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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第二章 仙国スオウ編
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仙人の国へ

本日より第二章に突入します!

暖かく見守って頂けましたら幸いですm(_ _)m

 アルニア皇国とルクディア帝国の和平会議から一週間が過ぎた。

 アルニア皇国に有利な条件での和平条約を結べたことを皆喜び、戦勝記念式典ではユリアス兄上を筆頭にシャルマンを守り抜いた諸将が父上から褒美を授かっていた。

 かくいう俺も石兵八陣の立案による褒賞として貴重な稀覯本をもらったのだが今それを読むことができない。

 何故なら今日は俺が仙国スオウに出立する日だからだ。

 ああ…なんで世界はこんなにも俺に厳しいのだろうか。


「ルクス殿下! あと一刻で出立です! いつまでも女々しいことを仰らないでこちらの服にお着替えください!」

「じゃあ聞くが目の前にすぐに売り切れてしまうスイーツがあったらどうする?」

「…食べます。ですがそれとこれとは話が別です! いい加減お着替えを! もう三十五回も催促しているのですが!」

「え、数えてるとか暇なのか?」

「殿下が動いて下さらないからお着替えを手伝えずに暇になってしまっているのですっ!」


 俺は自室で衣装係のメイド達をあしらいつつ、こっそり読書に励んでいた。

 大体あと一刻もあるのだからいいじゃないか。

 先日の戦いではちゃんと活躍したのだからこのくらいは許容して欲しいものだ。

 俺の様子を見かねたのか誰かが呼んでくるかしたようでついにメイド長がやってきた。


「ルクス殿下、お着替えを」

「スオウまでの道のりは十四日ほど。その間くつろいで本を読むこともままならない。なら今のうちに読み溜めするのが賢いと思わないか? メイド長」

「えぇ、思いません。今すぐお着替えを」


 ちっ…流石にメイド長は誤魔化せないか。

 これ以上待たせると本当に悪魔より恐ろしい冥土長(メイドちょう)が誕生してしまうだろう。

 そうなれば俺は昔のように読書禁止令を発令し図書館への出入りを封じてくる。いくら他国に赴いても帰国後同じことをするだろうし流石にそれは避けたい。

 泣く泣く読んでいたページに栞を挟み、立ち上がる。

 メイド長たちと移動した部屋には真新しい騎士服のようなものがあった。

 白を基調とし、青と金の差し色が入り、群青色の裏地が鮮やかな白いマント。


「普段、こんな堅苦しくて素敵な服着ないんだが…」

「ルクス殿下は我が国の代表としてスオウに向かわれるのです。この程度は当然かと」

「はぁ…」


 ため息を吐いている間に着替えが進められ、あっという間に終わっていた。

 姿見を見ると普段の地味(皇族的に)な服装に目が慣れしすぎているせいか自分の姿がキラキラして見える。


「予想以上にお似合いですよ、ルクス殿下」

「予想以上は余計だ」

「これは失礼いたしました」


 幼少期から世話になっているメイド長と軽口を叩きつつ、王の間に向かう。

 そこで今回の仙国スオウ使節団と初めて顔を合わせる予定だ。


 …まぁ何度か機会はあったようだが俺は図書館から出なかったから初顔合わせとなる。


 王の間に入ると重臣や使節団に参加するであろう面々が勢揃いしていた。


「おお、ルクス。似合っているではないか」

「父上、俺には少し派手すぎるように思えるのですが」

「ユリアスやトレシアも行事や公務では着ておる。逆にお前だけだ。今までこういった服を持っていなかったのは」


 皇王である父の視線が痛い。

 父と話していると宰相であるオーキスが一人の少女を連れて近づいてきた。


「ルクス殿下、出発前に今回、全権大使である殿下を補助する者を紹介致します」

「…紹介の必要あるか?」

「一応形式的に紹介はさせてください。この度殿下を補助する使節団副団長であるレイン嬢です」


 オーキスが連れてきたのは俺を聖域としょかんから引き摺り出した張本人である【氷風の才女】だった。


「先日は大変お世話になりました。もうご存知のことと思いますが、アストレグ公爵家のレイン・フォン・アストレグです。微力ながら殿下をお支えします」

「…あぁ、よろしく頼む」


 本当なら色々言いたいことがあるのだが、今は挨拶のみにとどめておいた。

 俺も大人だからな。


『ルクスってたまに子供っぽいところあるよね〜』


 霊体化した状態で何か言ってる契約精霊は放っておいてオーキスと話を進めよう。


「殿下は仙国・スオウについてどの程度ご存知でしょうか?」

「元々スオウは三百年ほど前に五人の仙人を信奉した人々が興した国が何度も分裂・併合を繰り返した国で、現在に至るまでに一度も自ら戦争を起こしたことがない。あとは、海に囲まれている島国ならではの文化があるとかそのくらいか」

「流石は殿下です。おおよその事前知識は既にご存知のようですね。今回スオウが何故我々に援軍の見返りとして皇族を大使として招き入れたいと申し出たかは不明です。何か理由があってのことだと思いますのであちらでは十分お気をつけください」

「わかった」


 あの宰相が意図を読みきれなかったのか。

 全知に近い優秀な男だと思っていたが、やはり全能ではないということだろう。


「それでは出立式を始めましょう」


 上座である玉座に父上が座り、その横には宰相オーキスが立つ。

 国王の目の前に俺とレインを含む使節団が跪く。

 その両脇には重臣たちが列をなしている。


 父上…いや、皇王陛下が立ち上がる。


「第三皇子ルクス・イブ・アイングワット、前へ」

「はっ」


 立ち上がり、玉座の前の階段を登り、陛下の前で再び跪く。

 陛下が手元の宝剣を抜き俺の首元にあてる。


「仙国・スオウとの盟約に従い、全権大使として使節団を率いて出立せよ」

「全権大使の任、謹んで拝命致します」


 陛下が宝剣を納め、それを俺が受け取ると拍手が巻き起こった。

 一連の流れは王命を受ける時の儀式のようなものだ。


 これで俺はスオウで起きたことや取引に関わる決定権を任されたこととなる。

 この権限はスオウとの友好のために必要とあれば軍さえも動かせる。


 こうして俺を団長としたアルニア皇国使節団は多くの民たちに見送られ、仙国・スオウへと向かうべく皇都クラエスタを出立した。

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