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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第四章 オルコリア動乱編
107/116

人魚族と今後について

年内最終更新滑り込みで間に合わせました。

本年から始まった『読書家皇子は精霊に愛される』をご覧頂きありがとうございました。

来年もゆるりと続けていきますのでよろしくお願いします!

 場所を移して集会所。

 ここは人魚族の長が代々住まう地であり行政を司る場所。人間で言うところの領主館。

 その一室に集められたのは今後の動きを話し合う上で欠かせない面々。


 人魚族の長サノフェア、長老パノフェア。

 水神様の言葉を聞く巫女マルフェア。

 人魚の里を守る半魚人マーマンの衛兵長デルフェン。

 そして俺と水神様こと水の精霊王リル。


「そろそろ始めるけどみんな御手洗とか大丈夫? 長くなると思うから行くなら今のうちに…」

「いいから始めな。…はぁ、そうやってすぐに脱線させるからあたしがいつまでも隠居できないんだよ」


 呆れよりも諦めの感情を滲ませたパノフェアさん。

 相当苦労しているのかしきりに眉間を揉みほぐしている。

 てっきり頼られると放っておけない人柄なのかと思っていたが、どうやら頼りないから放っておけないだったようだ。


「はーい。それじゃあ今度こそ始めるわね。私たち『希望の水魚団』がどう行動するかを…」

「待ちな。なんだいその希望のなんたらって言うのは」

「私たちの呼びやすい呼称は必要だと思って」

「それは否定しないけどそのよく分からない名前はやめてもう少しマシな名前にしな」

「えぇ? でもこの名前を考えたのは水神様ですよ?」

「ん。『希望の水魚団』。かっこいいでしょう」

「……はぁ」


 あ、パノフェアさんが諦めた。

 いよいよ収拾がつかなくなってきたな。

 お前が何とかしろの視線を感じる。

 仕方ない。


「名前はあとで決めよう。今は話さなきゃいけないことはいっぱいある。そうですよね、サノフェアさん」

「そうだったわ。デルはさっき帰ったばかりだから改めて現状を最新の情報と共に整理するわね。まず私たちサファルフェアの人魚族と人族のアルニア皇国は対等の契約を結んだわ。内容は私たちの安住地を用意して貰う代わりに愛し子くんの帰国に協力するというもの。契約に従ってこれから私たちは愛し子くんと一緒に悪魔たちと戦うことになる。デル、ここまで大丈夫?」

「えぇ。続けてちょうだい」


 …え?

 思わず耳と目を疑った。

 返事をしたのは筋骨隆々とした巨漢の魚人族である。

 腕を組み寡黙に座す姿は武人のそれであったが今の一言で印象が崩れ去った。

 今女性の口調だったよな…?

 思考が停止した俺に気づくことなくサノフェアさんは話を続ける。


「今までは水神様の結界に頼って引きこもっていたけれど、これからは私たちも積極的に悪魔たちに攻撃を仕掛けるわ。でも、今じゃない。今まで自分たちの領域に引きこもってた私たちが突然動き出せば人族とエルフに向いてる悪魔たちの目がまた私たちに向くことになる。これは避けたいの。だから私たちはここぞという場面までは暗躍に徹する。まずサファルフェアから他の里の同胞たちに決起の使者を送って戦力を集めようと思うわ」

「事は人魚族や魚人族だけの問題じゃない、今残る里は古株ばかりだから理解してる同胞は多いはずさね。そこに一押しがあれば確実に集まるよ」

「一押しというと?」

「おや、坊やが分からないとはね。お隣にいるじゃないか、人魚族と魚人族を確実に動かせるお方が」

「リルさんか」


 確かに立ち上がる機会を見計らっているのなら人魚族に水神として崇められるリルさんから一言があれば他の里も動いてくれるだろう。

 一筆書かずとも言葉を伝えるだけでもかなり効果があるだろう。


「よろしいですか水神様」

「ん。ルクスが今後私をさん付けで呼ばないなら好きにしていい」

「では問題ないですね。お名前お借りいたします」

「………」


 もはや俺に了承すら取られなくなった。

 ここまで扱いが雑なこともないから少し新鮮だな。


「続いて現在の情勢についてね。各地の河川と用水路に潜伏した同胞たちから最新の情報が届いたわ。まず人族…この呼び方だと紛らわしいわね。愛し子くん何か良い仮称はあるかしら?」

「そうだな…。悪魔と共に動く外征派の奴らを悪魔軍、悪魔の支配に抗う内建派を解放軍って呼ぶのはどうです?」

「分かりやすくていいわね、採用! それで解放軍側の情報だけど各地で抵抗を続けていた小さな勢力はほとんどが潰れたわ。兵も民も問わずの皆殺しで川は紅く染まっていたそうよ」


 小さな勢力というのは内建派の領主軍だろう。

 領主軍といっても外征派との決戦に向けて主な戦力は自領にいなかったはず。

 つまり、彼らは最低限の将兵で民を守ろうと抗い、勝ち目のない戦いに臨んだのだ。

 名も知らぬ将兵たちに敬意を称しつつ話の先を促す。


「ただ、西にあった港町の人族だけは不死者の軍を破って大きなお城まで撤退したそうよ。報告してくれた子が言うにはグリフォンに跨って空を駆る人間を含む見慣れない一軍が突然現れて民たちを守りながら戦っていたらしいわ」

「…そうか。上手く逃れてくれてたか」

「あら、心当たりがあるの?」

「西の港町がエバリオという地名なら恐らく現れた一軍は俺が古代魔術で転移させて逃がした皇国軍だと思う」


 室内の全員が息を呑んだ。

 リルさんも例外ではない。

 驚愕と若干の畏怖が混ざった視線を浴びながら俺は続ける。


「カシアンたちが入った大きな城っていうのはオピエドのことだと思う。オピエドは音に聞こえた堅城、そこにカシアンたちが入ったならそう簡単には落とせない。といっても悪魔が出張ってくれば話は別だがな」

「一つ確認したい」

「なんです?」

「さっき古代魔術って言ってた。ルクスは一人で転移が使えるの?」

「使えます。座標の指定は甘いですけどね」

「…三千二百個以上の魔術式を並列演算できるってほんとに人間?」

「正真正銘ただの人間だよ。それアウリーにも言われたな」

「私、ルクスと敵じゃなくてよかった」


 精霊の王にも悪魔にも人外認定されるのは思うところがないでもないが貶されてはないのでよしとしよう。

 正確に言えばあの時の転移陣はダミーの転移もおこなっている。

 最適化していたとはいえ百近いダミーの転移ともなれば最適かしても数万規模の術式となる。それだけの数を動かしていたと言えばさらに人外扱いされそうなので伝えないでおこう。


「愛し子くんが化け物なのはよく分かったわ。でもその軍が本当に愛し子くんの配下ならオピエドってお城にいる人族とは敵国同士よね? 大丈夫かしら」

「確かにこの国、オルコリアはアルニア皇国の仮想敵国だがオピエドにいるのは俺たちと仲良くしたい派閥の人間たちだ。仮に敵派閥だとしてもこの状況で戦うのは下策中の下策。それにエバリオの民を保護しているなら尚更敵対はないはずだ」

「そればっかりはあたしらに判断することはできないね。指揮する人族が愚かでないと信じるしかないさね」

「敵同士だったけど強大な力を持つ敵に対抗するために手を組む。心が熱くなる展開ね!」

「デルフェン。静かにおし。全く…喋らなければいい男なのにつくづくもったいないね」

「いいのよ。私は男を捨ててからはか弱い乙女になったんだから」

「水竜と殴り合える乙女がいるもんかい。いい加減真面目になりな」


 閑話休題。

 癖しかないデルフェンさんとパノフェアさんのやり取りが落ち着くのを待ってからマルフェアが手を挙げた。


「お母様、いいですか?」

「何かしら?」

「エルフの情勢はどうなっているのでしょう」

「そうそう。そっちがちょっと困ったことになってるみたいなのよね」

「困ったこと?」


 頬に手を当てたサノフェアさんは一息ついてからその理由を語り始める。


「愛し子くんは森人族がとてもプライドの高い種族なのは知ってる?」

「一応知ってます。他種族を見下しているみたいな」

「そうなの。見目麗しい長命種ともなればそういう気持ちが強くなるのは仕方ないのかもしれないけど、今はそれがあだとなってるみたい」

「なるほどね。読めてきた。甘く見始めたんだねあの馬鹿者たちは」

「人族たちが悪魔相手に抗えているのなら自分たちも問題ない。なんて言い始めたみたいなのよね加えて…」


 サノフェアさんの視線が俺に向けられる。

 え、なんかしたか俺。


「時期の悪いことにどこかの人族国家が複数の悪魔相手に少数で勝利したなんて噂が彼らの耳に入っちゃったみたいで」

「…それ俺悪くないでしょうに」


しかもあれはその身に竜を宿すリゼルとアウリーという規格外がいてこその勝利。

いくら魔術が得意なエルフといえど魔法は使えないはず。

つまり彼らでは悪魔には勝てないのだ。


「ともかくエルフの里は今、迷いの森の結界を信じて籠城案を掲げる派閥と他種族と足並みを揃えて悪魔に対抗すべきという協力抗戦派閥に割れてるわ」

「面倒だね。正直あの偏屈爺たちがどうなろうと知ったこっちゃないがエルフの風魔術と弓の腕は惜しい。ただでさえ少数のあたしらは嫌でも仲間に引き入れなきゃならない。だが…」

「里が二つ割れてる状況じゃそうもいかない、か。確かに面倒だ」


 強大で数も多い悪魔軍と全員が戦う意志を持てなければ一部が足を引っ張ることもありえる。

 そうなればエルフだけでなく人魚族にも被害が出るかもしれない。

 仲間に引き入れるなら抗戦を誓わせなければ。


「そもそもエルフたちは里で籠城なんて可能なのか?」

「ルクスは知らないもんね。エルフの里の周辺はサウシーセ大森林っていう広大な森の中にあるの。大森林は通称迷いの森と呼ばれていてエルフによって張られた惑わしの結界が森への侵入者の方向感覚を失わせ、いつの間にか入口に戻してしまうから里に辿り着くのは困難っていうわけ」

「なるほど。ん…? ならなんで中の様子が分かるんだ? 結界がある限り中の様子を知るのは難しいんじゃないのか」

「単純な事だよ。あの結界は森の各地にある魔石を媒体に発動してる。だから地上には作用するけど魔石のない水中までに影響は及ばない。だからあたしら人魚族にとっては問題ないんだよ」


 パノフェアさんが説明してくれたおかげで腑に落ちた。

 そうか、常時発動型の結界なら皇都と一緒で広域結界の媒介となる魔石を各所に置かないといけないのか。

 水中や地下か、盲点だったな。

 無事に皇都に帰れたら今後の防衛のためにも皇国各地の結界範囲について確認しておいた方がいいかもしれない。


「既に悪魔軍は一度、惑わしの結界に阻まれて撤退しているから次は何かしらの対策を講じてくるはずよ。それにエルフが対応できればいいのだけど」

「いや、今のエルフたちにそんな力はないよ。過去の大戦で根絶やしにされたハイエルフなら分からなかったが、あの老いぼれ共は結界を過信しすぎてるからね」

「困ったわねぇ。私が行って結界を破壊すれば目が覚めるかしら」

「デルフェン」

「やぁね、冗談よ」


 時節脱線しながらもエルフについて話し合うが良い方案は出てこない。

 ああでもない、こうでもないと話すうちにふと考えついた。

 難しく考えず単純にすれば良いのでは?


「エルフにおける精霊の扱いってどんな感じだ?」

「あたしらと変わらないはずだよ。向こうは風の精霊王のことを信仰している……なるほどね」


 パノフェアさんは思案顔で頷いた。

 その口角は少し上がっている。

 気づいてくれたようだな。


「風の精霊王様と契約する坊やが風の精霊王様の言葉として周辺勢力との協力を促せばあの偏屈爺も対応が変わるかもね」

「ああ。例え変えれなくても風は吹く。協力抗戦派にとっては強い追い風がな」

「でもルクスは私たちにとって悪魔に対抗する唯一の切り札なのに矢面に出すの? 危険すぎない?」

「それが今の手札では最前さね。坊やがエルフの里で偏屈爺たちを説き伏せる間にあたしらは周辺の人魚族と魚人族を招集するよ。エルフの里は遠からず戦地になる。その前に戦力をかき集めるんだ」


 不安を滲ませるマルフェアへ頷いてみせると彼女は渋々引き下がった。

 それを見届けたサノフェアさんがパンと手を叩く。


「それじゃあ整理するわね。私たちの今後の方針は変わらず味方を増やすこと。まずはエルフを引き入れるために愛し子くんがエルフの里へ向かう。水神様もご同行されるという認識で大丈夫ですか?」

「ん、当然。ルクスが行くなら私も行く」

「かしこまりました。エルフの里へは愛し子くんと水神様が。私たちはここに残って周辺の人魚族と魚人族を集めて来たる戦いに備える、でいいかしら?」

「それが妥当だね。坊や、万が一エルフの里で危うい空気を感じたらすぐに逃げておいで。サウシーセ大森林内に流れる川の各地に里の者を付けておくから」

「ありがとうございます。おかげで安心して行けます」

「逃げなくて大丈夫。私がいる。もし敵意があれば…ボカン」

「頼もしいけどエルフが滅びそうだからやめてやってくれ」


 こころなしか鼻息を荒くして張り切るリルさんを宥めつつ今後の動きについて詳しく話し合った。

 いくつかの不測の事態も想定したがこればっかりは実際になってみないと分からない。

 不安が無いわけじゃないが全てを払拭している時間はないからここからは行き当たりばったりだ。


 俺とリルさんが準備を終えて案内役の人魚族たちと出発する直前、各地の偵察情報をまとめていたパノフェアさんがやってきた。


「坊やたちを追ってた人間の部隊がサウシーセ大森林に向かったよ。近く仕掛けるつもりかもしれない。気をつけるんだよ」

「任せてください。もしもの時は例の作戦でお願いします」

「ああ。時間がないが必ず間に合わせるから安心しな。エルフの説得、頼んだよ」

「はい。行ってきます」


 パノフェアさんと屈強な魚人族に見送られ俺とリルさんはエルフの里があるというサウシーセ大森林へ向かった。

実は2025年で完結予定でしたが間に合いませんでした^^;

来年は新しい作品の投稿も始めたいと思っていますがまずは『愛読皇子』の完結を優先させたいと思います。


それではあと数時間ではありますが良いお年を!

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