定例連絡会議
前の話がちょん切れますけど、俺のせいじゃありません。
説明のじゃましたお姉さんのせいです。
文句いう勇気がある人は直接お姉さんまでおねがいします。
「タク、何をぼんやりしてるの。」
説明している最中に準備ができたみたいだ。
事務のお姉さんが肩をたたいた。
「行くわよ。」
読者の皆さんに状況説明も必要だと思うんだが、しょうがない。
俺はお姉さんの後に続いて廊下に出た。
特捜の部屋のドアには、「失踪者関係資料保管室」と書いたA4用紙がガムテープでおざなりに貼ってある。
あながち間違いではないし、特捜の存在を秘密にする必要性は理解しているのだが、正直ダサい。
「ダサいって言葉も古いのかな~?」
異世界とこちらを行き来して、同年代の友達と遊ぶ機会が少ないためか、俺は新しい情報に疎く、少し言葉使いが古いらしい。
先日、「タク君の話し方、ちょっと変」と女の子に言われてしまった。
「何ぶつぶつ言っているの?急いで。」
少し足を速める彼女に、俺は大またで続いた。
「今日の議題は何?」
「前回と同じよ。」
彼女の答えは解かっていたが、俺のモチベーションが急降下したのは否定できない。
新しい議題なら班長が出るはずなのだ。
「またかよ~」
うんざりした声で言うと。
「しょうがないでしょ。誰のせいかといえば、あなた達のせいなんだから。」
「そりゃそうだけど。」
「同じ日本語を話してるのに、お互い言葉が通じないんじゃ、会議にならないわ。」
「はい。申し訳ございません。」
俺は素直に頭をさげて、お姉さんの後につづいた。
じつは、今向かっているのは異世界がらみの省庁間の定例連絡会議なのだ。
異世界に行けるのはなにも俺1人というわけではない。
現在判っているだけで、世界中に11人。そのうち5人が日本人だ。
約半分が日本人ということで、異世界転移する日本人の割合がいかに多いか想像がつくだろう。
その殆どが勇者召喚というのだが、日本人てそんなに勇敢だっけ?
ついそんな疑問をなげかけたくなってしまう。
元勇者と巻き込まれも含めた異世界転移経験者の数は、国内で把握しているだけで126人。
もちろんこれは、日本に帰って来た人たちの数である。
異世界に残っている人達の数については、正直把握しきれていない。
現在、各省庁に所属している魔道師が調査した数を集計している段階なのだ。
ここで魔道師というのは、魔術師の中でも自力で異世界転移ができる能力者のことをいっている。
実は、この「魔道師」を始め、各異世界で使われている言葉が違うことが判ったため、途中で「用語」の統一なる作業が入ってしまったのだ。
例えば、アイテムボックスという有名な空間スキルがある。
外務省所属の魔道師志村と厚労省のサクラちゃんは、異なる種類の空間スキルを同じアイテムボックスと呼んでいた。
国交省の馨は、志村と同じだったが、マジックボックスと呼んでいたのだ。
ちなみに、俺はこの手の空間スキルを3種類使えて、その内のひとつをアイテムボックスと呼んでいる。
志村や馨と同じ空間スキルを俺はマジックバッグと呼んでいた。。
サクラちゃんのは、俺がストレイジと呼んでいる空間スキルと同じようだ。
ほかの元勇者の使っている言葉を集めたら、もっとたくさんの呼び名が出てくるだろう。
混乱を避けるために、各省庁に所属している魔道師4人の間で言葉の統一を行うことになってしまった。
退屈な上に、各省庁は自分のところの魔導師が使っている言葉を標準にしようと、綱引きを始めるのだ。
言葉の一つ一つにそんなことをされると、付き合わされるこちらはたまったもんじゃない。
魔導師全員の本音は「どれでもいいからさっさと決めろ」だ。
「遠話」で確認したので間違いない。
もっとも、この「遠話」というスキルもいろいろと違う呼び名があるらしい。
ちなみに、オブザーバーとして防衛省と法務省が参加している。
5人目の魔導師は、防衛省が確保しようとしているらしいが、俺が見た限りでは、一匹狼を気取ってどこにも所属する気がないようだ
「よう。タク元気だったか。」
会場となる外務省のビルに入ったら、さっそく声をかけられた。
聞きなれた声にふり向くと、俺が「バカ様」と呼んでいる志村だ。
すぐ後ろに、同じ外務省所属だが異世界転移ができない鈴木という元勇者が続いている。
一緒にいる外務省の役人の名前は忘れてしまった。
スダレと黒縁。それぞれあだ名をつけているが、スダレは事務次官クラスだったと記憶している。
「ようバカ様も元気だったか。」
俺は片手をあげて軽く挨拶をした。
「なんだよ。相変わらずひどいな。いいかげん他のあだ名に変えてくれ。」
「じゃあ、バカ殿様。」
「なんでそこからはなれないんだよ。」
「いや、志村というとバカ殿様だろ。」
そこにスダレが割り込んできた。
「公式の場ではちゃんと名前を呼んだらどうなんだ。」
「前に説明しませんでした?」
「真名は重要だという話か。」
木で鼻をくくったような態度とはこういうのを言うのだろう。
いかにも見下したようで冷淡な話しぶりだ。
「しかし、すでにお互いの名前が判っているのだから意味があるまい。」
「だから、俺たち以外の人間に知られないように気を使っているんですけどね。」
俺はスダレの横を指差しながら言った。
「知らないうちにそばに人が立っていたりするでしょう。」
スダレは、いつの間にか横に立っているサクラちゃんに今気がついたらしい。
「彼女も関係者だ。」
「初めて見る顔もあるみたいですけど?」
サクラちゃんの後ろには、いつも見知った厚労省の役人の他に、俺と同年代の男が一人立っていた。
「彼。今度新しくうちに加わった鈴木雄一郎君です。」
サクラちゃんがアッサリと本名をばらしてしまった。
二人目の鈴木君が俺たちに軽く頭を下げた。
「鈴木ですよろしく。」
「弱ったな、鈴木君が二人だ。」
外務省の鈴木君を見ながら俺は言った。
「あっちを今までどおりゼンコウ君で、こっちはスーちゃんでいいかな?」
「スーちゃんですか?」
新しい鈴木君が少し引きつった笑顔で聞いてきたので、サクラちゃんが説明してくれた。
「タクさんのいた異世界では、本名つまり真名を知られると隷属の魔法とか、呪詛をかけられたり、色々危険が多かったんだって。」
「こんなところで機密にふれる会話をするな。」
自分から話を振ったくせに、スダレが叱り付けるように言った。
「じゃ、さっさと行きましょう。」
俺はそう言ってエレベータに乗り込んだ。
俺だってセキュリティーには気をつけている。
俺たちの周りには認識阻害魔法をかけていた。
周りの人たちは、俺たちの顔も覚えていないし、何を話していたか記憶に残らないはずだ。
バカ様も、俺がそう呼ぶほどバカじゃない。
風魔法で声が漏れないようにして、空気の屈折率を歪めてカメラ撮影等ができないようにしていた。
サクラちゃんにいたっては時空間遮断で、電波まで遮断してたので盗聴マイクなどがあっても大丈夫なはずだ。
もっとも、誰かが盗聴マイクの類を身につけていれば、俺やバカ様もすぐ気がついたはずだ。
さすが魔道師が3人も集まるとチートの見本市みたいだなあ。
これに気がついていたのはこの3人とスーちゃんだけらしい。
新人のスーちゃんはなかなか有能そうだ。
1話目で最初タクと特捜班について説明してつもりだったのに、だんだん話しが発展していって、収拾がつかなくなりそうなので、一度切らせてもらいました。
申し訳ありません。