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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第二章 仙国スオウ編
42/103

真相と敵の目的

区切りの兼ね合いで短めです。


 恐怖の象徴のように思えていたケトゥスが白く染まっていく光景は人々の目には神々しく映っていた。

 やがて島のように大きな身体が白く染まりきるとケトゥスはゆっくりと瞼を開けた。

 その瞳は先刻とは別の存在かと思うほど穏やかで優しげだった。


『光王プラール。我との契約を果たしてくれたこと心より礼をいう』

「勿体なきお言葉ですわ。精霊である以上果たせない契約は結ばない、それが精霊の掟。果たすのは当然ですので」

『その点ではあの日そなたが我の元に現れたのは僥倖だった。我が願いを果たすことができる者は世界でも数える程度しかいなかっただろう』

「そのせいで私は愛する夫や親しい者たちとの別離を味わいましたがその辺は如何です?」

『む…。すまない…』


 親しげにケトゥスと話し始めたプラールに咲や幽たちは置いていかれている気分だった。

 それに気づいたのかプラールは咲達の方へ振り向いた。


「差し迫った危機は去ったわぁ。ここにスオウを襲った嵐は治まったといえるでしょう」

「ですがお母様…。その、ケトゥスはまだ…」

「大丈夫。先程までの彼は彼であって彼でないものだったけれど、今は私のよく知る彼よ」


 同意を求めるように視線を送られたケトゥスは大きく頷いた。

 それだけで海が波立ち蠢いた。


『プラールの言うことは正しい。我は正気を失っていた。いや、失わされたと言うべきか』


 四大聖獣ケトゥスから語られた内容は衝撃的な独白であった。

 

 事の始まりは創世記前、つまり神話時代だった。

 人間の暮らすこの世界を創造したとされる創世神ノア。

 魔界と呼ばれる悪魔たちが暮らす世界を生み出したとされる魔神サロス。

 この二神の間で勃発した大きな戦争が発端だったという。

 結果だけいえばこの戦争は創世神ノアが勝利した。

 しかし、創世神ノアの眷属として戦いに参加していた四大聖獣たちは大きな傷を負ったという。

 ケトゥスが受けたのは物理的な傷ではなく魔神の呪いだった。

 身体が黒く染まり精神を荒ぶらせながら無限に等しい生命力を蝕むという呪いでケトゥスは数千年これに耐えていた。

 そして創世歴 三一六年。

 身体のほとんどが呪いに堕ちたケトゥスは今は亡きスオウの島々を手当たり次第に襲った。

 その際襲った島の中にはプラールや咲が生まれた故郷があったのだという。

 プラールと相対した時、ケトゥスは僅かな理性を保ち呪いに抗ってプラールと一つの契約を結んだ。

 自我を失った聖獣ケトゥスが世界に対して大きな影響を及ぼす時、抑止者としてケトゥスを止める。

 契約の対価は精霊王級の精霊が全力戦闘を可能にできるほどの膨大な魔力。

 呪いに侵されているケトゥスは使える魔力の全てをプラールに託して封印された。

 プラールは魔力を温存するために微精霊にまで格を落として縮小し今日までその時を待ち続けていたのだ。


「さて、貴方はこれからどうするのです?」

『此度そなたやこの地に住まう人間には大いに迷惑をかけた。本来であれば人の子の代表者に謝罪を入れたいところだが我は一刻も早く『天樹』の守護に戻らねばならぬ』

「…お母様、天樹とは?」

「世界のどこかに存在する魔界への門を封印するもの…とでも言うべきかしら」

『概ね間違いは無い。この世界には数えて四つの天樹が存在する。それぞれの天樹は四大聖獣と呼ばれる我らが守り続けている』

「全ての天樹が失われた時、世界は再度争いに覆われるなんて言われている……っ!!!」


その時、強烈な魔力が波として世界を駆け巡り、プラールとケトゥスが弾かれたように水平線の彼方を見た。

燃えるような夕焼けの先に何を見たのか表情には驚きと怒りがあらわれている。


『…これが狙いであったかっ! 我を遠き海へと送り込み手薄となった天樹を…!』

「信じたくないけれど…今の魔力波は間違いないようね」

「一体なにが…」


 咲の言葉は続かなかった。

 ケトゥスを見て言葉を失ったのだ。

 視線の先では真っ白で巨大な身体が光の粒子に変わり始めていた。


「身体が…消えかけてる」

『我ら四大聖獣の生命は文字通り天樹と共にある。自身の守護する天樹を失えば我は消滅する。そして我の守る天樹は今失われた。……新たなる精霊王よ、名を聞こう』

「天照…いえ、サキです」

『うむ。よい名を持っている。此度この地に住まう者たちには大いに迷惑をかけた。失われた命もあるだろう。ゆえに一つ約束しよう。我が消えても我の眷属たちは生き続ける。五百年の間、我が眷属たちはこの国の味方であろう。魔物であろうが、人間であろうが、この国の敵であるならばそなたらに味方する』


 仙人の守護に加えて四大聖獣の眷属の守護が得られる。

 失われた命に価値は決められない。

 だが何もされないよりは人々も受け入れやすいと咲は考えた。


『これが我にできる贖罪だ。我が天樹を燃やした痴れ者は眷属が滅ぼしたようだが我はもう長くない。だがこれだけは伝えねばならぬ』


 身体が薄れゆく中、聖獣ケトゥスは言った。


 ─悪魔に備えよ─ と。

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