近所の無職 :約4000文字 :奇 :会話劇
リポーター「こちらは現場となった住宅の近くの道路です。ご覧のとおり、現在も警察の現場検証が続いています。周囲には規制線が張られており、この先へ立ち入ることはできません。パトカーや消防車が複数台停車しており、一帯は緊迫した空気に包まれています。凄惨な事件であったこともあり、近隣住民の間には不安と動揺が広がっているようです……あ、それでは、あちらの方に少しお話を伺ってみましょう。すみませーん、お時間よろしいでしょうか?」
通行人「え? あ、はい」
リポーター「ありがとうございます。今、何をされていたところですか?」
通行人「何をって……まあ、コンビニに行ってきた帰りですけど……」
リポーター「なるほど。ちなみに、その袋の中には何が入っているんでしょうか?」
通行人「え、まあ、普通に夜食とかです」
リポーター「あ、結構買われていますね。お若いだけあって、よく召し上がるんですか?」
若い男「まあ、明日の朝の分も一緒に買ったので」
リポーター「なるほどー。それでは改めてお伺いしますが、数時間前、あちらのお宅で事件があったことはご存じですか?」
若い男「あー、はい。まあ」
リポーター「住人の方のお顔などは知っていましたか?」
若い男「まあ、一応は知っています」
リポーター「あ、ご存じなんですね! ということは、ご近所にお住まいで?」
若い男「ええ、近いっちゃ近いですね」
リポーター「普段から何かお付き合いはありましたか?」
近所の若い男「いやー、あそこはちょうど自治体の境界なんですよね。だから交流するほどでは……」
リポーター「なるほど。でも、お顔は知っていたわけですね」
近所の若い男「まあ、はい。立ち話くらいはありましたね」
リポーター「おお! ちなみにご年齢は?」
近所の若い男「え、年齢は……どうだったかな」
リポーター「ああ、いえいえ。あなたのご年齢です」
近所の若い男「え、僕ですか? 二十六ですけど」
リポーター「あ、まだお若いですね。たくさん食べるわけですね」
近所の若い男(26)「まあ、ははは……」
リポーター「今は何をされているんですか?」
近所の若い男(26)「え、だからコンビニで夜食を買って帰るところでしたけど」
リポーター「ああ、あはは。そうではなく、ご職業は?」
近所の若い男(26)「え……まあ、無職です」
リポーター「えっ、あ、そうでしたか……」
近所の無職の男性(26)「まあ、はい……」
リポーター「お名前は?」
近所の無職の男性(26)「え、名前、名前ですか……いやー、ちょっとわからないですね」
リポーター「いえ、ご自身のお名前です」
近所の無職の男性(26)「え、僕の? 矢地島健吾ですけど……」
リポーター「ご友人は多いほうですか?」
近所の無職の男性 矢地島健吾(26)「友人? いやー、普通にいたんじゃないですかね。明るくて気さくそうな方でしたし」
リポーター「いえ、そちらではなく、あなた自身のことです」
近所の無職の男性 矢地島健吾(26)「え、僕は……まあ、そんなに多くはないですかね」
リポーター「少ない、と……。孤独を感じることはよくありますよね?」
近所の無職の男性 矢地島健吾(26)「まあ……人並みには……」
リポーター「今は一人暮らしですか?」
近所の孤独な無職の男性 矢地島健吾(26)「え、いや、ご家族で暮らしていると思いますけど――あ、僕のことですか?」
リポーター「はい」
近所の孤独な無職の男性 矢地島健吾(26)「一人暮らしですけど……近くのマンションに」
リポーター「では、家賃や食費など金銭的に大変でしょう。親御さんから仕送りなどは受けていますか?」
近所の孤独な無職の男性 矢地島健吾(26)「あー……まあ、もらっちゃってますね」
リポーター「でしょうね。普段の生活の中で、『つらい』『苦しい』と感じることはありますか?」
近所の孤独な無職の男性 矢地島健吾(26)「僕のことですよ……ね。まあ、はい。あります」
リポーター「社会に対して何か不満を抱いていますか?」
近所の孤独な無職の男性 矢地島健吾(26)「不満……まあ、物価がどんどん上がってるなあ、とかですかね」
リポーター「その不満を解消したい、何か行動を起こしたいと思うことは?」
近所の孤独な無職の男性 矢地島健吾(26)「んー、そりゃまあ……どうにかなればいいなとは思いますけど」
リポーター「どうに……でもなればいい、と」
社会に不満を持つ近所の孤独な無職の男性 矢地島健吾(26)「え? すみません。ちょっと聞こえませんでした」
リポーター「いえ。普段叫んだり、暴力を振るったりすることはありますか?」
社会に不満を持つ近所の孤独な無職の男性 矢地島健吾(26)「え、いやー、変わった様子はなかったと思いますけどね……あ、また僕のことですか?」
リポーター「はい」
社会に不満を持つ近所の孤独な無職の男性 矢地島健吾(26)「いや、そういうことは特にないですけど……」
リポーター「これまで一度も? 例えば、大声を出したことは」
社会に不満を持つ近所の孤独な無職の男性 矢地島健吾(26)「まあ、ゲームをやっているときなんかは、つい出ちゃうことがありますね」
リポーター「ゲーム!? ちなみに、アニメはお好きですか……?」
社会に不満を持つ近所の孤独な無職の男性 矢地島健吾(26)「え、まあ、たまに見ますけど」
リポーター「おお……ちなみにゲームはどんなジャンルを遊びますか?」
社会に不満を持つ近所の孤独な無職のゲームアニメ好き男性 矢地島健吾(26)「ジャンルですか? ジャンルか……」
リポーター「対戦系とか?」
社会に不満を持つ近所の孤独な無職のゲームアニメ好き男性 矢地島健吾(26)「ああ、そうですね。ほら、色を塗って陣地を広げるやつとか、最後の一人になるまで戦うやつとか――」
リポーター「銃を使うゲームですね?」
社会に不満を持つ近所の孤独な無職のゲームアニメ好き男性 矢地島健吾(26)「あーはい。まあ、そういうのもやりますね」
リポーター「なるほど……では、銃などの武器を集めるのはお好きなんですね?」
社会に不満を持つ近所の孤独な無職のゲームアニメ好き男性 矢地島健吾(26)「ええ、結構集めていますね」
リポーター「おお……なるほど。では、『負けた』『悔しい』『もうどうにでもなれ』と自暴自棄になることはありますか?」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持つ近所の孤独な無職のゲームアニメ好き男性 矢地島健吾(26)「あー、まあ、ありますね……」
リポーター「お、おお。なるほど……」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持つ近所の孤独な無職のゲームアニメ好き男性 矢地健吾(26)「え、ゲームの話ですよね?」
リポーター「人柄などは?」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持つ近所の孤独な無職のゲームアニメ好き男性 矢地島健吾(26)「人柄、ですか。自分で言うのもなんですけど、優しいって言われたことはありますね」
リポーター「いえ、事件の被害者の男性についてです」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持つ近所の孤独な無職のゲームアニメ好き男性 矢地島健吾(26)「あ、そっち。えっと、だから明るくて気さくな方でしたね」
リポーター「何かトラブルはありませんでしたか?」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持つ近所の孤独な無職のゲームアニメ好き男性 矢地島健吾(26)「えー、いや、そこまで深い付き合いではなかったですけど、特に変わった様子はなかったと思います」
リポーター「あなたとその男性との間のことです」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持つ近所の孤独な無職のゲームアニメ好き男性 矢地島健吾(26)「え、そんなのありませんよ」
リポーター「家庭を持っている人や幸せそうな人を見ると、羨ましく思ったり妬ましく感じたりすることは?」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持つ近所の孤独な無職のゲームアニメ好き男性 矢地島健吾(26)「え? それはまあ、自分もいつかそうなれたらいいなとは思いますけど」
リポーター「……誰でもよかった」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持つ近所の孤独な無職のゲームアニメ好き男性 矢地島健吾(26)「はい? なんです?」
リポーター「いえ。今、とても怖いでしょう」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持ち、無差別に人を襲いたいと考えている近所の孤独なゲームアニメ好きの無職の男性 矢地島健吾(26)「怖い……? まあ、事件なんて物騒だなあとは思いますけど。まだ何もわかっていないので、不安や被害者の方が気の毒だという気持ちのほうが大きいですかね……」
リポーター「もし今、警察がこちらに来たらどうされますか?」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持ち、無差別に人を襲いたいと考えている近所の孤独なゲームアニメ好きの無職の男性 矢地島健吾(26)「え、別に聞かれたことを答えるだけですかね……まあ、何も知りませんけど」
リポーター「罪の意識はない、と……」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持ち、無差別に人を襲いたいと考えている近所の孤独なゲームアニメ好きの無職のサイコパス男性 矢地島健吾(26)「罪の意識……? あー、まあ、親にはちょっとありますね」
リポーター「あっ、さすがに親御さんに対してはあるんですね」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持ち、無差別に人を襲いたいと考えている近所の孤独なゲームアニメ好きの無職のサイコパス男性 矢地島健吾(26)「ええ、まあ。株で稼いでいるから大丈夫だよって何度も言っているのに、仕送りが止まらなくて。『あんた、無職なんでしょ』なんて。ははは、説明してもなかなかわかってもらえないんですよね」
リポーター「え、株? じゃあ、投資家の方なんですか? ちなみにどのくらい運用されているんでしょう……?」
エアガンやナイフなど武器を多数所持し、社会に強い不満を持ち、無差別に人を襲いたいと考えている近所の孤独なゲームアニメ好きの無職のサイコパス男性 矢地島健吾(26)「ええ、一応、資産は億には届いていますね」
リポーター「お、おおー……。あっ、今新しい情報が入ってきました。警察によりますと、現場には外部からの侵入の形跡はなく、無理心中の可能性が高いとのことです。矢地島さん、お話をお聞かせいただき、ありがとうございました」
億り人 矢地島健吾(26)「あ、はい」




