十人まとめてかかってこい!
太子は歩いていた。
誰もいない、誰も付き添わない。
馬子は倒れ、妹子と人麿は霜華宮の傷で動けず、
河勝は第二の門で敗れ、未だ目覚めぬ。
ひとり――
完全なる孤独。
だがその背は、沈まぬ朝日のように高く、
その歩みは、天地の理すら震わせていた。
辿り着いたのは第三の宮。
名を「龍牙宮」という。
岩盤で組まれた古代の殿堂。
赤黒い石柱が無数に並び、天井は見えず、風すら通わぬ。
だが、誰もいない。
太子は静かに、歩を止めた。
拳を握る。
そして、
静かに、
だが凄絶な怒気をこめて、叫ぶ。
「――あと十人、いるんだろう?」
声が、空気を裂いた。
「この太子、聖徳――いや、天聖拳の伝承者である!」
拳を天に掲げる。
「次の番人だ? 次の試練だ? ふざけるな。
馬子を殺したのは、お前たち全員だ。
だったら……」
吼える!
「十人まとめてかかってこい!!」
刹那――
空気が揺れた。
宮の奥、石柱の陰、天井の闇。
そこから――現れる。
**拳随士**と呼ばれる、冠位十二宮の番人たち。
静かに、無言で、十人の影が姿を見せた。
第一の番人・雷牙宮の獣王グウド
第二の番人・氷の姫霜花(既に敗退)
第三の番人・龍牙の隠者バラモ
第四の番人・炎輪の男神・焔輪(既に敗退)
第五の番人・水鏡宮の幻術士サラギア
第六の番人・砂塵宮の剣舞ナガレ
第七の番人・嵐の道士カンリュウ
第八の番人・黒曜宮の傀儡師ムラクモ
第九の番人・星鎧宮の双子拳士セツ&ゲツ
第十の番人・獄焰宮の大僧正・阿修羅童子
第十一の番人・聖塔宮の天奏拳士イザヨイ
そして第十二の番人――未だ名を明かさぬ、
冠位の王にして「拳の座」を守る者。
沈黙が落ちた。
太子は一歩踏み出す。
「――わしが、全部ぶち抜く。おまえたちを全部超えた先に、
煬帝の玉座があるんだろうがよ……!」
その眼に恐れはない。
もはや一人ではない。
失った拳士たちの想いと、ともに歩む者たちの魂が背にある。
静かに、龍牙宮が震える。
そして――
戦いの鐘が鳴る。