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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第四章 オルコリア動乱編
97/103

問題の数々と返す一手

更新遅れ申し訳ありませんm(_ _)m

低気圧に敗北しておりました…

 ターニャの遺体を燃やして弔った。

昔、彼女が密かな自慢だと語り手入れを怠らなかった綺麗な髪。これだけは家族へ返すために遺髪として残した。

 彼女の家族に渡すためにも、今は時間は無駄にできない。

 出立する直前になって霊体化したアウリーが語りかけてきた。


『さっき言ってた大小の魔力波の原因がわかったよ』

「なんだったんだ?」

『大きい方は結界。それもかなり大規模なやつ。ちょうど皇国との国境に沿って展開されてる。解析はまだだけど多分双方向への通行ができなくなってる』

「…退路を完全に絶たれたか」


 もし、アウリーが言う通りならば俺たちは国境に辿り着いても皇国へは戻れないということになる。

 そして援軍が来ることもないということだ。


「小さい魔力波は?」

『かなり特殊な術式が使われてて最初は分からなかったんだけどベースの術式は多分召喚』

「召喚? 何を……いやまて、まさか」


 嫌な考えが頭をよぎる。

 それはターニャたちが命を懸けて持ち帰った情報。

 その中にはどこから現れたのか分からない存在があった。


『数日前に私たちがあの都市に足を踏み入れた時は不死者(アンデッド)の気配すらなかった。いくら辺境とはいってもそこそこの規模の都市が前触れなく不死者の大群に襲われるっていうのは考えにくい。ならその不死者はどこから来たのか。どこで生まれたのか。答えはひとつしかないでしょ?』

「不死者に限った召喚魔術…。死霊術か」

『正解』


 人類において禁術として呪術と共に挙げられるのが死霊術。

 死した生き物の魂を黄泉の国から呼び戻したり、亡骸を不死者として蘇らせて意思なき人形として生者を襲わせる禁忌の術。

 これまでの歴史において死霊術の使用が確認されたのはたった一度だけ。

 魔神戦争にて現れた悪魔の一人が死霊術の使い手だったのだ。

 人類に多大な犠牲を出した魔人戦争だが人的被害に限ればその六割は死霊を操る悪魔によるものだった。

 だが、件の悪魔は既に討たれているはずなので今回の死霊術を行使した者は他にいる。


『どこの誰か知らないけど死霊術に限れば相当やるよ。あちこちで同時に使えたのは霊脈への干渉でもしたんだろうけど、それでも複数術式の行使と制御をできるなんてただの人間じゃない。普通は情報量の多さで脳と魔術回路が焼き切れるよ』

「複数同時ということはエルチェだけが狙われた訳ではなく、内建派の都市だから狙ったんだろうな。つまり、外征派に術者がいる。…悪魔や魔人じゃないだろうな」

『分からない。けど、その可能性は決して低くないよ。国境に大規模結界を展開できる人間がいるなんてと思ったけど悪魔の仕業なら納得できるしね』


 仮に悪魔がこの騒動の裏側に潜んでいるのならば目的はなんだ…?

 これほど大規模に動けば目立たない訳が無い。

 アルニア皇国内で暗躍していたヴィネアはこう言っていた。


『ボクは偉大なる魔王様より先遣隊の命じられた一柱(あくま)だ。人間の国に潜み、魔界とこの世を永続的に繋ぐことのできる(ゲート)を生み出せる地点を探すことが狙いであり目的だ』


 奴は魔界と現世を繋ぐ扉を見つけるまでは暗躍に徹することが魔王からの命令だと暗に言っていたのだ。

 それでも動きを見せたということは…。


(ゲート)が開いたのか?」

『それは無いと思う。(ゲート)っていうのは異界と現世を永続的に繋げる空間魔法の応用。もし開けば大陸のどこにいても感知できるくらいの魔力波が生じるはずだから。それに魔界と繋がれば大気中の魔素濃度が跳ね上がるはずだよ』

「考えることは多いけど今は俺たちが生き延びるための策を講じなくければなんだが…」


 周りは魔獣だらけ、近くの都市には不死者、背後からは大軍、加えて国境には大結界。

 俺からの救援要請が無事に皇都の父上たちに届いていれば北部国境に待機させていた東部の精鋭を動かそうとしたはず。

 しかし、国境の大結界がアウリーの言う通りのものであるのなら最短である南から援軍を送ることはできないはず。

 となると……。

 思考を走らせているとプラウム卿をはじめとする北部貴族たちとカシアンが険しい顔でやってきた。


「ルクス殿下。先ほど国境付近の偵察をおこなっていた斥候が戻りました。その報告によると…」

「大結界で通行ができなくなっていたか」

「っ…! なぜそれを」

「そんなことどうでもいいだろ。今はどう動くかの方が重要だ」

「…そうですな。退路を完全に絶たれた我らに取れる選択肢は二つ。内建派を頼り西へ逃れるか、早期に降伏するか」


 プラウム卿の提示した選択肢は俺の頭にもあったものだった。


 一番活路になり得るのは共和国西部で集結している内建派の元へ逃れること。

 既に開戦している可能性はあるが勝敗が決まるには早すぎるため現実的な案といえる。

 懸念といえば長距離の移動に疲労する兵たちやドワーフの民が付いてこれるかという点。


 そしてもうひとつの降伏案。

 これは一か八かの要素が強すぎる。

 既に皇国との関係が悪い外征派からすればドワーフを保護している俺たちを生かしてもメリットがない。交渉が上手くいけば皇国へ生きて帰れるかもしれないがあくまで希望的観測だ。

 それにドワーフは確実に死ぬ。これではここまでの頑張りもターニャたちの犠牲も無駄になる。

 ならばどうするか。

 これまで聞いた全ての情報を脳内で巡らせるうちにふと思い至った。

 今の情勢だからこそ光明になり得る作戦が。


「あるじゃないか。 西に逃れるよりも短い距離の移動でこの窮地を乗り切る手が」


 上手くいけばどのルートよりも安全に帰国することができる。


「そんな妙案が…? 一体どのように…」


 俺がこれからの動きを伝えると歴戦の諸将たちは驚愕し目を見開いた。

 そりゃそうだろう。この手は軍事に長く関わる者であればあるほど思い浮かばない。


「…なるほど。まさかそのような手が」

「えぇ。目からウロコとはまさにこの事。殿下はいずれ皇国一の知将になられるかも知れませんね」


 それは勘弁願いたいが我ながらこの一手は良い手だと思う。

 間違いなく外征派も予想していない。


「あとは中央の方々がこの策に思い至り、動きを合わせることができるかどうかですね…」

「それは心配しなくていいと思うぞ」

「そうですね。我らの行軍に付いてきていた隠密が姿を消していたので中央にも状況は伝わっていることでしょう。西部で大規模な内戦、国境からの侵入を結界が阻んでいるという情報さえあれば…」

「あぁ。宰相も同じ手を打つはずだ」


 なんて言ったって父上の治世を長年支え、魔人戦争時には軍師として活躍して皇国に武のユグパレ、知のオーキスありと知らしめた人だ。


「すぐに動くぞ。準備しろ」

「「「はっ!」」」


 それぞれの部隊へ戻る諸将を見送りながらカシアンを呼び止める。


「カシアン」

「はい。なんでしょうか」

「哨戒中の白鳳騎士以外を全員集めてくれ。あとドワーフが使ってる靴の予備を貰ってきてくれ」

「かしこまりました。ですが何をなさるので?」

「時間稼ぎの策を少々な」


 やられっぱなしじゃいられない。

 地味ではあるが嫌がらせにはなるだろう。

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