02 対決
「高校時代、あの女、稲庭白兎と付き合ってました。なのに、俺と付き合っていながら、他の男とも関係を持っていたんです」
「……となると、同姓愛はウソということですか?」
「はい!地元でも女同士で付き合ってるとか、そういう噂も聞いたことないし、その……百合営業っていうんですかね。スパチャとか登録者数を稼ぐためだけに演じているんだと思います。だから、ファンに嘘をついているんです。それが、俺は許せなくて……」
本当にくだらない。吐き気がする。これから、こんな馬鹿を相手に戦わなければならないと考えただけで虫唾が走る。
私とのコラボということで、前回、炎上するきっかけになった内容をもう一度、ちゃんと告発者を呼んで、視聴者にわかりやすく説明させている。同接数はうなぎ登りで、各SNSのトレンドはこの配信一色に染まってる。
みんな暇すぎない?もっとやるべきことがあるでしょ。
:白兎ほんとに出るのかな?事務所が許可しないと思うけど
:こいつ女々しくない?フラれたからって、わざわざ配信者に近づいて晒すとか、キモすぎ笑
:白兎は謝罪すべき
:やっぱりドクダ実は俺たちの正義
:まじどうでもいい
:しょーもな
:そろそろ来るか
:はよはよ
コメントが凄い勢いで流れていく。ファン層が違うからか、私の配信に来る視聴者より、まだフラットに考えてくれそうな雰囲気だけど、もし対応を間違えてしまったり、失言でもしようものなら、もう取り返しがつかないかもしれない。それでも、私は戦いたい。泣き寝入りはしたくない。
「そろそろ白兎と約束していた時間だけど……ちゃんと上がってこれるんか~?正直、絶対無視されるだろうと思ってDM投げたんだけど、まさか返信が来てしかも出演OKっていう……やっぱ俺持ってるわー。ってか、今回のこと事務所にちゃんと話通してるのかめっちゃ気になる……えっ?来なかったらどうすんのって?もちろんDMは晒すよ。まぁでも絶対来るとは思うけどね。ここで逃げたら認めたようなもんだからさぁ」
私は大きく息を吐いて、コールボタンをタップする。もちろん顔出しなんてするつもりはない。声だけで上がるつもり。
「えっマジで!きたきたきたきたきたきたー!やべっ俺が緊張してきたわ……よしっ初めましてードクダ実と申します。稲庭白兎さんご本人ですか?」
「はい、そうです」
「すげー!本物や!マジかよ!ちょっ……早速なんですけど、事務所からは今日のこと許可貰ってるんですか?」
「いえ、言っても許可して貰えないと思ったので、勝手に出てます」
「えぐっ!めっちゃおもろいやん。まぁでも知らない人もいるかもしれないので、自己紹介だけお願いしてもいいですか?」
「はいっえーっと、にゅースター所属、第一期生、稲庭白兎です。よろしくお願いしまぁす」
:草
:やばすぎ
:本物?
:ガチじゃん
:やべードクダ実も大手配信者とコラボする時代になったのか
:ユニコーンども見てる?
:これまじどうなんの?
:本物きちゃあ
:めっちゃ汗出てきた
「いやっホントに凄いわ。えっなんで出てくれたのか、きっかけだけ教えてもらっていいすか?」
「そうですね……きっかけとかは別になくて、直接お話した方が早いかなって思っただけです」
「ほう。じゃあさっそく聞いちゃってもいいですか?視聴者も待ちきれないみたいなんで、あっちなみになんですけど、この告発者のことは覚えてますか?」
「まったく覚えてないです」
「はぁ!嘘つくなよっ」
「ちょっ佐藤さん、くくくっ……いまは白兎さんの話を聞きたいんで、静かにしてください……でなんすけど、告発内容は聞かれてると思うので、先に白兎さんから反論を頂いてもいいですか?」
私は高校時代のことを思い出しながら、淡々と話し始めた。こういうときは冷静に、ちょっと冷めてるぐらいがちょうどいい。感情的になったら負けだ。事実だけを話せばいい。
「そうですね……付き合ってる人はいました。ただ、一般的な関係とは違って、何回も、うんざりするほど、いろんな男から告白されるので、幼馴染に相談して、フリだけしてもらってました。なので、別に肉体関係とかもないし……それこそ手も繋いだこともないです。いろんな男をヤリ捨てみたいなことを仰られてましたけど事実無根ですね」
「へぇ?確かに白兎さんめっちゃモテるだろうね。ビジュもかなり強めだし。となると告発者の佐藤さんは付き合ってたとか言ってましたけど」
「さぁ……正直、本当にいろいろ鬱陶しかったので、告白も適当に返事してたので、付き合ってるって勘違いされてるかもしれないですね。なんか、そういう人もたまにいたので」
「黙れよクソ女」
:話変わってきてて草
:どっちが悪いんだこれは
:漫画みたいな話だな
:どっちにしても男が可哀そうすぎる
:信じられんな付き合ってるのになにもないとか
:もっと突っ込んで話きけよ
「視聴者の中でも、そういう肉体関係みたいなものが何もなかったっていうところが信用できないって、コメントがいくつか出てるみたいやね」
感情を表に出し始めた告発者を抑えるように、ドクダ実がコメントを拾い始めた。流れは逆転しつつある。それでも配信が切れるまでは気が抜けない。
「信用できないと言われても証明のしようがないですよね。たとえば、その幼馴染に連絡とって、このトークに入ってもらったとしても、口裏を合わせてるとか言われてしまえばそれまでなので」
「だよなぁ。じゃあちょっと角度を変えて……白兎さんは本当に同性愛の方なんですか?それとも単なる営業ですか?これはーはっきりさせた方がファンも嬉しいでしょ」