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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第四章 オルコリア動乱編
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不穏な空気

「領主代理のカルラであります。ご、ご助力ありがとうございました! 父に変わって御礼申し上げます。我々だけでは手に余る魔獣の数に困っていました」


 通された応接室には年若い少女と数人の側近が待っていた。


「アルニア皇国第三皇子のルクス・イブ・アイングワットだ。先ほど領主代理と仰られたがコエーリョ子爵は留守か?」

「は、はい! 先日大公様による招聘命令があり父も領内の軍をまとめてオビエドへ向かっております」

「ほう」


 国境にほど近い都市の割には兵の数が少ないと思っていたがそういうことか。

 大公というと共和国の内建派筆頭の超大物。

 そんな人物が冬も明けきらぬ今、国境沿いの貴族を内建派の第一都市オビエドへ招集した。

 内建派は長きに渡る内戦状態をどうにかするために調略で外征派の切り崩しをしていると聞いていたのだが。

 ただ事ではない匂いがする。


「お父上は他に何か言っていたか?」

「えっと、大きな戦いになるかもしれないと。もしも内建派が敗北したら民と共にアルニア皇国へ逃げよと」

「大きな戦い…か」


 現在の季節は冬。

 オルコリア共和国は北国であるため降雪が多く積雪もかなり多い。

 特に外征派の支配領域である北部は豪雪地帯。

 そんな中軍を動かせば戦地に向かうまでに大きく疲弊してしまうし行軍も時間がかかるはず。

 それでも今開戦をするのならば何らかの策があると見るのが当然。探りが必要だな。


「カルラ殿」

「は、はい! なんでしょうか」

「お父上に連絡をつけるにはどれほど時間がかかりますか?」

「天候次第ですが早馬を飛ばせば十日以内には」

「では現状の情報共有と対する外征派の軍容を聞いていただけますか?」

「かしこまりました!」

「それとうちの騎士を数名連絡役としてここに置かせて欲しいのだが良いだろうか?」

「もちろんです! エルチェはルクス殿下に恩があると言えば他の領主から何か言われたとしても退けられます」

「我々は先を急がねばならない。足を止めてる暇はないのだが共和国内が少々不穏だ。何か情報が手に入ったら是非我らに伝えてほしい」

「お任せ下さい。必ずやお伝えいたします」

「よろしく頼む」


 コエーリョ子爵家に改めて協力を取り付けた俺はエルチェの領主館をあとにした。

 そこによく見知った騎士がやってきた。


「ターニャか。ちょうど良かった」

「私に御用ですか?」

「ああ。ターニャと数名でエルチェの街に残ってくれ」

「そんな…私のことはもう用済みでお捨てになるということですね…。あんなにも愛し合ったといいますのに…。よよよ……」

「茶化すな」

「はいはい。ご命令でしたらその通りにいたします。ただ、私でなくても良いのでは?」

「確かにターニャ以外でも問題ないが、外征派と内建派に決戦の兆しがある。何が起こるか分からないから信頼できる騎士をおいておきたい」

「分かりました。()()()()()()()としてエルチェに留まります。私以外の騎士はジェシカとライラ、ムレーナを残していただいても?」

「別にいいが、見事に俺のお守り経験のある騎士で固めたな」

「有事の際に個々の判断で動ける騎士の方がよろしいかなと思いまして。それに殿下に信頼されている私が信頼する騎士たちですので」

「なら安心だ。ターニャ、あとは頼んだぞ」

「はい。委細お任せください」


 俺は信頼する四人の騎士を残して翌日エルチェを出立した。





 ルクス率いるドワーフ自治領救援部隊がエルチェを発した頃、オルコリア共和国北西部の小さな都市は燃えていた。

 数時間前までいつもと変わらぬように苦しいながらも助け合いながら生活していた住民たちは物言わぬ骸と成り果て転がっていた。


「……な…ぜ」

「決まっているだろう。我々に逆らったのだから死して贖うのが当然であろう」

「……や………る」


 この都市最後の生き残りであった守備兵の青年から生気が失われた。

 彼は最期に呟いた、早すぎると。

 そう、何もかもが早すぎた。

 敵対する外征派が軍を動かしたと知らされた一時間後には都市の鼻先まで迫っていた。

 軍を興し、編成進軍し、都市攻城戦へ。

 都市の守備隊は十数倍の兵力の前に健闘虚しく敗北。守備兵は当然として都市中の人間が惨殺された。

 この間たったの四時間である。


「次へ行く。我らは今日中にあと四都市は落とす」


()()()を率いる隻眼の将はそう言って次の都市へと向かう。

その後ろには総勢四万の軍勢が続いていた。


 この時、時を同じくして外征派の三つの軍も内建派の主要都市へ攻め込んでいた。

 四軍合わせて十四万。その数は外征派の最大動員兵力どころかオルコリア共和国全体の動員可能兵力を大きく超えていた。

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