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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第四章 オルコリア動乱編
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雷撃迸りて

 偵察に向かっていた狩人たちが帰ってき始めたのは半刻後のことだった。


 この間に俺はフェネラと探知魔術を展開して里の近隣に討ち漏らした魔獣がいないかを入念に確認していた。

 結果、数匹の魔獣が潜伏していたがそれはファエリナさんたちが無事討伐した。


 余談だがフェネラへのさん付けがなくなったのは本人から熱望されたからである。何やら主神だなんだと言われたがとりあえず聞かなかったことにした。


 今俺やフェネラ、マーゼルたちがいるのは里の集会所。

 現在は指揮所にあり方を変えており物資の量に関する報告や戦力の計上、偵察情報などを含めた全てがここに集まってくるようになっている。


「マーゼル。偵察はどのくらい帰ってきた?」

「近隣の部隊は全てだ。あとは外周部に出した四部隊だがまだかかるだろうな。冬でなければ半刻で辿り着くが雪がある今は早駆けもできない。待つしかない」

「そうか。それにしても惑わしの結界が探知の魔術まで惑わすとは思わなかった」

「ほんとの邪魔。結界解いたらだめ?」

「だめに決まってるだろ…」


 俺がそう言うと傍らで偉大なる水の精霊王様は不満そうな表情を浮かべた。遥か昔に築かれた惑わしの結界はなんと探知系の魔術すらも妨害するのだ。

 森の中心である森人族の里周辺は何とかなるのだが外周部に近づけば近づくほどに魔力消費と抵抗が強まった。恐らくは古代から膨大すぎる魔力を放出しすぎたことが魔力抵抗を高めた原因だろうが今はそれが煩わしい。その抵抗力は俺とリルの二人がかりでも正確に様子を伺えないほどである。


「偵察が戻るまではと言ったが私はルクスの予想は正しいと思って動いていいと思う」

「先の魔獣たちが先鋒でこのあと本命がやってくる、ということかな?」

「はい父上。そう考えればこれまでの敵の行動にも説明がつきます」

「ふむ。聞かせてみなさい」

「叔父上が隠していた魔獣の単独出現の数々。これは我らの里の正確な位置を探るための斥候で先の魔獣襲撃は里の位置を割り出した敵が我らの力量を測るために送り込んだ様子見ということです」

「私も同じように思っていたよ。成長したねマーゼル」

「その言葉は悪魔を打倒したあとに」

「それもそうだね」


 親子の会話に耳を傾けていると外から誰かの走る音が聞こえた。走り込んできたのは以外にも狩人長のナービルだった。


「何事だナービル」

「はぁ、はぁ。水を」


 入口付近にいたエルフから水を受け取り勢いよく飲み干したナービルは息を整えるより先に声を発した。


「南に、人族の大軍を、複数確認した。その、数、合わせて一万から二万」

「二万…? もしやお前自ら偵察に向かっていたのか」

「当然ですよ兄上。初めから報告していればもっと早くに奴らの動きに気づけたかもしれない。…誇りばかり高く役立てないなんて俺は耐えられない」

「………」


 悔恨の滲む彼の言葉はとても重かった。

 何かを言いかけたアービルだったが結局目を瞑り何も言わなかった。


「叔父上、偵察の任ありがとうございます。おおよその距離はわかりますか?」

「…二ッ岩より奥、銀杏林の手前あたりだ」

「早く見積もって二刻半ってところですか。それが本軍と見て間違いないですね」

「どうするアービル。私が何人か率いて挨拶してくるか?」

「いや、まだ敵の詳細も見えていないから無しだ。人族だけならいいが悪魔がいる可能性もある。…もっと情報が欲しいな。叔父上、追加で狩人を何班か南へ出して軍容を調べさせて下さい。その際、決して戦わぬように厳命を」

「すぐに取り掛かる」

「ファエリナは全部隊を連れて南の橋前まで…」

「ルクス! 結界! 北西!」

「…っ! ああ!」


 逼迫したリルの警告を聞くが早いか俺は里の北西側へ結界を構築する。

 魔力探知がそれを捉えるとほぼ同時に轟音が響き大地が揺れた。体勢を崩したフェネラを支えながら俺は何が起きたかを瞬時に把握した。


「今のは音と衝撃は一体…」

「リル今の」

「うん。魔術じゃない、雷撃魔法だった」

「そんな…! 私の探知には何の反応も…」

「近くにはいない。つまり索敵外からの砲撃。それも魔法の領域に達した超長距離砲撃。しかも、雷撃なんて高度なことができる人間はいない」

「つまり…」

「悪魔だ」


 俺が断言したところに先程見送ったはずのナービルが戻ってきた。その表情はひどく青白い。


「…一度外に出てきてくれ」


 彼は絞り出すように呟き外へと戻って行った。

その尋常ならざる様子から指揮所の面々は外へ向かった。


「なんだこれは…」

「…現実か?」

「なんという…」


 アービル、マーゼル、ファエリナは呟き、他は一様に言葉を失った。確かに合ったはずの森林が一直線に消えていた。直径百メートルほどの範囲が焼け野原になっていたのだ。焦げた匂いが鼻につく。


「…ルクス教えてくれ。悪魔とは皆これほどの力を持っているのか」

「そんなことはない…とは言いきれない」

「これが我らの戦う相手か。少々甘く見ていたようだ」


 この一撃は盛り上がった森人族の士気と熱気に冷水をかけるには十分すぎるものだった。



◆◆◆◆◆



「へぇ、一射で終わらすつもりだったけど防がれたみたい。森の引きこもり共も少しはやるじゃん」


 サウシーセ大森林外周部には黒衣に身を包んだ一人の少女が立っていた。今しがた彼女が放ったのは得意魔法である雷撃魔法。

 それもとびきり射程が長く威力のあるものを撃ち込んだ。消し飛ぶはずだった塵芥の命の灯火がまだ揺らめいていることに少女は破顔する。


「思ったより楽しい時間になるかも」


 嬉しそうに、そして邪悪に嗤った少女は後ろを振り向く。そこには指揮官である彼女の号令を待つものたちの姿がある。


「それじゃあ、いってらっしゃい。私が道を作ってあげたんだからちゃんと根絶やしにしてきなさい」

「はっ」


 彼女の眷属であり副官の男が静かに手を振ると一斉に更地となった大地を進み始めた。

 かつてこの地に生きる人間だった不死者アンデッド二千。

その後ろからはオーク兵一千が続く。


「さぁ。苦痛に歪めた貴方たち森人族エルフの麗しい顔を見せてちょうだい」

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