波乱の辺境伯領11
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ええ、キャサリン。少し頭が痛いだけなの」
「このところ、奥まで文献を読んでおられましたし、無理はなさらないでください」
「ありがとう。でも、そのおかげで凶暴化の理由が掴めたかも知れないわ。とにかく、お父様の所に向かいましょう」
文献を丁寧に閉じると、それを脇に抱え歩き出す。
お父様の執務室を訪れすと、既に主要なメンバーが、既に揃っていた。
「それで何が分かったのかな? アリーシャ」
「はい。文献というよりは、当時の村長の日記のようでした」
私は先ほど知り得た事を伝える。
当時と今の現象が似通っていること、そしてそれがカルト集団による人為的だった事を。
重い空気が漂い。
部屋の中に居る全員の表情が次第に強ばっていく。
「……カルト集団。その昔、隣国に潜んでいると噂されていた」
「そうなのですか」
初めて聞く話だった。
「かなり遠い昔に隣国の王族と繋がっているという噂もまことしやかに囁かれてたそうですが、現在ではその存在を知る者は隣国でも、その周辺国てもほとんど居ないのではないでしょうか」
「カステッドの言うように、噂でしかないような話ではある。だが各国の上層部はそのカルト集団の痕跡と情報は共有されていた。とても危険な思想を持つ者達だったのだ」
これって、かなり機密情報ではないんだろうか。
「カルト集団は地下に潜り存在を隠していたが、再び動き出したのかも知れないって事なのかな」
数百年前に蠢いていたカルト集団が、再び牙を剥き始めたのだとしたら。
背筋に氷を当てられたように身震いした。
「独裁を敷いていた王が亡くなり、王位の奪い合いという混乱に乗じて姿を現したのだとしたら、国を平定しようとしているクリスホード王の身にも危険が迫るかも知れない」
お父様の顔には憤激の色が漲っている。
「旦那様、まだそうだと決まった訳ではありませんわ。気をお鎮めください。私達がまずせねばならないのは、落ち着いて状況を確認する事ですわ」
お父様の肩をそっと手を置いたお母様。
「そうだな。我が国にもカルト集団の一味が潜伏して居る事も念頭において、早急に調べなければならないな」
「王都に早馬を走らせておきましょう」
「くれぐれも秘密裏に動くようにと指示を頼む」
「かしこまりました」
カステッドは一礼した。
「お父様、ここ数ヶ月の辺境伯領への人の出入りもお調べになった方が良いかと」
この土地の者ではない人間が増えていたとしたら。
贔屓にしている商団以外が出入りしていたとしたら。
そこから、何かを導き騙す事が出来るかもしれない。




