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溺愛王子は「僕が愛したのは君だ」と妹の身代わりでデートした私を捕まえる

作者: 唯崎りいち
掲載日:2026/02/08

「ありがとう。お姉様が私の代わりにデートして下さったおかげで王子と婚約出来ましたわ。貧乏臭い庶民王子でも、王子は王子ですから、お姉様には勿体無いもの。

 この国では一度受けたプロポーズは絶対ですから、王子はもう私のモノ、逃しませんわ」


 私が取り替えたばかりのシーツを踏みつけて、妹が言う。


 宝石を散りばめた様なドレスで座っているのに、妹の内面から溢れ出る言動はいつも醜い。

 その落差にいつも憐れみを覚える。


 でも、ボロボロの服でその妹のベッドのシーツを変えている、私は惨めだ。


「庶民的な場所が好きなんて変わった方のデートには付き合えませんけど、王妃になるなら王子が横にいるくらいは我慢しますわ。くれぐれも、自分が身代わりをしていたなんておっしゃらないでね、お姉様」


 屈んで妹の脚を丁寧に浮かせて、シーツを取ろうとする。


 本当は脚を引っ掻いてやりたいけど、その後で何をされるかは、長年の召使い生活で嫌と言うほど思い知った。

 叩かれたり、食事を抜かれたり、両親の姉と妹の扱いの差は酷いものだった。


 だから、身代わりのデートも断る事なんて出来なかった。

 まさか、妹の名前で会って欲しいと言われていた、あの人が王子様だったなんて!


「まあ、いつも床に這いつくばっている女の話など、さすがの庶民王子も信じないでしょうけど、クスクスッ。

 結婚しても、みすぼらしいお姉様の事は見捨てずに可愛がってあげるわね」

 

 妹の汚らしい足あとがついた使用済みのシーツを畳んで、私は妹の部屋を出る。


 自分が後でまた使うシーツなのに、私に嫌がらせする為にならなんでもやるのね、バカみたい。


 転生者で現代の知識がある自分には信じられなかったけど、嫌がらせに命をかけてる女は現代にもいくらでもいたわね。


 性格の悪い女が誰かと結婚するたびに、もっと信じられない思いがしていた。

 どの世界にも見る目がない男はいる。


 綺麗な服を着せられて、妹を名乗って男性と会えなどと、裏があるとは思っていたけど……。


 こう簡単に騙される、王子も王子だわ!

 私の会っていたあの人の良さそうな彼に、一番腹が立つ!


 会っている時に私に一瞬向けられた、指先まで囚われそうな鋭い視線にドキッとした事があったけど、見間違いだったんだ。

 思い出すとまた胸が熱くなって、シーツを握る力は強くなる。


「待ちなさい! お姉様。これも持っていって」


 追いかけてきた妹が冷たく差し出したのは、彼に5回目のデートで貰ったハンカチで、妹の名で貰ったものだから、妹に渡していた。


 ズタズタに引き裂かれていたハンカチが、私の心が引き裂かれたようで、私の顔も引きつった。

 どうしてこんな嫌がらせするのか。

 私の歪んだ顔を見て、妹は満足そうに笑う。


「遠慮しなくて良いのよ、お姉様。私はもっと素敵な宝石を王子様に買って頂くから」


 妹が行ってしまうと、私はハンカチを握って、静かに泣いた……。

 彼に怒りながら、こんな妹と結婚する彼が可哀想だった。


 もしかしたら、私がデートしたから、私のことを好きになって、妹と婚約してしまったのかもしれない……。


 こんなボロボロの服じゃない私は、少しは魅力的に映ったのかもしれない……。

 デート中の彼の視線をまた思い出した。



 たまらず王宮の前まで来ていた。


 王宮に出入りする華々しい人たちの中で、着の身着のまま出てきた私のみすぼらしい格好は浮いている。

 でも、服はこれしかないし……。


 それに、家に帰ったら仕事が終わっていない事を叱られるだろう。

 しばらく受けていない折檻の記憶に、腕や脚、背中が痛む。


 ただ、彼がいい人だったから、本当に王子様なら、妹と結婚して、私みたいに妹と家族から虐げられるのは可哀想だ。

 いくらなんでも、人違いで結婚したからって受けて良い罰じゃない。


 握ったハンカチが、彼の未来を暗示しているようで落ち着かない。

 私がデートしたせいでその罰を受けさせてしまうなら、償いようがない……。


 過去の折檻の記憶に、身体がヒリヒリ痛むような感覚が私を突き動かすけど、一番痛いのは心だった。



 もしかしたら、会えないかと思って王宮の門の前まで来たけど、王子様なら、いくら待っても会えるはずないわね。


 人々が私のみすぼらしさを憐れんだり嫌悪したり、これ以上はここにいることに耐えられない。


 帰る事にする。


 妹は欲しいものは、なんでも手に入れるんだもの。


「お姉様を召使いにしたいわ」


 こんな無茶苦茶な願いも叶えてしまった。

 王子様も、妹の手に入る運命だったのよ……。


「運命、だ——」


 声が聞こえた。


 俯いていた顔をあげる。


 ——彼が立っていた。


 ホッとする心からの笑顔で、太陽みたいに輝いてる。


「君から会いに来てくれるなんて——」


 そう彼が呟いたと思ったら、私は彼の腕の中にいた。

 私は縮こまって歩いていたから、完全に彼の身体で包まれてしまう。

 彼の体温が私のみすぼらしい薄い布の服を通って伝わってくる。


 私と会えたことの喜びで、彼の鼓動と呼吸が少し早くなっている気がする。

 優しい腕なのに、もう彼が私を逃してくれない気がして、安心できた。


「こうすると、君から石鹸の香りと鼓動が直接伝わってくるね」


 彼に私の鼓動も伝わっていることが恥ずかしくなる。


 ここは王宮の門の前で、品のいい格好の方々が行き交っている。


 彼の腕の中で見えないけど、さっきまで私を憐れんだり嫌悪したりしていた人たちの動きが止まっている気配を感じた。


 彼もいつもと違う格好で、目の前に見える襟元は私が洗濯している家族のもの以上に質がよく見えて、煌びやかな宝石で飾られている。

 彼は、まるで王子様みたいで見惚れてしまう。


 自分の姿にハッとする。

 一つしかない服の薄い布は洗濯を繰り返してますます薄くなっていた。


「ダメよ! こんなみすぼらしい女に抱きつくなんて! 王子様なんでしょう!」


 私は、彼が私を包んでいた腕を振り払って、外に出る。

 途端に人々の視線が私に直接注がれる。

 彼の腕が私守る優しい籠になっていたことを知る。


 彼は腕を広げたままに、私を見ている。

 まだ私を捕らえて守ってくれようとしているみたい。


 でも、彼は、私を“なんだ”と思って抱きついたの!?

 デートしていた時の宝石を散りばめた様な妹の服は着ていないから、今の私は妹には見えないはずなのに!


 ……どこまで、見る目がないの。

 気づくと私は、冷えた心で彼を見ていた。


「なんだか見下されてる気がするなぁ」


 目を少し細めて言葉とは違って嬉しそうに彼は言う。

 優しい様子が底知れなくて怖い。

 私はあなたにとって見知らぬ他人なのに、全部見透かされてるみたい。


「何度もデートした君の事を服が違うくらいで間違わないさ。でも、君は蔑む顔も可愛いんだね」


 優しい口調が最後にゾクっとするような暗い声になる。

 一瞬だけ、獲物を狙うような目付きで、妹と婚約した彼が私を見た。


 最後の一瞬以外は、気さくな軽口と屈託のない笑顔がいつもの彼だった。

 キュッと胸が締め付けられたのは、彼への愛しさと憐れさ、どっちだろう?


「今は、間違っていなくても、あなたはもう既に間違えちゃったのよ……」


 小さい声だけど、しっかりと彼に言う。

 間違いにまだ彼は気付いてないのかも知れない。


 この国では一度受けたプロポーズは絶対。


 転生者としては信じられないルールだけれど、一度婚約したら、婚約破棄が罪になる。

 王族でも例外はない。


 ズキズキと叩かれてもいない身体が痛み出す。

 彼への見る目の無さの怒りよりも、このずっと受け続けた折檻の痛みを彼が、これから妹との結婚生活で感じる事が悲しい。


「なんで、妹なんかと結婚するのよ……。妹はあなたなんて好きじゃないんだから、一生、召使い同然にこき使われるだけよ」


 涙が溢れて止まらない。

 ズタズタにされたハンカチは、それでも涙を吸ってくれた。


「わ、私のせいなら、ごめんなさい……」


 彼がハンカチに気づいて、ふっと悲しそうな顔になる。


「君はいつも自分より他人のことなんだね。僕はそんな君が好きなんだ」


 そう言って彼は少し悲しい微笑みを浮かべる。

 微笑んでるのに私を見つめる目だけは鋭くて、ドキドキする。

 真っ直ぐな瞳に逃げ場がない気がした。


 彼は、妹じゃなくて、本当に私を好きだったの?

 こんなみすぼらしい格好なのに気付いてくれたし嘘じゃないって信じられる。


「でも、あなたが婚約したのは妹なの……。今更、好きって言われても、遅いの……。騙してごめんなさい……、あんな子と結婚させてしまって、どう償っていいかわからない……」


 私も、身代わりのデートで、あなたの事を好きになりかけていたのに……。

 胸が押しつぶされそうになって、また目頭が熱くなる。

 何もかもが、もう遅い。


 でも、好きになっても、私は身代わりで、気持ちなんて伝える術がなかった。

 

 私は、何も変わらない。

 これからも、心を殺して生きていけばいいだけ……。

 心配なのは、あなたの事。


 好きになりかけなんかじゃない……、私はもう、こんなに深くあなたを——。


「……君は、償ってくれるつもりなの……?」


 彼は驚いている。

 私は頷いた。


「何もできないけど……、なんでもする……。妹の側にずっといるから、出来るだけあなたが傷つかないようにするから……」


 彼は目を細めて嬉しそうに笑う。


「ずっと、僕といてくれるつもりなんだ。君も僕のこと好きなんだね?」


 軽い口調で冗談みたいに彼が言う。

 私は冗談では返せない。


『結婚しても、みすぼらしいお姉様の事は見捨てずに可愛がってあげるわね』


 妹はそう言っていたから、ずっと彼のそばにいられる。

 それが嬉しいと思える。


 私は、軽く頷いて、真っ赤な顔で小さな声で言う。


「私も、あなたを大好きになってしまったの……」


 周りで行き交う人の雑踏が大きくなった気がする。

 ずっと王子と私の話を動きながらもみんな気にしてる。


 彼は真っ赤になっていた。


「き、聞こえなかった。もう一回言って!」


「嘘! 聞こえてるから、赤くなってるんじゃない」


 私は恥ずかしくて、いつも調子で答えた。

 少しだけ彼が冷たい目になる。


「君は僕に、なんでもするって言ったよ?」


 彼は、優しい口調なのに強引で、ちょっと怖い。

 私は逃げられなくて……。


「だ、大好きです……」


 彼に真剣に見つめられながら言うのは、さっきよりもずっと恥ずかしい。


「恥ずかしがってる君がすごく可愛いくて、王宮の前なのにどうにかなりそうだ……」


 彼の小さな声が聞こえて、身体がギュッと締め付けられるように苦しい。

 彼の視線を感じるけど、見返したら、私の方がどうにかなりそう。


「結婚してもいいくらい、僕が好き?」


また、彼に聞かれるけど、今度は熱くなった心を溶かすには十分な問いだった。


「……出来るなら、したいけど、無理なの……」


 私の心が冷えて、現実を忘れて楽しんでいた一時が終わる。

 好きって気持ちが悲しくて切ないものに変わった。


 それなのに、彼は満足そうに微笑んでいる。

 彼には、私との結婚よりも、私がずっとあなたを好きって事が大事なの?

 彼に好きって言ってもらえたのに、少し寂しい。


「君の妹が婚約したのは僕のそっくりさんなんだ」


「ふぇ?」


 彼が急におかしなことを言うから、変な声が出てしまう。

 そんな私を、また満足そうに見つめて微笑んでる彼。


「彼には影武者なんてやって貰っているから、僕に似てはいるけど、近くで間違える人はいない。間違える奴が間抜けなんだよ」


 彼が低い声で、暗く笑う。

 普段の優しい顔との落差に怖くなる。


 妹はあなたに興味なんてなくて、王子様って地位しか見てなかったけど……。

 妹は彼とそっくりさんを間違えたの?


「せめてちゃんと僕の偽物だって分かれば、影武者と結婚しなくて済んだのに。

 僕の影武者は君の妹をとても気に入っているから、君を虐めた奴には優しすぎるくらいの罰だけど、平民の妻になるって言うのは、君の妹には耐えられないだろうね」


 妹がプロポーズを受けたのは王子の影武者だった。


 彼は妹と結婚しない……!


 彼の勝ち誇ったような顔が、可愛いくて愛しい。


 嬉しい……、けど……。


「あんな子を好きになる人がいるなんて……。影武者さんも、見る目がないわ……」


 もしかしたら、影武者さんが無理矢理結婚させられたんじゃないの?

 王子の権力を使って……。

 なんだか、彼の笑顔が怖くなってしまう。


 私が考えてることに気づいて説明してくれるけど。


「彼は君に似てるから好きになったって言ってたよ。僕の影武者だから、僕の妻になる人の影武者も必要だって、仕事熱心なんだ。

 犬の躾は得意だから躾がいがあるって」


 ニッコリ笑う、彼の瞳が一瞬だけ冷たく光る。

 

 妹が私に似ていたからって、影武者だから私の事を知ってはいるのかしら?

 似てるから妹を代わりにとか、犬の躾って……、個性的な人なの?

 無理矢理ではなく、本当に仕事熱心なのかもしてないけど……。


「会えば分かるよ」

 

 本当に会えば分かるのかな……。


 彼だって、ただ優しいだけの人だと思っていたけど——。


 今の彼は、人にどこまでも冷たくなれる人で、私の知ってる彼とは別人みたい。

 でも、怖いはずなのに、見つめられると鼓動が早くなる。


 私が真っ赤な顔をしているのを、彼が獲物を狙う猛獣のように見つめている。

 その瞳で、私の為に、こんな怖くて周到な制裁をしてくれた。

 彼からは、逃げられないと思った。


「君を傷付ける人だけは許せないんだ……」


 でも、少しやり過ぎたかもと、しゅんとする彼の姿に、さっきまでの彼に感じていたのとは違う安らぎを覚えて、ホッとする。


 妹自身がプロポーズは絶対と喜んでいたのに、私の前で王子の暴言を吐いたり、自業自得だもの。

 地位とか権力だけをひけらかして生きてる妹には、一生平民の妻として生きるのは辛いでしょう……。


「……ありがとう。酷い考えだけど、妹が悔しがっていると思うと、とっても嬉しいの……」


 私は少し笑って、少し後ろめたくなる。

 ここまでの制裁は、望んでなかったけど……、妹は、謝っても許されないことをしたんだ。


「デートの身代わりなんて酷い事をさせられてたんだし、君はもっと怒っていいんだよ?」


 彼が寂しそうに笑う。

 あなたは、自分とのデートを酷いことだって言うのね。


「……さ、最初は嫌だったけど、あなたとデート出来るなら、身代わりでも楽しかったから……。本当は、いつか、身代わりがいらないって言われる日の方が怖くなってたの…… 。騙していたあなたには申し訳ないと思っていたけど……」


 あなたとの身代わりデートが、いつの間にか唯一の楽しみになっていた……。


「僕の心は出会った時から君のものだよ。最初から君は身代わりじゃなかった。君に会いたくても、君とデートしたいなんて言ったら妹を怒らせるだけだから、僕も君を騙してたんだ」


 私は驚いた……。

 握っているズタズタにされたハンカチは、最初から私のものだったの?


 彼の目が細く、優しくなったけど、暗く冷たい声で言う。


「君がそんなに優しいから、僕は君を守るために、もっと酷い男にならないとね」


 また、彼にゾクッとするけど、身体は熱くなる。

 私を守ろうとする彼の強い意志を感じる。


 ずっと感じてた折檻の痛みが嘘みたいになくなっていた。

 心配する必要なんてないくらい彼は強くて、私を安心させてくれるから。

 私は、何も心配する事はなかったんだ。


 私が安心して微笑むと、彼の目が私を狙うように鋭くなって、私の耳元に唇を近づけて優しく囁く。


「もう誰も君を身代わりになんてしないよ。

 それで、僕がここでプロポーズしたら君は何て答えるの?」


「え……」


 一度受けたプロポーズを断ったら罪——。

 

「僕は君を愛してる。だから、みんなに伝えたいんだよ。とっても見る目がある男だって事!」


 彼は私の心が読めるの!?

 見る目がないって心の中で蔑んでいたことを見透かされていて驚く。


 彼の“愛してる”って言葉が嬉しくて身体が締め付けられるみたいに胸が苦しい。

 彼が私の肩を守るように抱いている。


 王宮の前を行き交う華々しい人たちは王子様がみすぼらしい私に夢中な事を訝しんでジッと見ている。


「ボロボロのあの女が王子の恋人なのか!?」

「美しい令嬢が婚約したと言っていたのは嘘だったのか!?」


「でも、彼女も顔立ちは可愛らしい」

「王子様がうっとり彼女を見ているわ。本当に愛してるのね」


 この波の中で、断ったら王子様の恥をかかせてしまう。

 ……受けても、恥ずかしさに私が耐えられないわ。


 だから——、


「あなたの事は大好きだけど……、こんな人前でプロポーズされたら、私、断っちゃうわ……」


 恥ずかしさに真っ赤になった顔を覆って私が答える。


「だよね……」

 がっかりしている彼……。

 本当にみんなの前で伝えたかったみたい。


 これだけ彼に愛されてるのに、私ってわがまま過ぎたかもしれない。


「でも……」

 二人っきりなら……、そう続けようと思ったけどやっぱりこれ以上は恥ずかしくなる……。


 言ったら、彼が私に向ける視線に、私も二人っきりになることを期待してるみたいだもの。

 肩に置かれた彼の手の温もりに私の意識が集中していることを知られてしまう。

 ふ、二人きりで何を期待してるの!


「君には二人っきりでしか愛を囁けないね」


 私は息を飲む。

 心を読まれてるみたいに、また彼の目が鋭く光るから。


 彼は私のことをとてもよく知っていて、繋がれた手から、もう家には帰りたくないことが伝わってしまってる。


「君は恥ずかしがり屋なだけで、僕と同じなんだね」


 彼が太陽みたいな笑顔を向けてくる。

 この笑顔は、彼と同じ気持ちの私が作っているんだ。


 それなら、


「私の考えてる事をするつもりなら、あ、あなたは全然、優しくないんだわ」


 王子の目が怪しく光って、ささやく。


「誰も来ない王宮の奥なら、僕が君に何をしても、君を誰も見ないし、声を上げても助けは来ないね。僕が上げる幸せから、君はもう逃げられないよ。覚悟してね?」


私はゾクゾクして、王子に握られた手を少し強く握って一緒に王宮へ歩いた。



 それから、私の幸せは約束されたみたいで、華やかな王宮に妹と両親が呼ばれる。


 引き攣った顔の妹と大勢の人の前で、彼が私と結婚すると宣言してくれた。


 ワァッ!


 歓声が上がり、みんなが祝福してくれる。


 私は、宝石を散りばめたほどではないけれど、美しいドレスを着ている。

 恥ずかしいけど、彼が優しく微笑んでそばにいてくれるから、怖くない。


 彼は二人きりのときの瞳は隠して、震えてる私の肩を抱く手だけが熱い情熱を伝えてる。

 


「そんな……、また、私は、お姉様に負けたの」

 崩れ落ちた可哀想な妹……。


 私は冷めた目で見つめる。

 私への対抗心を捨てられない姿が、どこまでも憐れだった。


「いやね……」

「……いい気味だわ」


 しゃがみ込んだ妹に、華やかな仲間たちはもう声をかけない。


 両親さえ……。


「お父様、お母様、助けてください!」


 冷たい目で妹を一瞥して、両親が私の方にやって来る。

 でも、お城の兵士に阻まれて、ここまでは来れない。


「あなたは! その薄汚れた手を離しなさい! この嘘つきが!!」


 いつの間にか現れた影武者は、暴れる妹を乱暴せずに落ち着かせて連れ出して行って、意外だった。

 惚けてただ影武者を見つめる妹。

 去り際に、妹は私を睨むことは忘れなかったけれど……。


「彼なら大丈夫さ。今度、妹に会う時までに君の“身代わり”に躾てくれてはずだよ」


 ……彼の制裁はやり過ぎだと思ったけど、両親から離れて、あの影武者にちゃんと平民の妻にしてもらった方が妹は幸せなのかも。

 影武者の事をよく知ってる彼にとっての優しさなのかもしれない。


「でも、婚約破棄出来ないってひどい法律だと思うの」


 私が言うと彼は、


「もう僕との結婚が嫌になったの?」


 あの鋭い目つきを一瞬覗かせて、冗談を言う。


 私は首を振った。


 せっかく王妃になったんだし、転生者の知識で少しでもこの国を良くしたいと思ってるだけ。


「君は僕の庶民デートにもついてきてくれたし、良い王妃になってくれるね。君しかいないと思ったんだ」


 王子の賞賛に、私はニッコリと微笑む。


 あなたと二人なら……。


 まずは、妹に差し入れをしてあげましょう。

 感謝の笑顔で迎えてくれる、身代わりのあなたに——。

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