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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第四章 オルコリア動乱編
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恩知らずの一族の選択

 魔獣との戦いから戻った俺はマーゼルたちを伴って里長の元へ向かった。

 未だ喧騒の中にある里を歩いているとファエリナが不意にくすりと笑った。


「何か?」

「狩人たちの視線があまりにも露骨でな。今更ルクス殿を恐れているのが何とも面白くて」

「精霊王様と契約しているという時点でその力は疑いようもないというのに」

「同胞とはいえ愚かに見えますね。主神ルクス様のお力を理解できていなかったとは」

「君たち結構辛辣だね」


 ファエリナさん、マーゼル、フェネラさんの順で森人族への気持ちを聞いたが相当尖っていた。

 …なんかフェネラさんの俺の呼び方や見る目が昨日までと変わった気がするがきっと気のせいだろう。

 中央の広場に着くと里長であるアービルが杖を片手に両の手を広げて迎えた。


「これは愛し子殿。この度は我らが里の危機をお救いいただき感謝いたします」

「私が勝手に動いたことですのでお気になさらず。それよりもアービル殿、森へ腕の良い斥候を放ってください」

「…まだ終わっていない。そういうことですかな」

「ええ。先の魔獣たちは偵察に過ぎない。私の予想通りならこのあと本軍が来ます」

「ふむ。ナービルはいるか!」

「こちらに」

「動ける狩人たちを森の外周まで偵察に出すのだ。何か異常を見つけた班は陽光玉を打ち上げて戻るよう徹底させよ」

「ただちに!」

「それとお前は残れ。二、三聞かねばならぬことがある」

「…承知」


 狩人たちが各地へ散っていったあとアービルによる審問がおこなわれた。

 どうやら狩人長であるナービルは森の異常と魔獣が里の近くまで入り込んでいたことを黙っていたようだ。

 恐らくそこには同盟派を助長させたくないという思いがあったのだろうがそれは言い訳にならない。

 守るべき里を危険に晒した罪は重い。


「…愚かなことを。厳罰に処すが今ではない」


 険しい表情をしたアービルは里に残る全ての森人族を中央広場へ集めた。


「皆、聞いて欲しい。本来であれば明日の朝、我ら森人族が人族や人魚族と盟を結ぶかの決を採るはずであった。しかし、先の魔獣の襲来が偶然ではなかったという懸念がある」


 ざわざわと周りの同胞と不安を共有する森人族へアービルはなおも語りかける。

 ふと横を見ればその様子を真剣に見るマーゼルの姿がある。


「先の魔獣騒ぎで狩人として参加した者たちは実際に目にしたと思うがここにおられる精霊の愛し子たるルクス殿はたったお一人で三方向から押し寄せた千を超える魔獣を全て駆逐された。愛し子殿がいなければ我らの被害は相当なものとなっていただろう。愛し子殿が訪れたその日、狩人長であるナービルはこう言った。『悪魔に敵わないから我ら森人族に助けを求めているのではないか』と」


 アービルがドンッと杖の底で地面を突くと突風が吹き抜けた。

 その表情は普段の穏やかで落ち着いたものではなく激情に満ちたものであった。


「実際はどうか! 確かに我らは一度悪魔を退けた。だがそれは偉大なる祖先が施した惑わしの結界があったからだ。我らは矢の一本も射かけていない。ここでナービルが秘匿していた情報を皆にも伝えよう。今日まで魔獣は何度も結界を抜けていてその都度狩人たちが討伐していた。つまり何度も何度も我らが里に迫っていたのだ。まるで我らの里の場所を暴くように。惑わしの結界に頼る我ら森人族は今日敗北したのだ! 本来であれば魔獣の荒波に飲み込まれるはずだった我らを救ったのは愛し子殿だ。言わば森人族の恩人、そして恩を受けたなら必ず返すのが森人族の流儀。もしこのまま恩に報いぬままならば我らは実力もなく誇りばかり高く持った恩知らずの一族だ。私はそうありたくない、皆はどうか!」

「当然看過できませぬ!」

「愛し子様はもちろん我らが神にも顔向けできなません!」

「このままで良い訳がない!」

「俺は魔獣に噛み付かれる寸前で愛し子様に救われた! この恩を返したい!」

「俺もだ!」「私も!!」


 口々に叫ぶ森人族たち。

 それを見て頷いてみせたアービルはもう一度杖で地面を叩く。

 今度は風は起きなかった。


「これより我ら森人族はルクス殿と盟を結び悪魔と戦う! この決定は里長である私が掟を破りただ一人で決めたこと。此度の戦いが終わったのち、私は責を負って次期里長であるマーゼルに里長兼族長として座を譲ろう。皆準備せよ! 故郷を守るため、家族を守るため、そして恩人に恩を返すために!」

「「「おぉぉ!!!!」」」


 歓声が爆発した。

 森人族たちは積もる雪すらを溶かす勢いで燃えていた。

 そこに誰一人不満の表情を浮かべる者はいない。

 若き森人族は熱狂的に声を上げ、歴戦の狩人たちもそれに続く。

 長老と呼ばれる最年長の魔術師たちは不敵な笑みを浮かべている。

 いつの間にか俺の元までやってきたアービルは静かに一礼した。


「このような次第となりました。我らサウシーセの森の森人族エルフ三百四十四名は人族と人魚族との同盟をお受けします。つきましてはルクス殿に我らの指揮をお任せしたく」

「同盟の件は了解した。だが俺よりも指揮官に相応しい者がいる」


 俺がその男を見れば彼は一瞬目を見開いたがすぐに笑ってみせた。

 俺よりも森人族を理解していて指揮官として優秀な能力を持ち合わせた友が。


「やれるか? マーゼル」

「もちろんだ。我が友の信頼に応えてみせる」

「あぁ、頼んだ」


 差し出した拳をマーゼルの拳が打つ。

その様子をアービルが眩しそうに見ていた。


「…マーゼル、その友誼を大事にするんだよ。それは命のようにかけがえのないものだから」

「はい。父上」

「さて、我らが指揮官殿。今後の動きはどうしますかな?」

「まずは外周部の偵察に向かった狩人たちの報告次第だ。父上、その間に残存戦力について教えてください」

「わかった」

「ルクスはフェネラと合流して一緒に他に里の付近に忍び寄る存在がないか探知とその対処を頼む」

「任せろ」

「ファエリナは自警団を使って哨戒を頼む。魔術的な探知を無効化する存在がいるかもしれない。ただし、悪魔と接敵したら即時撤退するんだ」

「あぁ。さすがの私もそこまで驕っていないさ」

「一応さ。それでは各々頼んだよ」


 一斉に動き出した森人族の里。

 戦える者は己の獲物を手に取り、そうでないものたちは戦いに必要となる物資をかき集める。

 誰一人として反抗的な態度を示さずに自分のやれることをおこなっている。


「私たちはこのように熱くなれたのだね」


 父から漏れ出た言葉に息子はふっと笑った。


「なにせ我々は誇り高き森人族エルフですから」

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