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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第二章 仙国スオウ編
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力の片鱗

 今回の使節団には護衛として、黒鳳騎士団から三十名と白鳳騎士団から二十名の計五十名の騎士たちが随行している。

 そして予想外だったのは、


「この度、護衛隊の隊長を拝命しましたアンジーナ・フォン・ペリスです。殿下の御身は私たちが責任を持ってお守りいたします」


 護衛隊の隊長として付いてきたのが白鳳騎士団の団長である【赤乙女(ラ・ピュセル)】アンジーナだったことだった。

 

 燃えるような赤毛の髪と瞳が印象的な彼女だが、皇国随一の戦闘力を誇る一人だ。


「まさか父上がアンジーナを俺の護衛に寄越すとはな。流石に心配性だろ」

「陛下もルクス殿下のことが心配なのでしょう。それに帝国と和平がなった今、我が国の脅威となるのは魔獣ぐらいですから」

「魔獣ならリゼルがいるしなぁ…」

「はい、リゼルがいるなら魔獣被害はほぼ抑えられるでしょうから」


 お互いに苦笑いを浮かべながら嬉々として魔獣に向かっていく黒鳳騎士団団長を思い浮かべた。


「アンジーナ」


 馬車の窓越しにアンジーナと話していると顔見知りの白鳳騎士がやってきた。


「ターニャじゃないか。久しいな。それにアンジーナと同じ任務に付くなんて珍しいな」

「ご無沙汰しております。そうですね、殿下の幼少期に護衛任務以来です。アンジーナが団長へ昇格してから私も出世して部隊を任されてますから。ですので先の帝国戦のような騎士団総動員任務でないと一緒になれなくて」

「そうだったのか。たまには図書館にも顔を出してくれよ?」

「図書館の殿下はお声掛けしても気づいて下さらなくて悲しくなると騎士の間では有名なので遠慮しておきます」

「ははっ。違いない。今度から返事は返せるように努力するよ。おっと、呼び止めて悪かったな。アンジーナに何か用事だろ?」

「はい。少々気になることがあったので。少し借りていきますね」

「ああ。ご苦労さま」

「……私はモノ扱いですか」


 ターニャに連れられてアンジーナは使節団の先頭の方に向かっていった。


「さて、読書でもするかな」

「その前に一つお聞きしてもよろしいですか?」


 俺の対面に座り、先程までアンジーナとの会話を静かに聞いていたレイン嬢が声を上げた。

 ここまで世間話程度しかしていなかったが、彼女から話しかけてきたのは初めてだった。


「なにか?」

「ルクス殿下は図書館からあまり動かないと聞いておりましたが、何故騎士団の方とは仲がよろしいのでしょうか?」


 言われて気づいたが客観的に見てみると少し不思議かもしれないな。

 普通引きこもってる皇子が外任務の多い騎士団と親交が深いわけないし。


「あの二人は俺が小さい頃から数年間専属の護衛だったのさ。それにアンジーナは俺の武芸の師だ。一応皇族として最低限の武術を習わされたからな。まぁ武芸の才能は俺にはなかったが」

「なるほど…。そういうことだったのですね」


 当時はまだ副団長だったアンジーナにはよく剣や槍を教わったものだ。

 …手加減ができない奴だから相当ボコボコにされた記憶もあるが。


「逆に聞くんだが、レイン嬢は水と風の魔術に関して一目置かれていると聞く。幼少期から訓練してたのか?」

「はい。私は初めて魔術を見た時にその、魅入られまして。魔術ばかりに打ち込んでいたらいつの間にか【氷風の才女】などという恥ずかしい呼び名まで付いてしまいました…」

「俺が本に魅入られたのを考えれば似た者同士なのかもしれないな」

「そうですね。殿下と私は少し似ている気がします」


 この会話をきっかけにレイン嬢とは話が弾み、魔術の話を色々聞くことができた。

 魔術に関する本で文字で書かれた説明を読み解くのも面白いが、実際に魔術の使い手から話を聞く方が数倍理解はしやすい。


 そんなこんなで魔術談義に花を咲かすこと十二日。

 皇国西部の港湾(こうわん)要塞都市ムズリアを目前にしたところで馬車が止まった。


「完全に止まったな。これは何か出たか」

「私が様子を見てきます」

「いや、俺たちはこの使節団の団長と副団長だ。下手に傷でも負えば騎士達の責任になってしまう今は出ない方がいいだろう」


 幸い、護衛は皇国の誇る二大騎士団員とその片翼の団長が一人。

 余程の相手でない限り苦戦することすらないだろう。

 そう思い本を取り出した時、馬車の窓の外を黒鳳騎士団の制服を着た団員が吹き飛んでいった。


 精鋭中の精鋭である黒鳳騎士団の団員が吹き飛ばされたのか?


(アウリー)

『ん。ちょっと珍しいのが出てるみたいだよ。ブラッディクラブが六体』

(…A級の魔物が六体? しかもブラッディークラブ?)


 色々とおかしい。

 ここはレインの実家であるアストレグ公爵家の領地内であり重要拠点のムズリアに続く大きな街道。当然街道警備に公爵家の騎士や兵士が見回っているはず。

 にも関わらずこの街道にA級の魔物が現れている。

 

 魔物には冒険者協会が決めた討伐難度を示す等級が設定されている。

 上からSS級、S級、A級、B級、C級、D級、E級と下にいくほど弱い。

 

 A級以上の魔物は一体だけでも周囲に大きな被害をもたらす。

 そんな存在が六体も街道に現れるなどあってはならない。


 そもそも、ブラッディクラブは群れで動く魔物ではない。

 それにあの魔物は海辺以外に現れることはほとんどない。

 ここはまだ海距離がある。間違いなく異常事態だ。


(騎士達で勝てそうか?)

『うーん、勝てはすると思う。ただグリフォンに乗ってる女騎士の人たちは大丈夫だけど、地上で身体を張って戦ってる黒い騎士の人たちが耐え切れるかどうかって感じ』


 いかに精鋭騎士とはいえ、A級六体を同時に相手するのは厳しい。

 本来ならA級一体につき、精鋭騎士が二十人は欲しいところだ。


 仕方ない。

 これ以上騎士に被害が出る前にアウリーに命じて…


「っ!!!」


 手を出そうとした時、膨大な魔力の展開を感知した。

 そのあまりにも大規模な魔力展開に俺は馬車を飛び出した。

 レインに出るなと言った手前、皇族の俺が飛び出すなど論外だがレインも感知していたようで反対の扉から同時に飛び出していた。


 数十メートル先では壮絶な光景が広がっていた。

 五体のブラッディクラブと周辺の道が凍りついていた。

 残りの一体はというと強靭な両腕のはさみが砕かれ、脳天には見慣れた長槍が刺さっていた。


 …おいおい。どうやったら槍一本で鋼鉄よりも硬いブラッディクラブの鋏を粉砕できるんだよ…。

 これをやったであろう赤毛の女騎士団長は刺さった長槍を頭部から引き抜きながら氷の彫像を作り上げたであろう者に鋭い視線を向けていた。


「…何者ですか」


 アンジーナが見つめる先には、アルニア皇国ではほとんど見られない身体にぴちっと吸い付いているような衣装を身にまとい、扇情的なスタイルと大きな二つの双丘が目につく白髪はくはつの女性が立っていた。

 右腰には二本の刀剣が確認できる。


 あの独特な意匠に服装……まさか…?


「驚かせてしまったのなら申し訳ない。汝らにこれ以上怪我人が出ないよう先にあの蟹どもを凍らせた。汝らを連れてくるのが我の任務であるから」


 表情や声音をピクリとも動かさずに話す様子に怪しさを感じたのかアンジーナが臨戦状態に入ろうとしたため慌てて二人の間に割って入る。


「待て、アンジーナ」

「殿下っ! お下がりください! まだその者の素性が…」

「助太刀感謝する。我が国の者達は貴殿らの顔や姿を知る者が少ない。我が騎士の非礼を詫びよう」


 頭を下げる俺を見て周りの騎士がざわめき、アンジーナやレインは驚愕のあまり前のめりになっていた。

 皇族である俺が頭を下げるということは相手はそれに準ずる身分ということ。

 察しの良い者達はその力と態度で気付けただろう。

 というか白鳳騎士は彼女を一度は見ているはずだがな。


「頭を上げて欲しい。我らは汝のことを対等の関係だと思っている。そのようなかしこまった態度は今後不要だ」

「感謝する。では何故貴殿がここにいるのかの事情を説明して頂けますか? 雹彩凍流真君ひょうさいとうりゅうしんくん殿」


「「「っっっ!!!!!」」」


 使節団の全員が驚愕の表情を浮かべた。

 感情の起伏が見えにくい相手の女性も僅かに目を見開いていた。 


「…我が名を存じているとは思わなかった。汝の名を聞いても良いか」

「これは失礼いたしました。私はアルニア皇国第三皇子、ルクス・イブ・アイングッワット。此度の使節団の団長を仰せつかっております。以後お見知りおきを」

「ルクス、か。うむ、覚えた。改めて名乗ろう。我は仙国・スオウの四大仙公が一人、雹彩凍流真君ひょうさいとうりゅうしんくんだ。仲間にはさいと呼ばれている。この先の港町で他の仙公もルクスを待っている。ここからは我も護衛の任を手伝おう」


 A級の群れによる襲撃から始まり、果てには仙人が現れるという展開に俺は疲れを感じ無意識の間に溜息をこぼしていた。


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