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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第三章 禁書探索編
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神隠しについての考察

「サーラ、神隠しについて君の知っていることを全て教えてほしい」

「知ってるっていっても私が知ってることはさっき話したし、この領に住んでる人なら大体知ってるわよ」

「それでいい。俺たちはそれを知らないからな」

「わかったわ」


 サーラの口から語られた神隠しの情報は事前に騎士が聞き出していた内容と合致していた。


 神隠しが発生し始めたのが六年ほど前であること。

 当時、魔物や魔獣の大量発生により各領主や民衆の目はそちらへ向いており、失踪者に気づくのが遅れたこと。

 はじめは月に一人程度しか失踪が発覚しなかったが、時が経つごとにその人数が増え、今では月に五人以上が姿を消しているという。


 六年間で大きな村に住んでいる人数と大差ない領民が失踪しているのにも関わらず、領主であるセノーラ伯爵は調査をしている素振りがない。

 これは確かに疑わしくみえてくる。


「実際、毎年数十人単位で領民が消えても気づけないもんか?」

「私は分かりかねますが…お父様や兄上であれば気づくかと」

「そのこころは?」

「領の税務官だけでなく二人とも税収報告書に目を通しますから」

「なんというか…徹底しているな」


 金にがめつい…と言いたいところだがアストレグ公爵領の税率はアルニア皇国内でも低い方と聞いたことがあるので恐らく不正やミスを防ぐためだろう。


「アンジーナのところはどうだ?」

「そうですね…。領政に関しては母が一手に担っているので詳しくは分かりかねますが、相次いで数十人も失踪すれば捜索を希望する嘆願書が寄せられますのでやはり気づくことができるかと」


 アンジーナの家は北東部に領地を持つ伯爵家である。

 当主は前任の白鳳騎士団長でありアンジーナの実の母親。

 アルニア皇国では珍しい女伯爵だ。

 俺も会ったことがあるが切れ者という印象だ。

 あの女伯であれば見過ごさないという信頼感すらあるのは俺だけではないだろう。


「なるほど。確かにセノーラ伯爵が関わっている、もしくは見て見ぬ振りをしている可能性はあるな」


 と言ってはみるが彼が黒幕という気はしていない。

 先ほど少し顔を合わせただけではあるが彼の態度は皇族を敬う臣の鑑のような対応だった。

 貴族の中には皇族との縁を結びどうにか地位を上へ上へと押し上げようとする者が少なからず存在している。

 それを思えばセノーラ伯爵は大変まともで好印象であった。

 宰相からも伯爵は温厚で人種差別などとも無縁の人物だと聞いている。皇族から任されている地の民が失踪していると知っていれば大々的な調査をおこなっていることだろう。


「サーラはセノーラ伯爵家で奉公し始めてから神隠しの調査をおこなってるとは聞いたことはないんだよな?」

「ええ。伯爵家に入り込んでから数ヶ月は本邸で働いていたけど調査どころか神隠しの話題すら聞いたことがないわ」

「内密に調査しているという線もあるがそれは本人に聞かなければわからないか」


 閑話休題。

 今ある情報では神隠しの犯人についてこれ以上話しても進展はないだろう。

 現状手元にある情報が少なすぎる。明日以降、禁書の捜索と並行して調べることにする。


「今日のところはこれで解散としよう。アンジーナ、サーラを送るついでに俺の滞在中はサーラを俺の専属にすると館の人間に通達を出してくれ」

「はっ」

「リゼルは明日の予定についてだ。大まかな視察日程を組むから手伝ってくれ」

「かしこまりました」

「レイン、俺の仕事が終わるまでフィアとシアと一緒にいてあげてくれるか?」

「お任せください」


 退室するアンジーナたちを見送り扉が閉まるのを確認してからため息を漏らす。


「…俺は禁書を読みたかっただけなんだけどなぁ」

「神隠しについては見て見ぬ振りもできましたよ。殿下自ら調査を請け負わずとも禁書を確保して皇都に戻り次第、宰相殿あたりに報告するでも良かったのでは?」

「俺らしくないか?」


 肩を竦めてそう聞くとリゼルは肯定も否定もせずに苦笑するのみ。

 実際いかに皇族として民を大事にするべきと考えているとはいえ、確かに今神隠しについて調査することで本来の目的である禁書捜索の進行が遅れる可能性もある。

 監査局が各街道を見張り、抑えてるとはいえ迅速に見つけるに越したことはないだろう。


「頭ではわかっているんだが…難しいな」


 そう呟き、脳裏に浮かんだ過去の出来事を忘れるためにもう一度深く息を吐き出した。

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