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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第四章 オルコリア動乱編
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サウシーセ大森林の戦い

 サウシーセ大森林。

 大陸有数の森林地帯であるこの場所は森人族エルフの住処として近隣から禁足地のような扱いを受けていた。

 森へ一度足を踏み入れれば最後、出ることができないと。


 実際に惑わしの結界はこれまで無数の招かれざる客の侵入を阻んできたが大きな弱点があった。


 それは一度でも結界内部の地形や様子を認識した者には効果が無くなるというもの。

 現代に例えるならばその性質はミラーガラスに近い。外からは見えないが内側からは外を見ることはできる。

 だが何らかの手段で結界の内側を観測することができればこの結界は攻略することができるのだ。そして惑わしの結界が構築された古代には存在しなかった魔術がそれを可能にしてしまった。

 魔物使役術である。

 術者は魔物や魔獣を意のままに操りその視界を共有することができるのだ。惑わしの結界の対象と効果は意志を持って結界に踏み入る生物の方向感覚を狂わせるというもの。つまり術者に操られる魔物や魔獣はこの結界の対象外となってしまうのだ。

 しかし、魔獣を通して内部を認識した場合、結界の効果を免れるのは術者一人だけ。にも関わらず大軍が結界を超えれたことには理由がある。

 それは結界の維持に使われていた魔石を破壊されていたから。魔獣を使役していた者は森人族の里の位置を割り出すことと並行して結界の維持に使われているであろう魔石を探していた。

 常時発動型の結界は必ず核となる結界石が存在するのは周知の事実。森全体を覆うほど広範囲の結界となれば結界石が複数あっても不思議ではないし一つ破壊するだけで正常に維持ができなくなるのではないか。

 そう考えた術者は一度目の侵攻時からしらみ潰しに探し続けていた。そしてそんな地道な努力が実ってしまったのが現在である。


「アドリアン様。北西のフルール様の部隊が前進を開始したようです」

「うむ。では我らも進むぞ」


 大きく頷いたのは南から森人族の里へ迫る外征派閥第二軍の兵二万を率いるアドリアン侯爵。

 ルクスたちとドワーフにしてやられた彼だったがあの後も周辺都市の制圧をおこなっていた。

 そして東部地域最後の勢力を降すべくこのサウシーセ大森林の包囲作戦に加わっていた。追撃戦の時よりも兵が一万少ないのは制圧した都市へ残してきているからである。


「それにしても遭難必須といわれるサウシーセ大森林に足を踏み入れる日が来るとはな」

「そうですね。古来より大森林は侵すべからずの教えがありましたから」

「儂も亡き父からそう教わったものよ。これもあの御方のお力があってこそだが」


 懐かしげに副官と言葉を交わすアドリアン侯爵であったが前線の方がふと騒がしくなったのを感じた。


「何事だ」

「…どうやら森人族が出てきたようですな。左のチラーフ子爵のあたりです」

「さっさと押し潰させよ。いかに弓の名手揃いと名高い森人族といえど数には勝てん」

「左様ですな」


 命令が飛んだ数分後、更なる知らせが届き始める。


「左翼チラーフ子爵、お討死! 敵は木々を飛び回っていて捉えられません!」

「左翼ダルワ男爵が敵の襲撃を受けて重傷を! ローチ伯爵が援軍を求めております」

「右翼にてエルフの小隊を確認しました」

「伝令! 左翼後方にてエルフの射手を確認! ヤナフェ子爵の隊が追っております!」

「続報! ヤナフェ子爵隊が敵の待ち伏せに合い壊滅!」

「一体なにをしておる!! 被害の知らせばかりではないか! 誰ぞ戦果の報告はないのか!」


 先程までの空気はどこへやら、椅子を蹴りあげて込み上げる憤怒をぶつけるアドリアン侯爵。

 そこに一人の伝令が走り込んできた。


「報告します! 中央のバオッキ従士長の隊が川へ辿り着き橋の上でエルフと交戦を開始しました!」

「おぉ! さすが我が従士長よ。敵の数はどうだ?」

「それが…一人です」

「…なに?」

「敵は一名のエルフのみです。そのエルフが従士長と互角以上に戦っております」

「我が国で五指に入る槍の達人であるバオッキがたった一人のエルフに押されてると申すのか!?」


 アドリアン侯爵家の人間が多くいる本陣に激震が走った。家中最強でありながら軍中随一の槍使いが押されている。それも弓と魔術しか取り柄のないエルフに。


「…馬を持て! 儂自ら確かめてくれる」

「はっ!」


 アドリアン侯爵が本陣から最前線に着いたのは数十分後のことだった。前線に近づくにつれて異様な雰囲気が漂っていた。実際、眼前の光景はそれなりに戦場経験のあるアドリアン侯爵からも言葉を失わせた。


「全員で一斉にかかれ!」

「敵は一人だぞ! 囲んで叩け!」


 橋の上に仁王立ちするのは見目麗しいエルフの戦士。金色の髪が揺れる度に兵が倒れ血が流れる。紅く染まった橋で舞うように剣を振るう姿は芸術的ですらあった。


「アドリアン様、申し訳ありません」

「バオッキ…! その腕はどうした」


 声を掛けてきたのは従士長バオッキ。左腕を失い残る片手に握る自慢の槍は半ばで折られている。


「あのエルフの美女に。とんでもない化け物ですよあれは」

「…お前ほどの者が負けたと申すか」

「はい。騙し討ちや不意打ちも一切なく。正々堂々斬り合って負けました。しかもあのエルフ、途中で槍が折れた俺を見逃してくれたんですよ。槍が折れてなければ今頃そこに転がってる死体の一つになっていたでしょうね」


 周辺には百を超える兵の屍。橋の上が死体で埋まっていないのは時節風魔獣で吹き飛ばしているからのようだ。


「この半刻の間、一度も休まずにあれですよ。剣筋が鈍るどころか鋭くなってる」

「たった一人に何たる様だ…」

「仕方ないですよ。あれは音に聞く『剣聖』に匹敵する化け物ですから」

「…あのような規格外の相手はフルール様にお任せするしかない。我らに下された命令はエルフの里の制圧だ。あれ以外に橋をかけるぞ」

「そう言われると思って何度か試みたんですが対岸から矢の雨が。加えて右翼と左翼を飛び回るエルフの部隊が邪魔で取り掛かれませんでした」

「小癪な真似を。右翼と左翼に伝令を出せ。進軍を中止し、邪魔なエルフの部隊を探し出して駆除せよと」

「はっ! 直ちに」

「アドリアン様は本陣にお下がりを。俺はここであのエルフが移動しないように留めます。なるべく被害は抑える努力はしますが期待しないでください」

「頼む。その間に何とか奴らの里を落とす」

「お任せを。アドリアン様ご武運を」

「お前もだ、バオッキ」


 命令を受けて動き出した第二軍。

 彼らの判断は正しかった。しかし、その判断を下すように誘導されていたことには気づけない。

 全ては一人の森人族が描いた筋書き通りであった。


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