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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第四章 オルコリア動乱編
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サウシーセ大森林へ

あけましておめでとうございます!

今年もゆるりと創作に励みますのでよろしくお願いします!

 案内役の人魚族の背中に乗り地下水道を進むこと数日。

 急な水流登りを繰り返し、目を回しているといつの間にか水面から陽光差し込んでいた。

 水面へとゆっくりと浮上する。


「着きました。ここがサウシーセ大森林です」

「ありがとう。…眩しいな」


 数日間の移動で俺を背中に乗せ続けてくれた優しい人魚族に礼を言って辺りを見回す。

 まず目に入ったのは陽の光。

 自然と目を細めてしまう。

 数日ぶりに浴びる暖かな輝きは心に平穏を宿してくれる。

 周りはどこにでもあるような鬱蒼とした森に見えるが総じて木々の背が高い。

 恐らく二十メートル以上はあるだろう。

 一本一本にそれなりの年月を感じる。


 だが不思議と木と木の距離はとても狭い。

 普通なら栄養が行き届かなくなりそうだが何故かその兆しはなくむしろ青々と生い茂っている。

 それに迷いの森と聞いていたがそれらしい感覚には今のところ襲われていない。


「ここは森人族エルフの里のすぐそばなので結界の効果は及んでいません」

「…そんなに分かりやすかったか?」

「いえ、初めてここに来る同胞も同じことを聞くので」

「なるほど」


 聞けば案内役の人魚族は十数年このサウシーセ大森林付近の情報収集を担当しているという。

 頻繁に枝分かれする複雑怪奇な地下水道を迷いなく進む様子にもが合点がいった。


「そこに見える道を北にまっすぐ進めばエルフの里に着きます。私はここよりお供できませんがお帰りをお待ちしてます。どうかお気をつけて」

「ありがとう。行ってくる」


 案内役の人魚族に礼を言って歩き出す。

 少し歩いたところで霊体化していたリルさんが話しかけてきた。


『ルクス』

「ああ。囲まれてるな」


 見渡しても姿は見えないが囲む相手は十人近い。

 しばらく様子を伺っていると四方から矢が飛んできた。

 おいおい、いきなりだな。

 風魔術で払い落とそうとした俺よりも先にリルさんが動いた。

 じんわりと染み出すように現れた水球が全ての矢を包み込みその勢いを殺す。


『敵ってことでいいの?』

「いや待ってくれ。…俺は人魚族の使いで来た者だ! 森人族エルフの方々と話がしたい!」


 人魚族と口にした時だけ僅かに空気が揺らいだような気がした。

 しかし、それも一瞬のことですぐに敵意が向けられた。

 再び矢が放たれ、今度は風魔術までもが迫る。

 仕方ない。手荒な真似はしないつもりだったがこちらも時間が無い。


「リル」

「ん、やっとさん付けをやめてくれた。私は嬉しい」

「……リルさ…」

「わかった。ちゃんとする」


 呼びかけに応じて姿を現したリルさん改め、リル。

 一応精霊を喚ぶ際に敬称をつけることはできるがいい機会だと思って呼んでみた。

 仮契約とはいえこれから力を借りる相手だしアウリーたちとのように信頼関係を築きたい。


 リルはわざとらしく強烈な魔力波を伴って顕現した。

 その効果は絶大だった。

 ……悪い意味で。


「何をほざくかと思えば話があるだと? どうせ騙すのであればもっとマシな嘘を吐くべきだったな! その出鱈目な魔力量が悪魔であることの何よりの証だ!」


 どこからか聞こえてきた怒号を合図に再び魔術と矢が飛んできた。

 リルなりの演出だったが逆効果になったようだ。

 応戦したいところだが今後の関係のことを考えるとそうもいかない。

 さて、どうしたところか。

 ふとリルの顔を見るとその無表情の顔が僅かに険しくなっていた。


「リル?」

「あいつ、私のことを悪魔って言った。攻撃もしてきた。許せない」

「リルさん!?」


 空中から湧き上がる雫が球体になり、合わさり水流となり、やがて渦を巻き始める。

 矢も魔術も全てが水に触れた途端に飲み込まれた。


「お返し」


 空を流れる川が荒ぶり、飲み込んでいた矢と魔術を全て周辺へと吐き出した。

 自分たちが放った攻撃全てがそのまま帰ってきたのだから森人族エルフたちも相当に衝撃を受けたようだ。

 数人の森人族エルフが回避動作のためか姿を現した。


 見目麗しいと聞いていたが本当に男女共に整った顔立ちをしているな。

 向けてくる視線は親の仇を見るような鋭さだが。


「我らの攻撃を防ぎ魔術の主導権をも掌握し己がものとするなどどれだけ我らを愚弄する…!」

「ん、あんなへっぽこ魔術、当たってもなんともない」

「……っ! 貴様ッ」


 今にも再び襲ってきそうな形相だがそれをしないのは回避で散った仲間が周囲に再展開するのを待ってるからだろう。


「リル、落ち着け」

「私は落ち着いてる。冷静。だからさっきの仕返しも誰にも当ててない」

「それは分かってる。でもやりすぎだ」

「じゃあどうするの?」

「あと少し時間を稼ぐ。それだけでいいと思う」


 風を利用した探知魔術の展開で周辺の地形と囲んでいるエルフの位置は掴めた。

 そして状況を打開してくれそうな存在は既にこちらへ向かっている。


「わかった。じゃあこうする」


 俺とリルを中心に水の半球が展開された。

 取り囲むエルフが再び魔術と矢を射掛けてくるがやはり水に絡め取られて勢いを失っていく。

 しばらく籠城していると木々の合間を駆け抜けて一人の森人族が転がり込んできた。


「攻撃止めっ!!!!」

「何故止める? 既に結界を越えられているのだ。里も目前、今ここで討たずしてどうする! 次なる長たるお前と言えど悪魔を庇うのなら…」

「違う! これは父さ……里長の命令だ! この御方たちは悪魔なんかじゃない」


 荒い息でそう叫んだ青年は他の森人族と比べて少し若いように感じる

 ようやく話が通じそうなのが来てくれた。

 探知魔術でここに走っている三人組を見つけたのでもしかしたらと思ったが間違ってなかったようだ。

 遅れて双子らしき二人の女性森人族が駆け込んできてようやく周囲を囲んでいた森人族たちも姿を現した。

 リルが水幕を解くと青年と双子の姉妹らしき森人族が俺たちへ片膝を地面について右手の握りこぶしを左肩へとあてた。


「お二人への多大なるご無礼大変申し訳ありませんでした。この者たちは御身に気づくことができなかったとはいえ矢を向け魔術を放つなど到底許されることではありません。この罪、必ず償わせますので同胞の命だけはご容赦いただけませんか」

「俺たちに元々そのつもりは無い。ただ、この子のことを悪魔呼ばわりはさすがにいただけないな」

「……返す言葉もありません。本当に申し訳ありません」

「別にいい。少しイラッとしたけど私はルクス以外に興味無い。それに攻撃も貧弱すぎて気にならなかった」


 …なんか言い方が陰湿だ。

 実は結構頭にきてたなこれ。


「貴様ッ…! どれだけ我らをコケにする!」

「やめろ! この御方からすれば誰もが子供も同然だ」

「だとすればこの二人は一体誰だと言うのだっ!」

「そうだ、我らを愚弄するのが許されるような者なのか!」


 口々に不満を訴える森人族たちを前に青年は静かに告げた。


「そちらの人族は隣国の皇子殿だ」

「それがなんだと……」

「そして、我らが崇める風の精霊王様の契約者。そうですね?」


 一斉に俺へ視線が向いた。

 襲ってきた全員の瞳が驚愕に染っている。

 森人族の青年が何故そこまでわかったのかは分からないがここは開示するのが一番だろう。


「ああ。俺は風の精霊王と契約を結んでる。故あって今ここにはいないがな」

「そんなバカな…! 風の精霊王様と契約できる人族などいるわけが……」

「それだけではない。里長の言うことが本当であればそこにおられるのは人魚族が崇める水神、水の精霊王様だ」


 これでもかと目を見開いていた美男美女の森人族たちが呆然と立ち尽くしている。

 その顔色は憤怒から一変している。

 話を聞かずに襲ってきたのだ、少しくらい俺もやり返してやるか。

 リルに目配せをしてみると少しだけ口角を上げてくれた。


「私はリル。水の精霊王でありルクスの契約精霊」

「俺も改めて名乗らせてもらおう。俺はアルニア皇国第三皇子のルクス・イブ・アイングワット。風の精霊王アウリーと先代の光の精霊王プラール、それと隣の水の精霊王リルと契約を結んでいる。よろしく」


 先程まで襲ってきていた森人族たちが蒼白になりながら一斉に膝を折り頭を下げた。

 下に見ているという人族に対して平伏するなどプライドが高い森人族を思えば信じられない光景だ。

 それほど自分たちが崇める精霊という種族への敵対は彼らにとって一種の禁忌のようなものなのだろう。


 リルはその光景を眺めながら因果応報だといわんばかりに満足気で頷いていた。

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