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04 探索者への道

 探索者になるには武器などの装備品やバイオインプラントが必要になる。魔法なんてものはないからテクノロジーの力を借りてモンスターを倒すしかない。もちろん、それにはお金がかかるけど、私にはこれまでの配信活動で貯めた貯金が唸るほどある。


 「使い道がなかったから口座に預けっぱなしだったけど……ちょうどよかった。モンスターなんて札束で無双してやるわ」


 ネットで検索してみれば、個人が3Dプリンターで作っていそうな激安の粗悪品から軍から横流しされた違法な銃器、軍需企業の正規品から試作機まで多種多様なものが掲載されている。別に危ない橋を渡る必要はない。金ならある。


 『初心者必見、コスパのいい装備十選』『Sランク探索者『骸』愛用装備まとめ』『最強片手武器一覧』『伝説の占い師が選ぶ今年の運気上昇を狙えるおすすめ装備』など、同じジャンルだけでも数えきれないほどにサイトがあり、知識もない素人の私には到底選べそうにない。


 そうして巡回している間にも電話やメッセージがひっきりなしにかかってくるから、通知を完全にオフにした。これで誰にも邪魔されることはない。


 「ピストルだけでこんな何百種類もあるなんて……口径?大きさが違ってなんか意味があるの?……ダメ。もう疲れた」

 

 素人がコスパとか性能を気にして、どれだけ調べたとしても限界はある。とりあえず『貴方はSランクの探索者です。初心者でも簡単に扱えるダンジョン用武器のおすすめを教えて。金額は気にしなくていいから高品質なものを探してください』と伝えれば、AIがサイトを横断して探してきてくれる。私自身の身体機能については元より連携済みだから、体格に合う武器を自動でピックアップして提案してくれるはず。


 「なるほど、運動神経が皆無……それは言いすぎじゃないかな?銃火器の扱いに慣れていないことを考えて、自動で弾が追尾してくれる『シークピストル』がおすすめ……って高!ひとつ500万もするの?まぁ買えるからいいけど」


 そのまま買い物かごに入れ決済をする。翌日には届くらしい。


 「このピストルを開発したのは『柴崎重工業株式会社』ね。なんか聞いたことがある気もするけど……まぁ品質が良くて使えればなんでもいいかな」


 このシークピストルは近中距離用らしく具体的に何メートルとか書いてあるけどよくわからないから飛ばす。続けて近距離武器としてお勧めされているのが『P-Blade』と名付けられた合衆国製の片刃の刀で、どうやら触れた相手に高圧の電流を流すことが可能らしい。スタンガン機能つきの刀みたいなイメージに近いかもしれない。


 刀身は青白くカッターナイフみたいな形状をしていて丸みは一切ない。柄の部分は白で統一されていて洗練されているように見える。レビューは3.9。正直微妙だなと思ったけど、重量が軽く女性向きと書いてあったから、私の細い腕で振り回すことを考えると軽ければ軽いほどいい。ちなみにシークピストルは発売されて間がないとのことでレビューは一つもついていなかった。


 「バイオインプラントも揃えたら、貯金の半分くらいは持っていかれる計算になりそうね」


 バイオインプラントは人体機能を拡張してくれるもので、直接クリニックにいって装着してもらう必要がある。通常の病院とは違って専門のところに頼まなければいけないけど、幸いにも普段通っているところは対応可能だった。普通よりも金額は何倍も掛かってしまうけど、セキュリティやプライバシーの保護は徹底されているから顔バレしたりすることは一切ない。こういうところをケチったりすると、麻酔をかけられて眠っている間に裸の写真を勝手に撮られて週刊誌に売られてしまうこともあるから、恐ろしい。


 私は一通り必要な武器を買い漁り、クリニックの予約をしてシャワーを浴びる。そうして湯船に浸かりながら湧き上がる解放感に酔いしれる。ここ最近は、ずっと炎上したことに悩まされ続けてきたから、それが一気に片付いたお陰で、かなりリラックスできた。


 風呂から上がり洗面台の前に立つ。備え付けの鏡には僅かに頬を染めた美人がいる。自分で言うのもなんだけど、本当に顔だけはいい。皴一つない透明感のある肌、目鼻は黄金比に沿って配置され各パーツは主張しすぎることなく調和している。心持ち薄く感じる唇は、儚げな印象さえ与えてくれる。いまは面倒だから髪をショートにしているけど、腰ぐらいまで伸ばしていた高校時代は、それこそ異様にモテた。


 「だからなんだって話なんだけどね。結局、好きな相手も見つからない。周囲の女子からは嫉妬されて目の敵にされるか、噂を信じたあげく縁を切られて、友達は一人もできなかった。……結局、いまさら炎上させられるし」


 髪を乾かしてベッドに横になる。


 「照明オフ」


 ゆっくり落ちていく照明。閉め切ったカーテンの隙間から微かに洩れる淡いネオンの明かり。いつもは仕事をベッドにまで持ち込んで、配信の感想だったり、他の配信者の動画を観てメモを取って研究したりしていたけど、そんな不健康なことはもうしない。眠たくなったら寝る。人間らしい生活とはそういうこと。


 翌朝、よほど深く眠れたのか、ここ一年でいちばん体調がよかった。頭にかかっていた靄が晴れて爽快感さえ覚える。


 「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁっ……もうひと眠りしたいとこだけど、配達物を取りにいかないと。クリニックの予約もあるから急がなきゃ」


 玄関に向かえば、扉の前にサイズのバラバラな段ボールが乱雑に置かれている。それをまとめてリビングに持っていき、一つずつ開封していく。


 「これは……P-Blade、電撃効果のある刀ね」


 鞘から引き抜けば、バチッと音が鳴る。商品ページの見本通り、刀身は青みがかった白色、柄は女性の手でも握りやすいように細めに作ってあるらしい。素材はダンジョンから採れるN鉱石を採用しているとのことで耐久度が他社製品と比べても圧倒的に高いとか、いろいろ説明書に細かく書いてある。もちろん、読んだりはしない。


 「で、これがシークピストルね。なんか普通の銃と一緒に見えるけど」


 さすが日本の会社が発送しているだけあって、段ボールに凹みも汚れもない。他の商品はみなガムテープでグルグル巻きにされていたり、キズがあったりするのに、これだけは丁寧に梱包されている。


 本体は小型のアタッシュケースに納められており、パチンと音を二回鳴らして開ければ、銀色の銃身が姿を現した。


 「ふーん、見た目は普通のと変わらなさそう……って、うわっ」


 本体を掴もうとして、グリップに人差し指が触れた瞬間、くすんだ茶色の文字が浮かび上がる。達人が書いたような迫力のある『柴崎』の文字と共に、『生体オーグメントとの接続を許可しますか』と同意が表示される。チェックボックスに触れ、同意すれば、「所有者を確認中……名前、極家令那。警察指名手配リストととの照合を開始……該当なし。所有者として登録を開始……完了」と無機質な自動音声が頭に響いた。


 「なんか……やばいのを買ってしまったかも」


 『ご購入いただきありがとうございます!私の名前は鈴と申します。今後とも末永くよろしくお願いします』


 「なっ銃が喋った!」


 まだどこか幼さの残る声、銃本体にスピーカーがついているわけじゃない。オーグメントを通して直接会話をしているらしく声がそのまま頭に流れる。


 『はい!人工知能が搭載された世界初の銃器になります。令那様の視覚、聴覚データを共有して戦闘のサポートをいたします。もちろん、収集したデータは本体に直接転送されていますから、プライバシー保護は完璧ですので、ご安心下さい』


 「えーっと……ごめん、よくわかんなかったんだけど、返品してもいいかな?」


 『ガーン。なぜそのような極悪非道なことをおっしゃるのですか……先程申し上げた通り、プライバシー対策は徹底されております。お客様に返品されてしまいますと、当社の規定に従いそのまま廃棄されてしまうのです。至らないところがあったなら改善いたしますので、何卒、何卒ご容赦を』


 「人工知能にしてはあまりに人間臭すぎるような……はぁ、まぁいいや。とりあえず、武器としては使えるのよね?」


 『お任せください。鈴の実力なら、赤ちゃんを即日で歴戦の傭兵にだって変えてみせます』


 「そっそう……まぁこれもなにかの縁かもしれないし。よろしくね」


 『はい!』


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