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春の訪れ  作者: 蒼流 聖
2/3

寒空の疾走!

本編(まだまだ先は長いっ!)スタートです!


 ピピピピピッピピピピピッピピピ…………

「ぅ……んん……」

 平日と土曜の朝は毎回聞いているが、いつまでも慣れる事がない音で今日も目が覚める。

 いつもならば、音の元凶を止める為に「上体を起こして」「手を伸ばし」「スイッチを切る」と言う一連の動作をするのだが、今日に限っては日課と言える動作ですら起こそうとは思えず、視線上に広がる天井だけを何を考える訳でもなく見続けていた。

 そうして、ふと今見た夢について考えを廻らせる様になる。

「俺が何を忘れてるって言うんだよ……」

 夢の中で言われた言葉にも関わらず、どうにも釈然としない気持ちになってしまう。

 あの夢に出てきた声の主なんて自分には分からない筈だし、ただの夢の中の登場人物(?)でしかない筈なのに……どうしても懐かしいと思ってしまう声だった。

 自分が何を忘れ、そして何故忘れてしまった事を今更思い出さなければならないのかがどうしても判らない。

 でも、思い出さなければならないと頭の中の自分が訴えかけている様な変な感覚がどうしても残ってしまう。

 延々と同じ疑問、同じ考えを逡巡(しゅんじゅん)させるが、時間は永遠ではない。 やがて思考が緩やかに平常さを取り戻すと、外から女子と思われる声が小さく少年の耳に入ってきた。

瑞樹(みずき)ー!周防瑞樹(すおうみずき)ー!起きてるー?起きてるなら早く出て来ないと遅刻しちゃうわよー?」

 聞き覚えがある声に瑞樹と呼ばれた少年は、ふと先程からけたたましく音を発し続けている目覚まし時計を見た。


8時35分を示していた……


「うおっ!もうこんな時間なのかよっ!」

 言いながら瑞樹は慌ててベッドから飛び出して窓へと向かい、カーテンと一緒に開けた窓から身を乗り出し、階下の玄関前で自分の手を息で温めていた少女に声を掛けた。

「ワリィ!今から着替えっから先に行っててくれ!」

「私は大丈夫だから、寒いんだし早く着替えて出て来なさいよ!」

「でも、そしたらお前も遅刻……」

「グダグダ喋る暇があるならさっさと仕度しなさいっ!」

 と、幼馴染である腰まである薄茶色のロングヘアー少女―鞠内有栖(まりうちありす)叱咤(しった)され、やむなく大急ぎで制服に着替えた後に、学校指定鞄と腕時計を持って階下に居る少女の元へと急ぐ。

「ぅぉっ寒っ!?っと、スマンッ!今から間に合いそうか?」

「正直微妙ね……でも、走れば間に合うかもしれないし急ごっ!」

 確かに腕時計を見ると走ればギリギリ間に合うかどうかと思える時間だった。

 自分は自業自得だとしても、目の前に居る少女までをも最悪遅刻扱いさせてしまい、大衆の前で恥をかかせてしまうと思考した瑞樹は、それは嫌だな。と思い有栖にある提案をする。

「なぁ有栖。どうせなら、チャリ使って行くか?この間チャリの良い隠し場所も見つけたし、今からならそっちの方が早いと思うぜ?」

「あんたが良くてもあたしは歩きだってのっ!」

「別に俺のチャリの後ろに乗ってけば良いだろう?ママチャリだから後ろに乗れんだし。」

「ッ!?バッ……バッカじゃないのっ!?ただでさえ自転車通学禁止だってのに、二人乗りなんかして誰かに見つかったりでもしたら……」

「こんなギリギリの時間に先生も居ないだろうし、他の生徒に見つかったとしてもそんな奴等数少ないって。それよりどうすんの?それこそこのまま言い争いしてっとチャリでも遅刻しちまうぜ?」

「……私が言いたいのはそう言う事じゃなくって……」

「じゃ、何だよ?」

「~~~~~ッ!!知らないっ!バカ瑞樹っ!っ……ほらっ、行くんでしょっ!?行くならさっさと自転車出してきなさいよっ!」

「あーハイハイ。分かりましたよ。お姫様。」

「誰がお姫様だっ!」

 頭を1発殴られながらも、鍵を開けっ放しにしている自転車を出して瑞樹は用意を済ませた。

「ほらよ。タクシーとか白馬とかカボチャの馬車とかじゃねーけど、快速学校行きだ。さっさと乗ってはいただけませんでしょうか?有栖さん。」

「うっさいわねっ!…………んしょ。ほら、乗ったわよ。ちゃんと安全運転で行きなさいよね!」

「快速だからと言って快適さまで求められると……答えはノーだっっっ!!」

 そう言い切るか否かの間に瑞樹は自転車のペダルを勢い良く踏み込んだ。

「っひゃぁっ!?」

「しっかりつかまってろよー!」

「ちょっ!?つかまるって……どこ……っにっ!!」

 いきなり走り出した自転車に戸惑いつつ、有栖は瑞樹の肩にしがみ付く。

「そんなとこじゃ振り下ろされても知らないからな!」

 自転車を上手く操作しながら、瑞樹は尚もペダルをこぎ続ける。

「そんな事言ったって、他に何処につかまれば良いって言うのよっ!」

 有栖は振り落とされないよう懸命に瑞樹の肩を掴みながら、抑えきれずに文句を言った。

「肩をつかまれると、俺も立ちこぎとか出来ねーから、せめて腹に腕を回してもらえると有難いんだが。」

「ちょっ!何バカな事言ってんのよ!そんなっ……恋人みたいなマネ……なんて……それに…………」

「えー?何か言ったー?」

 どうやら、瑞樹には風を切る音で有栖の声があまり聞こえていないらしい。

「な、何でもないわよっ!………………ほらっ!ちゃんと言うとおりにしたんだから、絶対に遅刻なんてしないでよねっ!!」

「はいよっ!んじゃ、もうちょい飛ばすぞー!」

「ぇっ…?結構スピード出て、ひゃぁっ!」

 有栖の言葉を聞いてか聞かずか、瑞樹の運転する自転車のペースが上がった。

「もう直ぐ、蛇坂(へびざか)だからしっかりとつかまっとけよー!」

「こんなスピードで蛇坂なんか行ったら……って……ひゃあぁっぁぁぁあぁぁぁああぁあぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 有栖の絶叫とも泣き声とも言える悲鳴が、うねうねと蛇行した坂を下りる自転車と併走して青く透き通る寒空へと吸い込まれていったのであった。



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これから超ゆっくりペースかもですが投稿頑張りますのでまた見ていただけると幸いです。

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