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馬子、炎輪宮で散る


冠位十二宮・第二の門、炎輪宮えんりんきゅう――


そこは紅蓮の地獄。

空は裂け、天井から炎が滴り、

床は灼熱の石で組まれ、歩を進めるだけで皮膚が焼ける。


「ふぅ……こりゃあ、骨が折れるな……」


馬子は傷を抱えた身で、なお拳を構えていた。

霜華宮での死闘の爪痕は深く、満身創痍。

だが、引くという選択肢は、この男には存在しない。


立ちはだかるは、第ニの番人――

その名を焔輪えんりん

髪は炎、体は鋼。

怒りの具現であり、炎の拳で万象を焼き尽くす業火の戦士。


「貴様が進むというならば、この炎の牢獄を抜けねばならぬ。

 焼かれよ、砕かれよ、滅びよ――!」


焔輪の拳がうねる。

それは剛腕ではない。

意志の炎。

怒りと絶望を焼き尽くす、破壊そのもの。


馬子はそれを受け、吹き飛ぶ。

血が舞い、腕が砕ける。


だが、立つ。


「……まだ……まだ……わしの拳は、くたばっちゃおらん!!」


蘇我馬子、最後の技を放つ。

魂を燃やし尽くす奥義――

地裂火哭ちれつかこく


地を打つ拳から、業火が逆巻く。

その炎が、焔輪の身体を包み込む!


「ば、ばかな! 貴様の拳から炎だと……!?

 これは……民の怒り……民の願い……民の炎か……!!」


轟音とともに、炎輪の肉体が砕け散った。


勝った――

確かに、勝った。


だが、その場に立っていたはずの馬子の体が、

ふらりと揺れ、膝をつき――


ゆっくりと、大地に崩れ落ちた。


「……ふ……わしも……ようやった……わい……」


誰に言うでもなく、

誰に見せるでもなく、

ただ大地に、拳を添えたまま――

蘇我馬子は、その命を燃やし尽くした。


その横顔は、

どこか安らかで、

どこか子供のようで――

そして、どこまでも勇ましかった。


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