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太子の拳 〜熱血聖徳太子烈伝〜  作者: 牧亜弓
外伝 及び 巻末付録
92/100

外伝 道鏡さんぽ 2 なあ、どうして、俺、ロボ設定になっちまったんだろうなあ

春。


奈良の桜が咲いている。

だがそれを見上げる視線は、金属の瞳――道鏡ロボ。


彼は今日も歩いていた。

鹿と、寺と、老舗パン屋の間を縫うように。


「……花、咲いてるな。桜……って言うんだろ、これ。

人間だったころは、きっと……ちゃんと感じられてたんだろうな」


彼は立ち止まり、ふと、自分の手を見る。

青銅色の指関節が、ギチギチと音を立てる。


「……なあ、俺って……どうして、ロボ設定になっちまったんだろうなあ……」


言って、笑うような音を出す。笑ってない。でも、どこか寂しげだ。


「道鏡ってさ、本来はさ……たぶん、“悪役”だったんだろ?

歴史の中で、太子とか、天皇とかに比べりゃさ……

書き手が望んだ“反面教師”……そんな役割だったんだろ?」


「でもよ……それ、ほんとに“俺”だったのかな……」


 


道鏡ロボは、公園のベンチに座る。


隣では、知らない少年が小さなパンを食べている。


「ロボ、なんでしゃべるの?」


「……おっちゃん、高性能なんだ」


「ロボなのに、しゃべって、歩いて……泣かないの?」


「……泣けたら、きっと……もっと人間だったな」


少年は、パンを半分に割って差し出した。


「はい、あげる」


道鏡ロボは、黙って受け取る。

給油口はもう、パンの甘みを正確に味わうことなどできない。

でも、なぜだろう。今、少しだけ――胸が、あたたかい。


 


「……なあ、未来の誰かが“俺をロボにしたい”って思ったんだろうな。

本物の俺がどうだったかなんて、関係なくさ」


「でもさ、今の“俺”は、“俺”なんだよ。ロボだろうがなんだろうが――

この手で、誰かにパンをもらった記憶は、本物だ」


 


桜の花びらが、肩に舞い落ちた。

道鏡ロボはそれをそっと指先でつまみ、空へと放った。


 


「設定なんてさ、あとからいくらでも変わるんだろ?

なら、せめて――歩いてる間くらいは、“自分”でいたいよな……」


 


そして今日も、道鏡は歩く。

静かに、しかし確かに。


彼の足音は、春の小道に、ぽつりぽつりと残されてゆく。


 




次回予告(?):


「道鏡さんぽ3 ~温泉に行こうか、メカだけど~」

「外伝外伝:道鏡の見た夢(AIの見る仏のビジョン)」

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