表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

03 そして引退へ

 配信活動しているなかで百合営業的なことを直接、事務所から求められたことはない。でも、視聴者を獲得していくためには、そういう要素を出していくのが近道だった。コラボ配信するときも、わざと距離を近づけて座ったり、甘えてみたり、相手によっては冷たくあしらってみたりして……いろいろ試行錯誤しながら活動していたことは事実。だからって、それがそのまま同性愛に結びつけられるものでもなければ、いわゆる『営業』をしているわけでもない。


 「勘違いされている方が結構多いんですけど、私は自分のことを同性愛だなんて発信したことはないです。それに事務所から指示されて同期と仲良くしてたわけでもないので営業だとも思ってません。そう思わせてしまっていたなら申し訳ないですけど……あっあと、別に異性に惹かれたことはないので、どっちなのかは私が知りたいくらいです」


 「なんだよそれ!俺と付き合ってたのは事実じゃないか」


 「えぇっと……本当に記憶がなくて、逆にお聞きしたいんですけど、そもそもどっかデートとか行きました?私たち。高校時代の写真はいちおうデータもらって確認して調べましたけど、同じクラスでもなかったみたいだから、そもそも接点がないんですよね。それに、高校生のときは100回近く告白されてたので、誰が誰でどう返事したかとか……ごめんなさい。さっぱりわからなくて」


 「は?だから嘘つくなって」


 「佐藤さん、これはちゃんと答えた方がいいんじゃない?ほらっデート行ったときのツーショがあれば、それが決定的な証拠になると思うんやけど」


 「それは……」


 :やばい見てられない

 :共感性羞恥ががが

 :恥ずすぎ諦めろよ

 :もうドクダ実さん落としていいよ

 :つまんな

 :人に迷惑かけんなよ

 :付き合ってたならデートにいった写真とかツーショットくらいあるでしょ


 「いやっ!そもそもなんですけど、人としてどうなんですかって話ですよ。せっかく告白して貰ったのに覚えてないとか普通ありえないでしょ」


 私は恨まれたいわけじゃない。ストーキングされて刺されるとか絶対に嫌だし、金輪際こいつと関わりたくもない。


 だから、相手を傷つけることなく解決できればなによりも良かったのに。なぜ、ここまで言われないと気づけないのか、AIの半分くらいの知性しかないんじゃないかと疑いたくなる。


 「佐藤さんでしたよね。興味もない相手から告白されても覚えてないです。そもそも覚えていた方が問題じゃないですか?……私が同性愛だというならなおさら」


 「あー、これは決着ついちゃったね」


 「はっ!俺は認めねぇから」


 :往生際わる

 :期待してたのにつまんないわ

 :だる

 :でも高校時代にそんなモテるとかやっぱやばいな

 :俺も同じ高校に通っていればワンチャンあったのか

 :ないない笑


 「さて……もっと時間が掛かるかと思いましたが、あっさり終わっちゃいましたね。まぁ人生いろいろありますが、佐藤さん、頑張っていきましょう……って言ってもらえると思ったか?今回のは訴えられてもおかしくないくらいくだらない内容だから、もうちょっと考えて行動しろな。ガキじゃないんだからさ」 


 「なっなんで俺が悪いみたいになって……」


 ピロンと通知が鳴って、佐藤が消えたというより消された。ドクダ実や視聴者がなんとか味方にはなってくれたみたいでホッとする。これで炎上が治まってくれればいいけど、そう簡単にはいかないのが、この業界の悪いところ。どれだけ説明しても頑なに信じようとしない。意見を変えようとしない連中ばっかりで、男と会話をしただけで炎上するくらいだから、もう私は完全に手遅れ……まっ別にいいけど。


 「退出いただきましてっと……白兎さん!コラボできて大変嬉しかったんですが、今後の活動がやりにくくなるんじゃないですか?事務所にも無断で出ちゃったりもしてるから余計に」


 「ですね……いまもずっとコールが鳴り続けてるので、相当ヤバいと思います」


 「うわー、ご愁傷さまです。まぁもし契約解除とかされちゃったら、ぜひうちの事務所に来てください。俺が所属できてるくらいなんで、なにしても大丈夫ですよ」


 「お誘いありがとうございます。でも、たぶん行くことはないですね」


 自分が何を言い出そうとしているのか、こんな何十万人も見ている配信で、しかも自分のチャンネルでも事務所の公式でもない他所の事務所の配信で。でも、この衝動に抗いたくはなかった。


 「この配信を最後に引退します……だから、お世話になることはないですね」


 コメントが停止した。ドクダ実も黙ったまま無音の時間が流れている。


 「えっえーと、ドクダ実さん?なんか喋ってくれないと放送事故みたいになってますよ」


 「いやっ、これは放送事故でしょ。大丈夫なんですか?そんなこと言っちゃって。もう切り抜かれ始めてますよ」


 :は?

 :なんやこいつ

 :急な引退宣言は草

 :泣きそう

 :だーかーらー推しは推せるうちに推しとけって言ってんじゃん

 :もうニュースになってんぞ

 :はやすぎ

 :これ、明日の株価やばいんじゃない

 :登録者数トップクラスの配信者がいきなり引退、しかも暴露系配信者の配信でするとか

 :伝説かよ

 :〇にそう

 :つら


 「今回の炎上騒ぎがなかったとしても辞めるつもりだったんで。正直、配信にも飽きてましたから」


 「やばぁ……ちなみに次はなにするかとか決まってるんですか」


 既に答えは出していた。独りで活動することができて、上手くいけば今の生活水準を落とすことなく、より大きく稼ぐこともできる仕事。面接もなし、身体を動かすことがメインで飽きにくく、初期投資をすればするほどリターンのでかい仕事はこれしかない。


 それは……『ダンジョン探索者』だった。でも世間には言うつもりはない。もう他人に見られることに疲れたし面倒。だから、


 「秘密です。でも表に立つような仕事じゃないので、そっとしてもらえると助かります」


 誰にも、事務所にも、家族にさえ言わない。


 もう知られたくない。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ