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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第四章 オルコリア動乱編
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作戦会議

 人間族、森人族エルフ人魚族マーメイドの三種族による対悪魔同盟。

 その成立を喜ぶ間もなく侵攻を受けた森人族たちの高まった士気は一瞬で下げられた。

 原因はサウシーセ大森林外周から放たれた一発の雷撃魔法。外周部から森の中心である森人族の里までの直線約三千メートルを文字通り消し飛ばした。間一髪のところで里への直撃は防げたが実際のところはリルの警告がなければそれすらも危うかった。

しかし、俺が咄嗟に結界を展開して守ることができたのは里の手前まで。その時偵察や哨戒に出ていた森人族五名は現在も行方不明。戦う前から同胞を失った森人族の士気は風前の灯火のようであった。


「軍議を始めよう」


 森人族全体指揮官であるマーゼルが声をかけるが指揮所の空気はとても重く浮かべる表情も暗い。


「叔父上、偵察情報の共有をお願いします」

「あぁ。敵の配置だが最初に発見した南の人族の軍二万の他に北西…あの魔法によって作られたから不死者アンデッドとオークの部隊合わせて三千が向かってきている。それと東から南東にかけてが少しきな臭い。偵察に向かった狩人が言うには哨戒が多く入り込めなかったそうだ」

「ありがとうございます。東も気になりますが目下、私たちが最優先で対処しなければならないのは南の二万の軍勢と北西の魔物三千。…中々厳しいな」

「それだけではなかろう。先の魔法を放った術者…恐らくは悪魔もいる。あの魔法が再び撃たれれば我らは…」

「それについてはご心配なく。先ほど里を覆う防御結界を張りました。あれと同じ威力ならそれで防げます」


 怯えた森人族へ俺がそう説明すると室内の少なくない者たちが脱力した。

 そう、一番の脅威はやはり悪魔。あれほどの魔法を何度も撃ち込まれれば流石に厳しいがリル曰く、雷撃魔法は消費魔力が大きいから乱発はそうないとのこと。とはいえ対策はすべきだということでかなり強固な結界を張った。


「部隊の配置を決めよう。といっても手駒は少ないが」


 マーゼルは里を中心にした一帯の地形図に弓や杖を持った駒を広げた。

 サウシーセ大森林はその名の通り大陸でも有数の森林地帯。木々の隙間も狭く不均等で大軍での部隊展開は難しい立地だが唯一里の南側だけは巨大樹が多く間隔も広く開いていることもあり軍の展開が比較的に可能にみえる。また里の東側と南側の少し離れたところには俺が訪れる際に人魚族に送ってもらったデラン川の支流がある。流域面積は十メートルほどだが相当に深い。人があの川を渡るには橋を用いるしかないだろう。


「幸い敵が迫る南と伏兵の疑いがある東には川がある。橋は落とさずにここを中央として防衛線とするつもりだが何か意見はあるか?」

「マーゼル殿よろしいか?」

「どうぞ副狩人長」

「川を防衛線とするのは良いと思う。対岸から矢を射かけ、魔術を放てば相応の被害を与えられる。だが橋を落とさないというのは何故だ?」

「橋を落としてしまえば敵は別の場所に橋をかけるでしょう。なるべくその動きをさせたくない。目の前に守りが手薄に見える丈夫で通れる橋があればそこに目と足が向かうのは生物の心理ですから」

「…今手薄にすると言われたか?」

「はい。橋に部隊は置きません」

「いや、しかし…。防衛線なのでは…」


 皆が頭に疑問を浮かべる中、俺の頭の中ではこの場面がどこか記憶に触れてくる。しばらく捻っていると不意に一人の森人族と目が合った。そして思い出した。


「なるほど。長坂橋か!」

「…チョウハンキョウ?」


 思い至った本の代名詞を口にすると今度はマーゼルが不思議そうな顔をした。


 長坂橋の戦い。

 これは文化と芸術の国と呼ばれたヨルキド出身の天才作家フィヨルド・クラマの作品の一つである三国みつくに物語にて描かれた戦いである。

 大軍で迫る覇の王から己を慕う民数万人と僅かな兵と共に撤退戦をおこなう仁の王。

 追いつかれるのも時間の問題という場面で敬愛する仁の王と民たちを逃がすために義弟が立ち上がる。仁の王を先へ進ませた義弟は長坂橋という大きな橋の上でたった一人、十万の大軍を前に矛を振るい大いに敵を討ちその進軍を遅らせた。

 去り際に義弟が放った台詞「燕人張飛これにあり」は多くの読書家の心を鷲掴みにした。


 俺が説明するとマーゼルは興味深そうに何度も頷いていた。


「同じような考えをする者はいるものだな。この戦いが終わったら読んでみたいものだ」

「うちにも城の図書館にもあるから送るよ。是非読んでくれ」

「ああ。っと話が逸れたが今ルクスが語ったものと大枠は同じだ。南の風虎橋は一人の強者に塞いでもらう」


 マーゼルの視線がその強者へと向けられる。

 皆が視線を辿ると獰猛に笑う一人の森人族が。


「任せてもいいか。ファエリナ」

「委細承知した。私がそのチョウヒとやらになってみせよう」

「あぁ。我ら森人族最強の剣士であり気心知れたお前にしか頼めない。危険な役回りだが…望むところだろ?」

「当然だ。最近のマーゼルは過保護で困っていたがこんなにも滾る大役をくれたことに免じて許そう」

「…大切な幼なじみを心配するのは普通だと思うんだがな」

「何か言ったか?」

「何でもない。風虎橋は任せる」

「万事任せろ」


 ファエリナさんは心底嬉しそうに笑っていた。その気配は感じていたがかなりの戦闘狂だったようだ。


「とはいえ新たに橋をかけるくらいは敵もしてくると思う。南側には狩人を主軸にした弓兵部隊を置く。運用は叔父上に任せる」

「それが良いだろうね。残りはマーゼルたちが鍛えた自警団とフェネラの魔術師部隊、そして私直属の魔術師たちか。これを北西の守りに当てるのかい?」

「あえ、フェネラの魔術師部隊は予備戦力とし、父上の直属はそのまま指揮所の防衛戦力にします」

「なぁマーゼル。全体指揮官として指揮所にいるつもりだよな?」


 嫌な予感がするので聞いてみればマーゼルは実に良い笑顔を浮かべた。


「私は自警団を率いて南の敵軍を掻き回すよ」

「…だと思った」


 まだ短い付き合いではあるがマーゼルは生粋の主人公タイプ。自分が後ろでじっと指示するだけなど耐えられないのだろう。

 言い方は悪いが最前線で首を突っ込まなければ気が済まないのだ。全体指揮官が最前線、それも敵中など愚の骨頂だが実際撹乱の役目は必要だ。

敵は大軍でこちらは少数。しかし地の利だけはある。


「私たちにとって南の森は庭だ。どこが死角になりどの枝から飛べばどの枝までいけるか全てわかっている。数十年この森で鍛錬し遊び続けてきたのだから。なので開戦したら全体指揮は父上に託します。よろしいですか?」

「まったく…。本当なら却下するところだけど初めての息子のわがままだ。引き受けよう」


 アービル、意外と子に甘いようだ。微笑ましいと思う一方で脳裏に父上の顔が浮かんだ。多忙になればなるほどご飯を抜くから痩せてないか心配だ。


「さて、残されたのは一番の難所である北西だが…ここはルクス一人に任せようと思う」

「若さすがにそれは…!」

「ああ。任された」


数人の森人族が戸惑うように声を上げたが先んじて承諾する。現在の戦力で勝つにはこれが最善の配置だから。


「先の砲撃から北西は最も悪魔がいる可能性が高い。ならば我々は手持ちの一番の戦力をあてるしかない」

「それは…そうですが」

「一人で数千の魔獣までも相手にするのは流石の愛し子様でも…」

「…悪魔がいるのならば我々はルクスの足手まといにしかならない。邪魔にしかならないんだ。…言わせないでくれ」


 悔しそうなマーゼルを前に異議を唱えかけた森人族たちは目を伏せた。彼らには悪いが実際邪魔にしかならないだろう。戦闘中に彼らを狙われれば守らざるを得ないし弱点になり得てしまうからな。


「確かに悪魔は強力無比な力を持っている。だが我らには精霊の愛し子であるルクスと水の精霊王様がついている。…森人族の故郷を守る戦いでルクスが最も厳しい戦場を受け持つのだから他の者たちに敗北は許されない。各々配置につけ! 我ら森人族の智勇で勝利を掴むのだッ!!」

「「「おぉ!!!」」」


 沈んだ空気を吹き飛ばし指揮所から意気揚々と出ていく森人族を見送りながらマーゼルとアービルさんを呼び止める。想定よりも早い侵攻のせいで間に合うか定かではないが一応ということで一つ情報を伝えた。あとは彼女らがどうにかしてくれることを祈るのみ。


「いこうリル」

「今度こそ初陣。少し燃えてきた」

「…水の精霊も燃えるんだな」


 場違いな一言と共に俺たちは指揮所をあとにした。

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