかのぼって召喚されたということだろうか。
異世界間の時間の流れ方については、まだ不明な部分が多い。
もっとも、ほとんどの場合は一時間に数分程度の誤差である。
しかし、長期間異世界に滞在した場合は、誤差が蓄積されて馬鹿に出来ない差異が生じる。
最初はこの差異に気づかず、少々の時間の狂いを勘違いだと思っていた。
ある時、日本に帰還したとき腕時計で7時だったのに、約30分後に7時の時報が鳴ったのだ。
腕のクォーツ時計は7時32分を示していて、異世界間に時間の差異があることがはっきりしたのだ。
まだ、数十分の差異なら到着後に確認すればよいし、電波時計にすれば自動的に時刻を修正してくれる。
しかし、翌日の朝帰ってきたつもりが、3日後の昼だったことがあり、問題が大きくなった。
時間経過にどれ位の差異が生じるかは、異世界から帰ってきて初めて解かるのだ。
まだ数日だから良かったが、数十年の誤差だと、まさに浦島太郎になる可能性が出てくる。
これは大きな問題になり、しばらく異世界転移は禁止されてしまった。
結局サクラちゃんが、異世界において日本時刻を計測できる魔法具を開発したことで解決した。
今は転移直後に時間の差異を確認することになっている。
異世界ごとの差異のデータはまとめて統一管理することになっている。
「召喚された人達は、時間が経つにつれ、帰るのを諦めるようになるわ。
そして、向こうで家族ができて様々なしがらみができる。」
年月が経って、もう日本に帰れないと考えた人達が、現地の人と結婚するのは自然の流れかもしれない。
勇者召喚の場合は、討伐に成功した後、貴族になって王女様と結婚というのも無いわけではない。実例も身近にあるのだ。
もっとも、この場合政略結婚であることは理解して欲しい。
そういえば、向こうでウサ耳の可愛い奥さんと子供ができて、帰るの断った人もいたな。
あの人は、こっちにも妻子を残していて、断るときすごく辛そうにしていた。
結局、日本なら母子家庭でもなんとか生活できるけど、向こうじゃ女子供だけだと奴隷にされたり、死ぬ危険が多いから残ったんだろう。
「向こうでの仕事はまずこちらじゃできないし、こちらで使える知識や技術を身に付ける機会もないわ。
異世界の多くはこちらより危険だから、怪我をおったり最悪死ぬ場合もある。
そうなった後に迎えに行っても手遅れよ。」」
たしかに、冒険者になって魔物討伐をやっても、その経験はこちらじゃ使えないだろうな。
自分で仕事するなら、転移魔法やアイテムボックスを使った運送業とかできそうだが、運送業界の猛反発をくらいそう。
企業に勤めるにしても、技術や知識を持ってないのだから、どうしてもチートスキルを使った仕事になるだろう。
そして、チートに対する嫉妬やなんかで、いずれ辞めざるを得なくなるのだ。
異世界召喚や帰還を秘密にする大きな理由の一つが、このチートスキルの存在だ。
むこうに残りたい人達がいるのと同様に、日本に帰ってきてチートを使って生きたいという人達もいるのだ。
異世界でのチートでTueeを夢見て、安易に召喚を待ち続ける人が増えても困る。
そもそも現実から逃げているような人が、異世界で成功できるはずがない。
それどころか、現実を直視できなければ奴隷になるか、死が待ち構えていると思ったほうがいい。
また、日本でチートスキルをつかって暮らしたいという人も、困り者だ。
異世界では、魔法使いたちの社会的地位がすでに確立している。
だから、多少のチートでも容認されるのだ。
そんな異世界でも、やはり嫉妬や羨望などがあるし、利用しようとする権力者も多いのが現状だ。
魔法を使えない絶対多数の前で、魔法を使って好き勝手をすればどうなるか。
最悪の場合、こちらの世界で異世界経験者に対する魔女狩りが発生してもおかしくないだろう。
「単に召喚されたというだけでなく、向こうでは戦場に送られて死ぬ可能性も大きいの。」
そのとおり。
勇者召喚は、魔王やドラゴンなどと戦わせるために呼ばれるのだ。
今までに調べた限りでは、討伐の成功率は6割程度だったと思う。
みんなは、この数字が思ったより低いと思うかも知れない。
しかし、異世界で勇者召喚する人達は、戦略や兵站などの概念を知らないことが多いのだ。
勇者のステータスがいくら高くても、スキルがあっても、それをうまく使えない環境がある。
機銃の並ぶ前で、馬に乗って「我こそはー」などと名乗りをあげてたら、撃たれて当然だろう。
そういう人達が仲間や上官にいるのだと考えてほしい。
以前、広域上級魔法を使える勇者が、アウトレンジからの魔法攻撃を主張したら、卑怯だと言われたそうだ。
王様は、従来のやり方にこだわったあげく、混戦状態になってから、魔法で何とかしろと命令したという。
味方を巻き添えにする気かよ。まったく。
勿論、争いごとなど無縁に育った日本人が、少々の訓練だけで、スキルをうまく使いこなせないまま戦死、という失敗例も多い。
何度も言うが、スキルは道具のようなもので、使いこなすには工夫や経験が必要なのだ。
特に、神様なんかに貰ったばかりのスキルはそうだ。
「中には、隷属魔法で戦闘奴隷として酷使されてる例もあるの。
この場合は、ごく短期間で生存率は下がるのよ。」
実は、俺が召喚されたのがこれだった。
何も知らずにうっかり本名を名乗って、隷属魔法をかけられてしまった。
向こうにも日本人がいて、最初はいろいろ親切だったんだ。
奴隷にされてからは酷い扱いだったけど。
世話してくれた日本人も「奴隷にされてて逆らえなかったんだ」と謝ってくれたけど後の祭りだ。
「自分や家族が異世界召喚されたら、どうなるかもっと真剣に考えてちょうだい。」
席に戻った女性は、もう一度みんなを睨みつけるように見回した。
さすが経験者だ、言葉に重みがある。
といっても、別に彼女が異世界召喚経験者というわけではない。
彼女は召喚経験者を家族に持っているのだ。
手っ取り早く言うと、俺の伯母さんだ。
あだ名について、身体の欠点をあげつらうような面もありますが、悪意はないものとして勘弁してください。
正直いって名前を考えるのが苦手なんです。
特に、奇をてらった変わった名前というのにすごく抵抗があります。
そういうのは主人公だけにしたいと思います。