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読書家皇子は精霊に愛される  作者: 月山藍
第四章 オルコリア動乱編
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安らぎの声に導かれ

また空いてしまいました(^_^;)

リアルが大変多忙な時期でして…。

はい、言い訳ですね、すみません。


 ――全身が、痛い。


 ――――冷たい。



 身体中がこれでもかと痛みを訴えている。

 同時に感じるのは水面みなもを揺蕩う感覚。


 俺は、どうなったんだ。

 北方諸国の国境を目前にあの悪魔に大結界を張られて、可能な限りの兵たちを転移で逃がして、それで……。


 凍えるような暗闇の中でぼんやりと思考を回しては放棄し、再び考えては痛みに喘ぐ。

 そんなことを繰り返すこと幾千回。

 朦朧とした意識の中でふと身体が水の流れに逆らい始めたのを感じた。

 確かめようと重い瞼を持ち上げようとするが上手くいかない。


「大丈夫だから。絶対に助けるから動かないで」


 僅かに身動ぎしようとした俺に優しい声が届けられた。その声は苦しみと痛みを忘れさせてくれるような不思議な声だった。

 どうせ動けないしこのままでは死んでしまうのだ。

 いっそ全てを委ねてみよう。


 俺は再び意識を手放した。



◆◆◆



「あ、起きた」


 意識を取り戻した俺を出迎えたのは幼い女の子の声だった。

 身体を起こそうとするが鈍痛に苛まれて失敗した。


「動いちゃダメだよ。まだ完全に回復しきってないんだから」


 先ほどと同じ声が耳朶を打つ。

 声が聞こえた方向へゆっくりと顔を向けると水面から顔だけ出した翡翠色の短髪を揺らした少女と目が合った。

 同時に自分が水に囲まれた草地に干し草を敷き詰めた簡易的な寝床で寝かされているのがわかった。


「こ……けほっけほ」

「喉乾いてるよね。はい、お水」


 伸ばされた指先から魔術で生成された水が滴り落ちる。

 乾ききっていた喉に潤いが戻る。

 数回の咳払いを経てやっと喋れる程度にまで回復した。


「よくなった?」

「ああ。ありがとう」

「よかった。人族の看病なんて初めてのことだったからちゃんとできてるか分からなかったの」

「君が俺を助けてくれたんだよな?」

「うん。昨日この地下水道を泳いでたらあなたが流れてきたの。まさか本当に人族が真冬に泳いでるなんて思わなくてびっくりしちゃったわ」


 肩を竦める少女の話と状況から推理するに恐らく俺はあの魔法掃射の余波で砕けた地面から地下水道へ落下し、漂流しているところを彼女に救われたのだろう。


 真冬の地下水に長時間晒されても生き残れたのは行軍中の寒さを誤魔化すためにまとっていた耐寒結界のおかげのようだ。

 あったら便利だなで作った魔術が思わぬところで役に立った。

 自身の身体を見回してふと気になったことがある。

 あれだけの激戦と魔法掃射を受けたので当然衣服や軽鎧は布切れ同然に成り果てた。

 にも関わらず、俺の身体には傷の一つも見当たらないのだ。

 流される間も岩や壁にぶつかったはずなのにその痕跡すらない。

 疑問は尽きないが先に礼を言わねばならない。


「まずは助けてくれてありがとう。君に見つからなかったら俺の命は無かったと思う。君に最大級の感謝を」

「目の前に怪我をした海豚イルカがいたら助けるでしょ? それと同じ。今にも死にそうな傷だらけの人族がいたから助けちゃっただけ」

「その気まぐれに救われた身としては感謝せずにはいられないんだよ」


 こともなしげに語る少女は幼い外見とは裏腹にどこか達観しているように思える。


「気になってたんだがさっき俺が傷だらけだったって言ってたよな? しかも俺の服が随分ボロボロになってるのに今の俺の身体はかすり傷一つない。……もしや君は治癒魔術の使い手なのか?」

「あー、人族の常識で考えるならそうなるのね。残念だけど私に傷を癒す魔術は使えないよ」

「ならなんで……」


 そこまで言いかけたところでとある可能性が思い浮かんだ。

 記憶の片隅に残っていたかなり昔に読んだとある本の伝説が引っかかった。

 その伝説にはスオウのお狐様のように童話にも描かれるような存在が登場していた。

 スオウのお狐様が存在していたのだから同じく存在してもおかしくはない。


 見た目の割に大人な喋りと受けごたえ。

 真冬の水中から顔を出した状態で陸に上がろうとしないこと。

 そして不思議と安らぐ声音。


 一致はしている、聞いてみる価値はありそうだ。


「…もしかして君は人魚族マーメイドなのか?」

「わ、すごい。今の人族から私たちの種族を言い当てられるとは思わなかったわ」


 童顔の少女は水面を跳ねて俺が横になっている岩に座った。

 その下半身はやはり人のそれではなく魚のようなヒレになっていた。

 彼女が人魚族ならば色々と説明がつく。


「そういえば自己紹介がまだだったね。サファルフェアの巫女マルフェアよ。よろしくね、精霊の愛し子くん」


 差し出された彼女の手を握る。

 その手はとても暖かかった。

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