14 いざダンジョンへ(2日目)
『Eランクへの昇格おめでとうございます!あなたは、15964182105人目のEランク到達者です。到達スピードは上位10%以内に入っています。これからも素敵なダンジョンライフをお過ごしください。詳細はこちらをクリック』
探索者管理機構から送られてきたメールを確認しながらゴブリンの首を刎ねる。探索者証には新しくFの文字からEに変更されていて、N鉱石の買取に掛かる窓口負担も30%から28%に変わるらしい。たったの2%と思ってしまうけど、塵積って山となるようにかなり大きな金額の差になるはず。正直、探索者ランクには興味なかったけど、お金に関わるとなれば話は別。
「……探索者ランクって大事だったのね」
『もちろんです!この調子でSランクを目指しましょう』
ちゃんと読んでなかったけど、探索者ランクを上げるには、N鉱石の売却額や討伐モンスターのランクも関わってくるらしい。私の場合は、Fランクでありながら、Dランクモンスターのオークを単独で倒したことが、功績として大きかったそうだ。それなら一気にDランクにしてくれてもいいのに……。過去にはそういう飛び級制度も設けていたそうだが、自分の力量を考慮せず無茶をしてAランクモンスターに挑戦し、返り討ちにされる馬鹿が急増してしまったから廃止にされた歴史があるとのこと。
そもそも探索者なんて危ない仕事、真面な人間がやるわけがない。人生一発逆転狙いか、いますぐ金を用意しなきゃいけないような切羽詰まった人間が選ぶ職業。コツコツ働いて……なんて発想があるわけがない。私もだけど。
:配信三回目にしてもう昇格かよ
:切り抜きから来ました。顔見せてください
:誰も合成を疑ってないのな
:なにカップですか?
:好きです。僕のことも切り刻んでください
:変態が湧いてるぞ
:バイオインプラントの構成を教えてください
:初見です。防具もつけないイカれた探索者を見に来ました
「……数増えてきてるし」
私の戦闘シーンを誰かが勝手に切り抜いたらしい。それがSNS上にアップロードされ界隈で少しだけ話題になってしまった。幸いにも私が『稲庭白兎』だってバレてないから無事で済んでいるけど、なにかの拍子にそれがバレてしまったら……大変なことになる。
いまのところ同接数は三桁後半ぐらい。大手のダンジョン配信者だと軽く六桁は超えるらしいから、まだ大丈夫……たぶん。
上層を軽く攻略して中層に向かう。途中から進められたら楽なのに、そこまでダンジョンは便利じゃない。
上層はゴブリン、中層はオーク、下層にはトロールやバグベアがいるらしい。難易度はBランク。異次元の回復力が厄介らしく、頭はそこまでよくないらしいから、Bランクにとどまっているとデータベースには書いてある。
中層に下りる階段には、今日も探索者達がたむろしている。どうやらここはセーフゾーンらしい。モンスターがここまでやってくることはなく休憩スペースと化している。私には関係のない話だけど。
「ブモオオオオオオオオオオ」
「うるさいなぁ」
オークに銃を向け引き金を引く。あとは、銃が勝手に位置を計算して、弾を誘導してくれるから一歩も動かなくていい。もちろん、前回の反省を活かして、今日はリュックサックを背負ってきた。中には補充用の弾、N鉱石を入れる袋、水を入れる用のペットボトル、急速回復用のドラッグを入れてある。攻撃を受けることはないと思うけど念のため。
:あんな銃みたことない
:俺には弾が曲がったように見えたが気のせいか
:いや、俺にも見えた
:私にもオークの顔に向かって、上下しているようにしか見えなかった
:この女……どこの所属なんだ?切り抜きみたけど、どれも初心者が手に入れられる装備じゃない。というより、他の探索者の配信でも見たことのないものばっかりだ
:配信が強制されるようになったのも最近だから知らないだけじゃないか?
:ソロなのも気になる
:そんなことはどうでもいい……はぁはぁはぁ、僕も撃ち殺してくれ
:一部、違う用途で使ってる奴いるんだよな笑
倒れたオークからN鉱石を回収する。これひとつで1万円。もしチームを組んでいたら人数でわけなきゃいけないけど、ソロなら総取りできる。ソロ探索者最高。
銃弾の残数が少なくなってきたからリュックから弾を取り出し装填する。もたついてしまうのは、まだ慣れていないから。
:あっ、落とした笑
:かわいい
:工作員かと思ったが、この不慣れな扱い方をみると、心配は無用だな
:はぁはぁはぁたまらん
:ダンジョン配信でほっこりするとは思わなかった
:あの背中、抱きしめてあげたい
コロコロ転がっていく弾を拾いチャックを閉じる。そうして背負いなおし先に進む。これからはスーツケースにしようかな。リュックも便利だけど、背中が蒸れて気持ち悪い。
今日は白のTシャツに短パン、靴はいつもと変わらずスニーカー。見た目は休日の大学生みたいだけど、汗を掻くのが嫌いだからアウターは着ない。




