波乱の辺境伯領2
「お兄様、私の居ない間に水車と風車の計画を進めてくださってありがとうございます」
「いや、僕は話し合いの場所に居ただけで、モルトやぺトラスが頑張ってくれたんだよ」
「いいえ。彼等が強気で頑張れたのはお兄様の後押しがあったおかげだと聞きました」
「そんな風に言われるとなんだか照れるね」
照れたように伏せ目になったお兄様は、年相応の少年に見えた。
「こんなに大きな風車の建設に取り掛かっていただなんて」
目の前にあるのは、首が痛くなるほど見上げないといけない大きな風車の枠組み。
領都の北部にある山脈から吹き抜けてくる風を利用する様に、現在はとても大きな羽根を建設している途中だ。
建設中のそれからは、幾つもの大工仕事の音がした。
水車より、風車の方がとても大掛かりになってしまう。
今建設されているのは、オランダなんかでよく見かけるあれだ。
「お嬢様、おぼっちゃま、良くおいでくださいました」
ぺトラスとモルトが駆け寄ってくる。
「まぁ、貴方達も来ていたのね」
「わしらも、風車が気になりまして。図面を渡して終わりには中々出来ないんのです」
まぁ、そうなるよね。
職人魂に火がついちゃってるんだろうね。
「水車よりも、更に高度に作り上げ無ければいけませんしね。こちらの職人達と楽しくやらせて頂いてます」
ぺトラスも楽しそうだ。
「体を壊さないように、無理だけはしてはダメよ」
「へい、そこは肝に銘じておきやす」
「お嬢様にご心配をおかけする様な事は致しません」
「ならばいいわ。こちらは気にせずに作業に戻るといいわ」
2人の楽しみを奪うわけにはいかないものね。
「へい」
「ごゆっくりして行かれてください。失礼します」
モルトとぺトラスは連れ立って風車の方へと戻っていく。
遠ざかる2人の背中から、やる気に満ちた気配を感じた。
「彼は凄いね。他の職人達を意見を交わして、風車の図面をひき、それを形にしていく。僕なんて風車の仕組みなんかさっぱりだ」
「あらお兄様、私もでしてよ。風車の仕組みなんて何となくでしか分かりません」
お兄様と視線を合わせくすくす笑う。
私の何となくの記憶を、彼等職人達が作り上げてくれる。
立案者なのに、ほぼ丸投げ状態なのだ。
申し訳ない気持ちもあるが、女子高生の記憶はエネルギー工学など持ち合わせていないんだもん。