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わたくしヤマオは、少女に転生して不思議な山小屋をもらいました。

作者: あきゅう

 少女に転生して三か月。

 わたし、山本八馬男(やまお)は、神様に与えられた山小屋で楽しく暮らしていた。


「ちゅんちゅん、ちち、ち…………………………けっけちーっ!!!!けっけちーっ!!!」


 鳥の声で目覚めたわたしは、ベッドから抜け出して洗面台へ向かった。


 冷たい水で顔を洗ったあと、長い栗色の髪をブラシでよくとかし、ゆるく三つ編みにする。

 

 ちょうど髪のセットが終わるころ、玄関のドアを開ける音がした。


「おやよう! ヤマ。一緒にご飯食べよう」


 玄関から勝手に入ってきたのは、金髪ボブの髪に青い瞳のかわいらしい少女。なのだが、中身はわたしと一緒で、この世界に転生してきた元日本人のおっさんだった。

 名前は大豆田まめお、通称マメ。

 日本にいたときは札幌の会社でサラリーマンをしていたらしい。


 マメは買ってきた食パンをテーブルに置くと、勝手にキッチンの戸棚をあさりはじめる。


「バターと、ジャムと……」


 ぶつぶつ独り言をつぶやきながら、必要な物をテーブルに並べていく。

 身支度を終えたわたしも、遅ればせながら朝食の準備に参加する。


「わたし牛乳持っていっとくね」


 必要な物がそろったところで、わたしたち二人は向かいあってテーブルについた。


「それじゃ……」

「「いただきます」」


 焼き立ての食パンに溶けたバターと、何の実かは分からないが甘酸っぱい味のジャムが最高に合う。


「おいしいね」


 マメは甘党なのでジャムを壺から何度もすくって追加していた。


 これは、この山小屋にきてはじめて見つけた不思議の一つなのだが、マメが今中身をスプーンですくっているこの壺、すくってもすくっても中身のジャムがなくならない壺だった。


 しかも、だいたい一週間おきに中身の味が変わる。最初はくさったのかと思ったが、どうやら週替わりで中身が変わるようになっているらしい。おかげで毎週いろんな味のジャムを楽しむことができた。


 ただ、未だに何の実のジャムなのか、正体が分かったことは一度もない。少なくとも日本では食べたことのない味だけど、おいしいので気にしないことにしていた。


「そういやさ、今日もまた、餡バターサンド売り切れてたんだよね。そうだ、明日一緒に早起きしてパン屋に行かない?」

「う、うーん起きられたら……」


 日本にいたときから早起きは苦手だった。社会人になって慣れたとはいうものの、せっかく異世界に来たのだから、朝はのんびりしたい。

 だけどまあ、一日くらいなら。頑張れるかな。

 わたしは食パンにかぶりつきながら、今日は早く寝ようと思った。


 次の日、わたしは鳥が鳴きだす前に目を覚ました。というのも、マメが泊まり込みで叩き起こしてくれたからだ。


「さ、行くよ」


 マメはいつも朝からテンションが高い。目が覚めた瞬間に、ごみ収集車を追いかけられるタイプだ。

 わたしは、マメに引きずられるようにして山の麓の町へ向かった。


「らっしゃぁい!」


 パン屋さんにつくと、ゴリマッチョの店員さんが迎えてくれた。これも異世界の不思議の一つなのだが、なぜかパン屋の店員さんはみんなゴリゴリのマッチョと決まっていた。


「今日はいい生地が採れたからね。いつも以上にうまいよぉ」


 この世界では、パン生地は小麦から作らない。では何から作るのかというと、パンの実という、中に発酵した生地ができるメロンみたいな果実があった。それでそのパンの実の中身をこねこねして焼くとパンができるのだ。


 だからこの世界のパン屋さんは、みんなその実を取りに行って中の生地を使い、いろんな形のパンをつくって売っている。


「あ、餡バターサンド!」


 マメは軽やかなステップで餡バターサンドのところへ移動する。


「ほんとだおいしそうだね」


 わたしはこの店の餡バターサンドはまだ食べたことがなかったが、食べなくても察した。これは間違いなく美味いやつだと。


「おやっさん。これ五個ください」

「あいよ。特別にバナナマフィンもつけといたらあ」

「うわあい」


 わたしは買ったパンを両手にかかえ、マメと一緒に山小屋へと帰った。

 



 山小屋についたわたしは、さっそく紅茶を淹れた。

 そして、椅子にゆったり腰かけ、いざ実食。


「……っ!!!!!!」

「くっ!!! うあぁ」


 バターが溶けてあんこと混ざり合い、二人の舌をとろけさせる。この餡バターサンド、想像以上。昇天級のうまさだった。


「ふう」


 紅茶を一口飲んで落ち着く二人。

 するとマメが言った。


「今度さ、二人でパンの実採りに行ってみない?」




 わたしとマメは、パンの実ができるという森にやってきた。

 そこかしこに、葡萄の木のようなものがはびこっており、メロンほどの大きさの実がなっている。


「あれだね」


 わたしは、パンの実に手を伸ばした。

 瞬間。


「ぎょえー!! ぎょぎょ、ぎょえー!!!」


 藪の中から、バカでかい鳥が出てきた。ダチョウより遥かに大きい、鶏みたいな鳥だ。


「うわあ! 逃げよう、マメ!」


 わたしとマメは、一目散に山小屋へと逃げ帰った。


「ふう。なんだったんだろ? あのでかい鳥」

「なんかパンの実を守ってるみたいだったよね」


 わたしはパン屋の店員の姿を思い出した。


「だからみんな、あんなにムキムキだったのか」

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