~消~ 4
近づいてきた影は言った。
「私が、お前の兄貴を殺した。もう、この世にはいない」
何の抑揚もない声だった。
嘘だ... ...。
知らない間に僕の目から涙がこぼれる。
「僕はこれからどうすればいいんだ。
兄のように、兄のようにって言われてももう、なれない」
たまっていたものが、口からこぼれた。
「貴方も兄のように優秀だったらいいのにね」
「君の兄さんは天才だったよ。君もそうなれるといいね」
「私ね、ずっと彼のことが好きだったの」
色々な声が頭を駆け巡る。
そうだ、そう... ...。
僕は、「兄」になるために生きてきた。
でも、その「兄」はもういない。
目の前のやつに殺されたんだ。
殺されたらもう、なにもできなくなる。
僕はどうすればいいんだ。
どうすれば、何をすれば、どこにいけば... ...。
目指すものも何も、何もない。
「自分の好きな道に進めばいい」
影がふと、こちらをむいて言った。
そして、僕の顔を覗く。
影の顔が見えた。
ローブの奥に見えたその顔は、とても綺麗だった。
「自分の人生だ。人に押し付けられた道を行くな。道を進むんだ... ..。
その道が「人」の道でなくても... ... ...」
黒い瞳がまっすぐこちらを向いている。
美しいってこういうことを言うんだなと、思った。
僕が彼女に見とれていると、倉庫の奥から声が聞こえる。
「全員殺したよ~」
彼女はその声に、
「分かった。すぐ向かう」
と、答えた。
そして僕に、
「もう私は行く...。私たちとは出会わないといいな」
と言った。
その瞬間、彼女の姿は消えていた。
何事もなかったかのように... ...。
だが、僕の記憶に彼女の顔は焼きついたままだ。
兄さん...ごめん。
僕、兄さんを殺した人に惚れてしまったみたいだ。
あともう一つ、僕は兄さんのことが嫌いだ。
僕の単なる嫉妬だよ。
いや、兄さんだけじゃない。
友達だった少女も、学校の先生も、父さんも、母さんも、みんな嫌いだ。
感情がない兄さんには分からないだろうけど。
僕は、僕の行きたい道を進む。
彼女にまた会える道を。
誰もいない倉庫。僕はただ、笑った。
この世界には誰もいない。だけど、彼女はいた。
どこからか聞こえてきた鐘の音は... ...。
なんだったのだろう。
走る。ただ走る。北のターン王国へと。
ここに残るは、ただ一人の少年のみ。それを知っているのは、私だけ。
ここには何もない。これが最善策。
ただの気まぐれ?いや、違う。
まあ、いい。そういうことにしとこう。
ちょうど数刻前
「ガード」
強化された盾が剣を弾く。
見事な能力だ。魔力もそうとうあるだろう。
しかし、ここで負けるようじゃ私もここまで生きてはこれなかった。
私は、地面を蹴り相手の後ろへ回る。その間1秒もなかったはず。
相手と目が合ったときには、もう切り込んでいた。
だが、相手も相当だった。
無詠唱でヒールを使ったらしい。切り傷がみるみるうちに癒えていく。
こんな小国にこのレベルがいるとは。
「もったいないな。その腕」
それを聞いた彼は笑った。
「ハハハ。でも、勝つことはできないだろう。魔力がきれた。俺はもう少しで死ぬだろう」
私はその言葉に頷く。
そして隙を突いた。
「スラッシュ」
バシュ、肉が切れる音。斬った。
私は、倒れこんだ相手を見る。この傷であれば死ねるだろう。
「欲を言えばあと、もう少し生きていたかった」
小さくかすれた声だった。
だが、死にそうな声では無かった。
「敵に話すことでは、いと思うが、話した、なった。もう死ぬ_だろうか。
俺には、がいる。世界で_人の家族。俺は弟を、していた。
かっこいい兄でい_うとして、感情がな_ふりをずっとしていた。
だから、_づかなかったんだ。弟が壊れてい、ことに。
弟は、俺とは、照的で凡才だ、た。だから、周り、人間は過度なプレッ、ャーを与えてしまった。
幼い弟は_れた。ぐしゃぐしゃに。
ある日、家に帰ったら、が_じゃなく、っていた。それを_て弟は呆然と立ち、くしていた。
そして俺に言った、だ。
僕ね、で_よ。h_の。凄いでしょ。ねぇ、褒めて、って。
俺はすぐさま_を消した。近所には、行_明だと嘘を、いて。
弟には、_、薬を使った。だが、効果はど、どん切れていく。あいつが大人になった_には記_が全て戻っているだろう。
だから、
俺は見守_たかった。でもも、無理だ。けど、心、なんだ。
だから、俺は、あいつに、てを託そ_と思う。俺の_をあいつに。
死ぬ前に罪を作、なんてな。
なあ、俺の代わ_に見守ってやってk」
最後の言葉を残し、彼は目をとじた。
心臓の音が聞こえない。満ち溢れていた魔力も感じられない。
もともと死んでいたような彼の抜け殻に踵を返し、私は進む。
聞こえにくかったが、言いたいことは分かった。
このあと、どうしようとも私の自由だ。私は何も感じなかったから。




