聖徳太子!!絶体絶命のピンチ!!駆けつける正体不明の男
「覚悟しろ……太子ィ!!」
三人の拳聖が、ついにその本気を解き放った。
まずは斑鳩阿佐。
女のように細くしなやかなその指先が、宙に螺旋を描いた瞬間、大気が捩じれる。
「舞掌・千輪廻!」
無数の手刀が幻のように炸裂し、太子の全身に食い込んだ。肉が裂け、血が飛ぶ。
「ぐっ……が……!」
続いて、山のような巨躯の男――**出雲剛蔵**が、両足を地に叩きつけると、大地そのものが怒り出した。
「鳴震剛爆!!」
地割れと同時に石柱ほどもある拳が放たれる。太子は身をよじってかわすが、直撃した地面が爆ぜ、その衝撃波が身体を吹き飛ばす!
「ぐはっ……!」
樹に激突し、血を吐きながら倒れる太子。
だが――止めを刺すのは、あの男。
紫の法衣に身を包んだ怪僧、**弓削道鏡**が、口の中で何かを呟いている。
「天なる法力よ、穢土を焼き尽くせ……」
その掌に集まるのは、純然たる黒炎。
それは神仏の名を借りた邪念の結晶。
「黒蓮・降魔焦!!」
黒炎が爆裂し、太子の身を包んだ。皮膚が焼け、空気すら燃え尽きる灼熱。
「太子ィィィィ!!」
秦河勝の絶叫が森に響いた。だが、彼には立ち上がる力がない。
「……っ……う、あ……」
煙の中、太子は立っていた。片膝をつきながら、しかしその目は消えていない。
「まだ……やれる。俺の拳は、まだ終わっちゃいねえ……!」
だが、三人の拳聖は容赦なく迫る。
再び放たれようとする三つの必殺――その時。
「……そこまでにしておけよ」
声が、風のように割って入った。
三人が動きを止めた。太子も、血だらけのまま、顔を上げる。
森の奥から、一人の男がゆっくりと現れる。
日焼けした肌。軽い布衣。肩に背負った一本の竹杖。
だが、その瞳は深く澄んで、底知れぬ気を放っている。
「貴様、何者だ……!」
斑鳩阿佐が睨むが、男は涼しい顔で笑う。
「ただの旅の者さ。だが――」
彼が杖を地に突いた瞬間、大気が震えた。風が一気に止まる。
「俺の名を言えば、山も河も、呼吸を止めるってよ」
静寂の中、太子だけが呟いた。
「まさか……お前、伝説の……」
正体不明の男の口元に、微かに笑みが浮かぶ。
「続きは……こっからだ」
夜の帳が下りる前、森に新たな戦乱の気配が生まれていた――。