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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第四章 オルコリア動乱編
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ドワーフからの要請

「先に一つお願いしたいのですが、彼らドワーフは礼儀作法というものに疎く失礼な言動を取るかと思います。どうかご容赦いただきたく」

「ああ。もう分かっていると思うが俺は堅苦しいのが好きじゃなくてな。分かりやすいように話してくれたらそれでいい」

「かしこまりました。では…グゴリー殿」

「うむ」


 ナーキーレたちに着席したのを確認してドワーフの戦士長は口を開いた。

 

「皇国の皇子殿はオルコリア共和国の歴史についてどこまで知っておる?」

「元々は複数の小国や様々な部族が連なって一つの国になったと聞いている」

「その通りじゃ。いわゆる連合国家と呼ばれる形で隣大陸のマルシアと同じ形態。ただ一点異なるのが国の中枢となる政府が小国の元貴族や各部族の長がそれぞれの所領を治め、交代制で要職についている。これが明確な違いだ」

「なるほど。それが今回の話にどう関わってくるんだ?」

「儂らドワーフもまた自治領で平穏に過ごしていたのだが、近年共和国内で外征派が急激に勢いを増して内健派との内戦に発展したのじゃ。開戦当初は儂らドワーフやエルフは中立派として戦禍を逃れておったのだが、年々どちらの陣営に与するのかを問われるようになった」


 グゴリーによってオルコリア共和国の内情が語られていくうちに大まかな状況が見えてきた。

 ロミエルに視線を送ってみると彼は小さく頷いてみせた。


「私が中央の方から聞いている情報と概ね一致しています。我が国が内健派を支援するようになったきっかけも外征派が急激に勢力拡大を果たしたからです。その影響が中立派にも及んでいることまでは把握しています」


 俺が読んだいくつかの戦記にも記載があったが内乱や戦争時には中立という立場は開戦時こそ放置されがちなのだが、戦いが長期化し戦力が減るとどちらの陣営に付くかを迫られるというのはよくある話だ。

 肩身が狭くなり追い詰められた中立派の者が無許可で隣国にやってきたということはこの先の展開はおおよそ二択。

 自分たちの亡命の手助け、もしくは……


「今そこの若人わこうどが語ってくれた内容に間違いはない。抜けているとすれば一月ほど前から外征派の連中が中立勢力へ向けて兵を差し向けていることじゃ。儂らドワーフ戦士団はかの魔人戦争を戦い抜いた戦士が多い。真の戦を知らぬ有象無象の撃退自体はそう難しいことではないが疲弊し続けるドワーフ領に未来はないとドワーフ王は考えた。そんな時に獣人族が南の異国へ移ると小耳に挟んだ。儂らの亜人よりも虐げられておる獣人を受け入れる国ならば儂らの願いにも協力してくれるかも知れぬとドワーフ王は望みを儂に託して獣人たちに同行させたのだ」

「随分と我が国を買ってくれているようですが隣国の内戦に他国である我が国が介入する意味は分かっているのですか?」

「重々承知しておるし、煩わしい外交問題が発生することも理解しておる」

「ならば…」

「それでも儂らは縋るほか道がない。いつ終わるかも分からん戦いを続けるなど民を思えば愚の骨頂。大義のためとそれを平然とおこなう時点で外征派も内建派も信用できん。故に我らが頼れるのは民を重んじる貴国より他なかった。儂らドワーフはアルニア皇国に対して独立の援助と救援を要請する」


 頭を下げたグゴリー。

 俺が何かを言う気配を察したのかロミエルが首を振り何も言わないでくださいと視線で釘を刺してきた。

 恐らく俺が了承すると思ってのことだろう。


「力になりたいのは山々ですが我々ではどうしようもないのです。何せこれは我が国の行く末を左右する事柄です。仮に救援すると決めれば我々は共和国の外征派との戦いに参加しなければなりませんし、周辺諸国からは侵略行為や調略行為と取られ、我が国の見方が厳しいものとなることだってあり得ます。例えそれが救援要請によるものだったとしても。現状ドワーフ領の救援をするメリットも見つからなければデメリットばかり見つかるのです。これでは交渉のしようがありません。お分かりでしょう?」


 ロミエルが語る内容は至極真っ当なものであり議論の余地を与えるつもりもないという意思表示でもあった。

 しかし、見方を変えればチャンスを与えたとも取れるのだ。


「ならばメリットがあれば一考してもらえるのじゃな」

「それは…」

「ああ。明確な利点があればな」

「ルクス殿下!」


 ロミエルを手で制しドワーフの戦士長に向けて視線を送ってみる。

 戦士長は少し考える素振りを見せてから改めて口を開いた。


「…ドワーフ領で発掘されるミスリル鉱石の二割の輸出でどうじゃ?」

「「「っ!!!」」」

 

 アルニア皇国側の出席者だけでなく獣人たちも息を呑んだが無理もない。

 ミスリル鉱石とはドワーフ領や帝国の一部土地にて発掘される金属のこと。

 その使い道は多岐にわたり、武器や防具だけでなく魔導具や生活必需品にも使われておりその需要は測りし得ない。

 だが、輸出をおこなっている国が大陸内にシャラファス王国とオルコリア共和国の二カ国しかない。

 現状アルニア皇国はシャラファス王国からの輸出に頼っているが、供給が間に合っていないのが現実だ。

 ここにオルコリア共和国のミスリル鉱石産出量の七割を担っているドワーフ領が貿易先に加わればアルニア皇国は更なる発展とインフラ整備が進められることだろう。

 ゆえに俺はにっこりと笑って、


「足りない」

「なんじゃと?」

「足りないと言った。ミスリル鉱石の総産出量の三割、それとドワーフの技術団を我が国へ派遣すること。ここまでなければ我が国は動かない」


 沈黙するグゴリー。

 彼だけでなくロミエルたちでさえ何とも言えない空気を漂わせている。

 第三者から見れば俺は今ドワーフに対して相当ふっかけているように見える。

 

 もしも、ドワーフ領が独立を宣言し皇国がその後ろ盾になれば多くの国々は黙認するだろうし共和国内の内建派も沈黙せざるを得ない。

 皇国としても常に枯渇気味であるミスリル鉱石が今後継続的に手に入るとなれば独立のための支援も安いものだと中央は判断するだろう。

 しかし、それでは足りないのだ。

 ドワーフ領の独立を支援すれば今の共和国内の情勢的に必ずエルフや魚人族あたりから同様の要請が舞い込むことになるだろう。

 そうなれば一度支援を受け入れてしまった皇国は条件次第で承諾せざるを得なくなる。

 ドワーフ領は共和国の東に位置しており皇国とも国境がそこまで離れていないため支援がしやすいがエルフは西の森であったり魚人族は中央の湖を自治領としているため支援の手が簡単には届かない。

 一度でも前例を作るのならば今後も同じことが起きても対応しなければならなくなるだろう。

 それを含めた対応費が俺の提示した条件だ。


「どうする、グゴリー殿?」

「…一度、持ち帰り……いや、その条件を飲もう」

「いいのか?」

「儂は小難しいことを考えるのは得意でない。故にこの判断がドワーフ領にとって正しいのか分からぬ。じゃが、儂の戦士としての勘は間違っていないと告げておる。そして儂の勘は今まで間違ったことがない。ならば問題なかろう」


 彼は間違いなく外交に向いた性格ではない。

 もっと言えばそこまで賢いタイプでもない。

 にも関わらず、ドワーフ王がグゴリー殿を使者に任じた理由はここにあるのだと思う。

 彼は魔人戦争を最前線で生き抜いた生粋の戦士であり異常なほどに鋭い第六感を持っている。

 故に、()()条件を提示されれば断られるし、匂わなければ承諾する。

先程、俺の条件提示に対して即答しなかったのはドワーフ領が許容できるギリギリのラインを攻めれていたからだと思う。


「分かった。なら、俺はドワーフ領の件に手を貸すことにしよう」

「感謝する」

「ただし、この後のことはグゴリー殿次第だな」

「どういうことじゃ?」

「貴殿にはこれから皇都に向かってもらい、皇王陛下や宰相に今と同じように取引を持ちかけてもらう。間違いなく救援要請の受諾を渋られると思うが、さっきの条件を自分から提示すれば間違いなく承認されるさ」

「貴国の王へ話は当然通すつもりでいたが…儂一人でなのか?」

「俺は今この土地を離れる事は出来ないしうちの人員も手一杯で出せないからな。一筆添えるがそれだけでは不安かな?」

「ふっ、言ってくれる。この交渉を制し、必ずや貴国の王に頷かせてみせる」


 俺は差し出された手を握る。

 この問題はどう転んでも俺一人で抱えるには少々大きすぎる。

 父上がどう判断するかは分からないが、我が国の掲げる平等の信念を思えばきっと要請を受け入れるだろう。

 面倒臭い外交が必要になるだろうがそこは宰相や外務大臣の管轄で俺には関係ない。

 そもそも獣人問題を俺に丸投げしたのだからキリキリと働いてもらおう。

 

 予想外の出来事もあったが獣人たちの受け入れはすぐに始まる。

 悠々自適な読書生活のため、もう少し頑張ろう。

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