冒険者登録したら思いもよらない出会いが待っていました
茶髪黒目の子ども、アルマ・エクセレブノは、その眼を光り輝かせて冒険者ギルドに訪れていた。
冒険者ギルドは、依頼者から報奨金を預かり、受けた依頼をクエストボードに貼り出し、冒険者に仕事の斡旋をしている。冒険者は、貼り出された依頼の中から、自分の腕や能力を加味して依頼を受ける。依頼を達成したあかつきには報奨金の一部を手数料として差し引き、冒険者へ支払する。そんな場所だ。
冒険者は「G」から「S」までの実力と実績に応じて、ランク分けがされている。Gランクは駆け出し冒険者で、Sランクは英雄と呼ばれるほどの実績を残した冒険者に冠される。
しかし、重要なのはそんな仕組みではない。
Sランク冒険者は、それこそ物語に出てくる存在でカッコいいのだ。
アルマは、冒険者がドラゴンを討伐したり、迷宮で財宝を見つけたり、古代都市を見つけたりする物語を好んでいた。本が擦り切れるほどにページをめくった。決まって、何かを成す冒険者はSランク冒険者だ。それは、男の子があこがれる物語。
特にお気に入りの話は、物語の世界ではなく、数年前に実際にあったこと。この国のSランク冒険者のアディアーゾ・アナカリプシィが所属するパーティー名「自由な空」が、約50年ほど前に発明された魔法飛空船を駆り、空に浮かぶ天空都市の遺跡を発見した話だ。
無いと思われていた天空都市の発見は世間に衝撃をもたらした。かつて天空に浮かぶ都市が栄華を極めたことは伝承としては残っていたが、実際には眉唾物であった。しかし、伝承の天空都市と同一であるかは議論の余地があるとはいえ、アナカリプシィは発見した。
アルマも同じ冒険をしてみたいと思った。自由に空を飛び、強敵を打倒し、未知なる発見をする。そんな物語となる冒険を。
だから、願いを叶える第一歩として、アルマは冒険者登録ができる歳となった10歳の誕生日に木扉を開いたのだ。
冒険者ギルドの中は、人気は少なく落ち着いた雰囲気だった。今はお昼前、朝のクエスト受注合戦が終わり、先輩冒険者は出かけた後だ。
受付で並ぶ人もいない。そこへ、アルマは声をかける。
「すみません。冒険者登録できますか?」
「できますよ。登録には銅貨5枚とギルドカード作成のために魔力を少しもらいますがよろしいですか?」
「はい」
「そうしましたら、まずは登録料をお支払いいただいて、その後にこちらの登録用紙にご記入ください」
アルマは登録料を渡し、受付嬢が渡してきた登録用紙に記入していく。
「名前はアルマ・エクセレブノさん、年齢は10歳、魔法は下級魔法を使用可能で、武器は魔導銃ですね。記載内容に虚偽の内容があった場合は、ギルドカードが失効されますのでご注意くださいね」
アルマの家は街の雑貨屋であった。家の手伝いをして貰ったお小遣いを数年ため、買った魔導銃を自分の武器として登録するのは目標だった。
子供のうちに魔導銃を帰るお金を貯められる家など、貴族や裕福な家くらいのものであり、アルマは買う機会を与えてくれた両親に懐の広さに感謝していた。
受付嬢は、10歳で冒険者になる子供を心配しながらも案内を続ける。アルマの住むこの都市キクロフォーリアはディニナーミ帝国において3番目に大きな都市で、人口も多く10歳で冒険者になる者も珍しくはないのだ。
「それでは、こちらに魔力を透してください」
受付嬢はそう言いながら、受付の後ろにある棚から魔導機械仕掛けの土台に、自分の顔くらいの大きさの双三角錐の魔石が乗っているものを取り出してきて、アルマの前に置いた。冒険者ギルドの魔力登録機だ。
「魔石を触って魔力を透せばいいですか?」
「そうです。透していただければギルドカードが作成されますよ」
魔石に触れて魔力を透すと、魔石は淡い青色の光を数秒間放ち、土台から作成されたギルドカードが出てくる。それを受付嬢がアルマに渡してくる。
「こちらがアルマ様のギルドカードになります。紛失しますと再発行にお金が掛かりますのでご注意くださいね」
念願のギルドカードを受け取ると、冒険者になった実感がわく。これからSランク冒険者を目指して頑張ると、アルマは決意を固めていた。
「新規登録者のご案内もできますがどうされますか? 私としては、冒険者は命の危険がある場合もありますし、案内を聞いていただいてから活動をしていただくことをお勧めしています」
「お願いします」
受付嬢はアルマが案内を聞いてくれる子供でほっとした。冒険者の活動案内は、省略を希望する者も多いが、10歳くらいだとトラブルとなるケースも多いのだ。
受付嬢は案内を義務化することを望んでいるが、冒険者ギルドの上層部は自由を愛する冒険者に合わないと考えて義務化までには至っていないのだが、これはまた別のお話。
「まず冒険者ギルドの成り立ちですが、個人で魔物討伐、護衛、採取、調査等を請け負っていた者達が、権力者からの圧力を受けて自由な商売ができなくなったことによって、権力者から身を守るために寄り合って組織したものが冒険者ギルドです。初代メンバーの中には、遺跡調査やダンジョン探索の祖とされるイアーヒ・ペリーぺティアも含まれており、この人が冒険者ギルドの初代会長となりました。ペリーぺティアは実績と人望によりギルドをまとめ上げ、権力に対抗することに成功し、冒険者ギルドの理念として『自由』を掲げました」
受付嬢は、ギルドの壁に掲げられた、冒険者ギルドのマークへ手を向ける。
「ペリーぺティアは、ドランゴンを従魔としていたことから冒険者ギルドのマークはドラゴンをイメージしたものとなりました」
マークのドラゴンは横向きで空を飛んでいる意匠だった。ペリーぺティアがドラゴンと伴に空を飛び冒険を繰り広げたのではないかと、アルマは心躍る想像が掻き立てられる。
「アルマ様が到達できるかは分かりませんが、Aランクに昇格した際には、ギルドから昇格報酬としてドラゴンの素材を差し上げています。Aランク以下でも、冒険者の皆さまの成長に寄与するため各ランクごとに昇格報酬を用意してますので、昇格を目指して頑張ってくださいね」
「Aランクの人はどのくらいいるんですか?」
「キクロフォーリアの中だと4人で、ディニナーミ帝国全体でも20名程かと思います。ちなみに、Sランクは2名で帝都のギルドに在籍中ですよ」
「アナカリプシィ、もしかして帝都にいるんですか?」
「残念ながら、2名の方はアナカリプシィ様では無い方です。アナカリプシィ様は今は別の国を拠点にされていますが、このキクロフォーリアにも空港があるので、たまに魔法飛空船を停泊させていますよ」
「じゃあ、冒険者ギルドで会えたりしますか!?」
「こちらの冒険者ギルドにも寄っていただくこともありますが、休息だけして拠点の都市に帰られることがほとんですので、冒険者ギルドではあまりお会いできないと思います。ですが、Gランクで受注可能な空港清掃のクエストを選んでいただければ、もしかしたら会えるかもしれないですよ」
「そのクエスト受けます!」
アルマは、活動案内が始まったばかりだと言うのに空港清掃のクエストを受けること決意した。運が良ければアナカリプシィに会えるかもしれないということはアルマにとっては、趣味と実益を兼ねる一石二鳥の案に思えているのだ。受付嬢は、Gランクの中でも報酬が多く無いために残りがちな空港清掃クエストをアルマが受注してくれればと話題に出してみただけであったのだが、思ったより食いつきがよいことに少し驚いていた。受付嬢は今にも空港清掃に飛び出していきそうな勢いのアルマをなだめながら案内を続ける。
◇
アルマは、受付嬢からの説明の続きをなんとか聞いた後に、早速、空港清掃のクエストを受注して、空港までやってきていた。
魔法飛空船は上下に離着陸を行うことから、着陸用のヘリポートが空港には置かれている。魔法飛空船は小型のものでも20m、軍艦クラスになると100mを超えるものもある。必然、ヘリポートの広さは100㎡を超える広さとなり、その広さのものが3か所もあるのだ。さらには、魔法飛空船を停める格納庫はアルマから見える範囲だけでも20か所もあり、さらには待合室や受付等の室内施設まである。まず1人では清掃が終わる広さでは無かった。
もちろん、依頼主の空港も全てを清掃してほしいとは考えておらず、空港職員と協力して掃除してもらえれば良いと考えているし、真面目に清掃していればクエスト達成と考えていた。
掃除の内容は、ごみ拾い、掃き掃除、除草等である。アルマは、空港職員の案内に従い、着陸予定の無いヘリポートに立ち入って、トングを握りしめごみ拾いから始めていた。
「なんでこんなに多いんだよ」
アルマは、文句をひとり呟きながらごみを次々に拾っていく。ヘリポートは空港職員と冒険者により定期的に清掃されているとは言え、風によるごみの侵入やマナーの悪い魔法飛空船の乗客や乗組員によるポイ捨てによって、手にしたごみ袋が一杯になるほどのごみが落ちていた。
「お。坊主、頑張ってるな。これなら俺は楽させてもらえそうだ」
空港のおじさん職員が、嬉しそうに声を掛けてくる。清掃は、空港職員を冒険者が補助する形で回っている。アルマが、思いのほかごみ拾いに本気になったおかげで、空港のおじさん職員は自分の仕事が楽になると嬉しそうだ。
「あんまり無理はするなよ。まだ先は長いからな。何か分からないことはあるか?」
「清掃については今のところ大丈夫です。ちなみに、清掃以外のことも聞いていいですか?」
「おう。おじさんに答えられることなら教えてやるぞ」
「ありがとうございます! おじさんは、この空港で冒険者のアナカリプシィに会ったことはありますか? この都市の空港に寄ることがあるって聞いたので」
アルマは、アナカリプシィに会えるかどうかが気になっていた。仕方がない、あこがれだもの。
「なんだあ。アナカリプシィが気になるのか。もちろんあるぞ」
「やっぱり会えるんですね! 僕も会えますか?」
「がっついてるなあ。数か月に1回ぐらいは来てるんじゃないかあ。この国に寄るなら帝都のほうが多いのかもしれんが、行き先によってはここで休息することもあるしな」
空港のおじさん職員はアルマの勢いに苦笑いしながら答える。
「うおおお。僕も会いたい! もし会えたらサインとかもらえたりしますか?」
「サインぐらいなら書いてくれるんじゃないかあ。奴とは知らねえ仲じゃねえし、俺が一緒にいるときだったら声かけてやるよ」
「本当ですか! 毎日このクエスト受けて空港に通わせてもらいます! おじさんはいつもいますか?」
アルマはサインがもらえるかもと有頂天である。もはや、おじさんに仲立ちしてもらう気が満々である。
「坊主のおかげで清掃はしばらく困らなそうだな。別の仕事もあるからいつもはいねえが、週に1日2日ぐらいは顔出してるぞ」
空港のおじさん職員は、清掃に困らなくなりそうで嬉しそうである。
「おじさん、毎日いてくださいよ。」
「まあ、いれるときはな。清掃ちゃんとやらねえと声かけねえから頑張れよ」
清掃の念押しをされるが、アルマはもちろん清掃に手を抜くことはない。あこがれのアナカリプシィがこの空港を使うかと思うと、手が抜けないのだ。
◇
アルマが空港の清掃を初めて1か月ほど、空港は見違えるほどきれいになっていた。アルマが清掃のコツをつかんでからというものの、効率が上がり目立ったごみは見えなくなった。
アルマはアナカリプシィにはまだ合えていなかったが、空港清掃クエストに通いつめていたため、冒険者ギルドの昇格基準を満たしてGランクからFランクへ上がっていた。ランクの昇格は、昇格前のランクのクエストを20回達成する必要がある。
ほとんどの冒険者は色々なクエストをこなして昇格するものだが、アルマは同じクエストだけで昇格するという、珍事を起こしていた。
つまり、アルマの1か月はほぼ清掃に費やされていた。これだけ空港に通いつめると、初日に会話した空港のおじさんとも仲が良くなる。
「ジーアおじさん、今日もさぼりですか?」
白髪でガタイの良いこのおじさん、名前をテクノ・ジーアと言う。
「さぼりじゃねーよ。見回りだ、見回り」
「嘘だー。最近覚えましたけど、いつもほとんど清掃やらないじゃないですか」
ジーアは実は空港の最高責任者であり職務の一環として見回りを定期的にしているのだが、アルマは気付かないで、さぼり癖のあるおじさん職員だと思い込んでいた。
「お前が見てないときにやってんだよ。ほら、始めるぞ」
「はーい。ジーアおじさんがさぼらないように見張りながら、頑張りまーす。」
「この1か月で慣れすぎだろお前。そういえば、定期船以外の魔法飛空船の着陸申請があったから、今日は来るかもな。アナカリプシィ」
「え。やっぱりよそ見しないで全力でやります!」
「まったく。調子いいなあ、おい」
アナカリプシィに会えるとなると当然である。チリひとつ残してはいけない。
◇
アルマがヘリポートの掃除をしていると、申請のあった魔法飛空船の着陸時間が近づいてきた。
「ヘリポート使用の30分前だから、事務所に戻るぞ。危ねえからな。」
「分かりました。着陸の時に脇で見てても良いですか?」
アルマは、着陸時の事故等に備えて整備班が待機している場所で見て良いか、ジーアに確認する。
「別に良いぞ。サインの約束もあったし、一緒に待ってやるよ」
「ありがとうございます!」
事務所に掃除道具を置き、整備班の待機所に戻って来ると、遠くに魔法飛空船が小さく見え始めていた。
「来たか。船が来るの時間より早くねえか。もう少しで着陸態勢に入りそうだから、坊主はちょっと離れて待っとけよ」
整備員と話していたジーアに、声を掛けられ少し待機していると、近づいてきた魔法飛空船が着陸態勢に入る。その船はアルマがあこがれる、パーティー「自由な空」の代名詞、アナカリプシィも搭乗するメーロ・アディア―ゾである。
流線形のフォルムに、大きく斜めに開いた翼、アナカリプシィが開発した最新技術が使用された世界最速の船である。
しかし、本来であれば威風堂々とした姿であるはずの船が、所々に傷が見え、少し煙も上がっているように見える。明らかに戦闘があった痕である。
「これは派手にやったな。落ちるほどじゃねえが、船体にダメージはあるな」
ジーアは少し眉をしかめながらつぶやくと、整備班に声を掛ける。
「整備班、着陸したらすぐ消火活動に入れよ。水魔法で消火だぞ」
整備班は消火用の水魔法の準備を整え、船の着陸と同時に放出する。火はみるみる内に消えてゆき、煙も見えなくなった。
消火活動が落ち着くと船の中から、4名の冒険者と思わしき風体の者が降りてくる。4名の中でもひと際目を引く人物、金髪赤眼の調子の良さそうな男がジーアに声を掛ける。
「助かりました。ジーアの親爺、毎度ありがとうございます。やっぱり、この空港の整備員は手際がいいっすわ」
「今度の登場も派手だったなアナカリプシィ。お前はもうちょっと命と船を大事に扱え。俺たちも心配するし苦労もするのんだぞ」
「前に同じようなことを言われたから、これでも大事にしてるんっすよ。探索してると戦闘も多いし、勘弁してくださいよお」
「成果を挙げてるから冒険者としては正しいのかもしれんが、船の開発に関わった者としては、少しの文句も言いたくなるぜ。優秀な仲間に感謝だな」
アルマがただのさぼり癖のあるおじさん職員と思っていたジーアは、どうやら技術者でもあったらしい。アルマは微塵も気付かずいたため、驚きながらも聞き耳をたてる。
「もちろん感謝してますよ。こいつら優秀なんで、いつも助かってます」
アナカリプシィは仲間に目をやりながら、ジーアに答える。
「それならいい。なんにせよ無事で安心したぜ」
「そんじゃ親爺の小言もひと段落したってことで、俺のパーティにジーアの親爺も入ってくださいよ」
「なんでだよ。いつもいきなりだな。誘ってくれるのはありがたいが、お前も整備できるから俺までいらねえだろ」
「いや。俺より親爺の方が腕良いじゃないっすか。技術者で戦闘もできる仲間がいると助かるんすよ。今回みたいな時に」
「あきらめな。俺はこの街が好きなんだよ。街を出て冒険をする気はねえよ」
「やっぱりっすか。まあ、いつも振られてるんで、そう言われるとは思ってたんですけどね。ジーアの親爺、地元好きだからなあ」
ジーアがアナカリプシィに誘われるほどの腕前の技術者であること、ジーアが地元愛を理由に誘いを断ったこと、そのどちらもアルマには驚きであった。自分が彼の立場だったらアナカリプシィとの冒険を断る理由はない。
「まあ今回は疲れたんで、そろそろ行きますわ。休んだら修理の打ち合わせをさせてください」
「おう。なら、その間お前の船を見させてもらってるぞ。あ。あと、そこにいる坊主がお前のサイン欲しがってるぞ」
そうジーアに促されたアナカリプシィは、アルマを認識する。
「そうなんすね。君、サインなんて可愛いこと言ってくれるね。名前は?」
「アルマです。冒険の話を聞いてずっとファンでした!」
「ありがとな。ちょっとカッコ悪いところ見せたから、アルマ君にはサービスでこれあげるよ。サインより価値あるぜ」
そういうとアナカリプシィは自身の魔導銃を差し出してくる。
「え!! 良いんですか。高価なものでは?」
魔導銃という高価なものを差し出され突然の提案にアルマは動揺してしまう。アルマの安物とは違って、とても値が張るものであるはずだ。
「今回の戦闘で壊れて使い物にならなくなっちまったからな。ファンに貰ってもらえると助かるぜ。わざわざ空港清掃のクエスト受け待ってくれてたんだろ」
「ありがとうございます!! 大切にします。」
魔導銃を両手で大事そうに受け取る。あこがれの人物からの贈り物、意図していない形ではあったが、アルマの色褪せない宝物となった瞬間である。
そして、ふと気になったことを聞いてみる。
「でも、なんで空港清掃のクエスト受けてるって分かったんですか?」
「良い冒険者は観察力があるんだぜ。これから上目指すなら、色々能力を身に着けないとな。じゃあ、そろそろいくか。ジーアの親爺も修理たのみます」
そうアルマに答えるとアナカリプシィは去仲間と共に去っていく。
観察力、それは彼がSランク冒険者として大事にしていることだとアルマは思った。
「良かったな坊主。奴は自分で武器を作ってるから、その魔導銃はこの世に二つとないものだぞ」
「嬉しすぎて最高ですよ! でも、おじさんすごいですね。パーティーに誘われるなんて」
「まあ。年の功だな。色々と経験してんだよ」
「どうやって技術者になったんですか?」
「なんだあ。気になるのか。俺が若いころは、魔法飛空船が出始めたころでな、同じ学校に通ってた仲間内で俺たちも作ってみてえなって話になって、色々と試作してみた訳だが、しょせん素人、まあ上手くいかねえ。なんとか完成させようと思ってな、躍起になって調べてるうちにはまっちまってな、技術者になってたってわけよ」
「学校ですか? 専門のところに通ってたんですか?」
「そうじゃねえ。まだ専門の学校はねえよ。帝都のディニナーミ帝立学園ってところだ」
ディニナーミ帝立学園はこの帝国で最も優れた学校で、貴族や富豪の子が通う学校である。卒業生はこの国の要職に就くことが約束されるほどの名門である。もちろんその名声はアルマも知っており、目の前のおじさんが卒業生なら、なぜこんな地方都市の空港にいるのかも意味不明である。
「ディニナーミ帝立学園、名門ですね…… そこを卒業すればアナカリプシィは僕をおじさんみたいに誘ってくれると思いますか? あと、なんでこんな地方におじさんはいるんですか。もっと偉くなれる学校でしょ!」
アルマは、先ほどの会話でアナカリプシィが戦闘能力のある技術者の仲間を求めていると聞いた時から、自分も誘ってほしいと考えていた。ジーアと同じ能力があれば、誘ってもらえるのではないかと。加えて、ジーアがこんな地方にいることにも驚いていた。
「卒業出来るほどの有望株だったらアナカリプシィも誘いてえと思うかもしれねえが、卒業出来たとしても奴が誘ってくれる保証はねえぞ。お前が卒業するまで何年も掛かるんだからな。その間に仲間も増えるかもしれねえしな。それに、入学するのが大変だ。まず貴族連中が入学するところだから権力が必要だ、権力がねえなら飛びぬけた学力と戦闘力が必要になる。坊主は10歳だったか? 入学までの2年で身に着けるには、かなりの努力が必要になるぞ。それとな、俺は地元が好きだからここにいるんだよ。卒業しても戻って来るつもりでいたしな。」
「それは誘ってもらえる可能性はあるってことですよね。絶対に卒業してアナカリプシィのパーティーに誘ってもらいます! 僕は地元から飛び出して冒険してみたいから、地元に戻ってきたおじさんの気持ち分からないかも」
アルマの素晴らしいプラス思考である。
ここに至ってもアルマはジーアが空港の最高責任者であることに気付けてはおらず、遠慮なく自分の感想を話す。アナカリプシィの言う観察力を身に着けるには、まだまだ時間が掛かりそうだ。
ジーアは正直な感想に苦笑いしながらも、学校の卒業生として知っていることを答えてくれる。地元愛の強い彼は、地元の若者が羽ばたこうとするときには応援することにしているのだ。
「ディニナーミ帝立学園を目指すのは止めはしねえが、茨の道になるぞ。それに、どのぐらいの学力と戦闘力が必要かわっかてんのか?」
「全然分かりません! 必要なこと教えてください。」
「たっく。学力は様々な分野を習熟している必要があって、受験用の参考書に載ってることは、全て分かるくれえじゃねえとならねえ。貴族の生徒が多いから、受験してくる奴らは家庭教師を付けて勉強してるかもな。戦闘力は、普通なら何処かの流派の高位の認定を受けてるぐらいが基準かとは思うが、坊主は冒険者だからC級を目指すのがいいかもしれねえ」
「なるほど、勉強と冒険者のランク上げですか、難しそうですね…… おじさん、ディニナーミ帝立学園卒業しているんですよね。色々と入試まで教えてくれませんか?」
「本当に遠慮がねえな。まあ、条件を吞めるならいいぞ。冒険者のランクが上がっても、このまま空港清掃のクエストを定期的に受けることをな」
ジーアは簡単な条件をアルマに提案する。彼は若者が努力して、その成果が実ることを見るのが好きなのだ。空港清掃クエストを受けてくれれば、忙しいジーアが時間を見つけて教えることができる。ちなみに、清掃はしっかりしてもらうつもりではいる。
「もちろん条件は、それでいいです!」
こうしてアルマは、アナカリプシィのパーティ入りを夢見て、国内最難関のディニナーミ帝立学園の入学を目指す。まずは入試までの2年間が始まる。
努力は惜しまない。人は心に決めた夢があるなら、叶えるために努力できる生き物であるから。